トラスト Side:千夏
一つ目の扉!
「あっ!」
目線の先には、ラウンドテーブル。これ見よがしに置いてあるまあるいお皿。大広間には焼き菓子が山盛りあったケド、取り分けるお皿はなかったの。こんなところに置いてあったら、誰も気付けないし。
「あれは、ソーサーか」
たっくんがなんか言ってる。たっくんの歩幅なら10歩ぐらいでお皿までたどり着きそう。背、高いし。足が長くてうらやましいの。ちょっと分けてほしい。
「捜査?」
何の変哲もない普通の洋室。妙なところといったら、そのラウンドテーブルとお皿以外の家具が何も置いてないことぐらい。モデルルームでももっと物を置いておくし。生活感がゼロなの。
「ソーサー。ティーカップの下に置く用の皿」
たっくんは、今回のチームメイト。
わたしは神佑大学の法学部卒だけど、神佑大学は文系と理系でキャンパスが違うから、会ったことがないのは当然なの。理系のほうにわたしの知り合いがいたわけでもないし。
「自分、取ってくるっす」
この三人の中なら最年少なアーサーが一歩前に出る。
すると、部屋の明かりがぱっと消えた。
左右の壁からレーザーポインターが生えてきて、レーザーポインターから照射された赤い線がその反対側の壁に突き刺さる。じりじりと壁が焦げている音が、ここまで聞こえてくるの。
「この線を避けて行かなくちゃダメっすかね。たぶん、当たったらやばいやつっすよねこれ」
「ゲームによくあるやつじゃん。プロゲーマーの腕の見せ所だろ?」
面白そう……!
「わたしがやるの!」
アニメとか、ドラマとか、映画とか。いろんなところで見るけど実際に使われているのかわからない、美術品とか宝石とか高値の物を守る仕掛け。体験できるなら、体験したいし。
「いや、秋月さん。この部屋はプロゲーマーの新堂くんに任せて、俺と隣に行きませんか?」
たっくんに止められた。アーサーが「えっ」と振り返る。
「他にも六つ扉があるなら、手分けしたほうがいいじゃん」
「それはそう」
別の部屋にも同じようなギミックが待ち受けているんだとすれば、三人で順番に行くよりは一人二部屋を担当していけばあと一部屋余る計算。効率を考えるんなら、たっくんの言うとおり、分担したほうがいいの。
「ここは二人が応援してくれる流れっすよね?」
「アーサー、がんばれー!」
「ほら、秋月さんが応援してくれたよ。これで頑張れるな?」
「え……参宮さんは……?」
「がんばれ」
「それだけ……?」
「あとはよろしくなの!」
というワケで、わたしとたっくんは部屋を出る。扉を閉めながら「そんなことある!?」って聞こえてきたケド、気にしない気にしない。
「じゃ、わたしはこっ」
隣の部屋のドアノブに手をかけて、入ろうとしたら、たっくんに右腕を掴まれてぐいっと引き寄せられた。力が強い!
「あのさ」
顔が近い。近い近い。力も強いし。なんだか熱い気がするし。
「とりゃっ!」
わたしは能力者を取りまとめる組織である『
能力者が能力者ではない一般人に能力を使うのはよくないコトだとされているケド、正当防衛なら仕方ないし。そもそも能力っていうのは、自らの身を守るためのものだし。
「どわぁっ!?」
いきなり顔に水をかけられて、たっくんはわたしの右腕から手を離して勢いよく尻餅をついた。人間、水が来るってわかっていてもびっくりしちゃうのに不意打ちされたらそりゃあこうなるの。
「いってぇ!」
打ちどころが悪かったっぽくて、痛そうにおしりをさすっている。わたしを怖がらせるからこうなるの。猛省してほしいの。
「じゃ、たっくんは反対側の扉からよろしくなの」
「……い、いまの水、何? 二十代女性の体液?」
「危険なものじゃないの! たぶん」
能力者保護法によると、能力とは『科学では証明できない不思議な力』のコトを指すの。つまり、わたしにも説明できないの。説明できたら、能力って言えなくなっちゃうし。
「たぶんって何」
「わたしのだけど、わたしの能力じゃないし……」
「そんなの使ってくるなって……」
ぐうの音も出ないような正論。わたしの【相殺】は、相手がわたしに向かって使ってきた能力をコピーするもの。同じ力をこっちも使うことによって打ち消すから相殺。仕組みなんてわからない。おそらく相手もどうやって使っているのかわかっていない。わかってたらそれは能力じゃないし。
あと、一度コピーしたものは何度も使えるようになるのがとっても便利なの。わたしはいろんな能力者に出会って、いろんな能力者から能力をコピーして最強のわたしになるの!
「で、何が言いたかったの?」
「もういいよ。忘れた。脱出するまでに思い出せたら言うからさ」
「りょうかいなの!」
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