トラスト Side:タクミ

 というわけで、俺と新堂くんと秋月さんとでチームが結成された。


 マイル先輩と知り合いじゃあなかったら、新堂くんの警戒を解くことは難しかっただろう。持つべきものは顔の広い先輩だな。


 俺って190センチあるから、初対面の相手には確実にびびられる。心の中の「うわ、でっか」って声が聞こえてくる。


 新堂くんはプロゲーマーなだけあって、若いのに肝が据わっていていいな。マイル先輩も最初から俺に優しかったもん。


 マイル先輩との違いは積極性か。先輩は女の子のファンもいるってのに女慣れしていないから、可愛い女の子に自分から声をかけることもないじゃん?


 ゲーム内のマッチングシステムで偶然チームを組んで、いっしょにゲームをプレイしているうちに仲良くなって付き合い始める、みたいな話を聞いたことがある。パソコン版だと、ある程度スペックの高いパソコンでないとゲーム自体が動かない。そんなパソコンを自由に使えるような女の子が少ないから、必然的に女性プレイヤーの数は少ないってことになる。スマホ版なら、今や誰でもスマホを持っているんだし、その気になればいつでもインストールしてゲームが遊べるわけで。そりゃあ、出会いの場にもなるだろ。


 新堂くんはリーダーだって言うんだから、相当うまいんじゃん? 下手なやつがプロゲーマーになるわけないしさ。伸ばしている最中なんだか、中途半端な長さの茶髪を一つ結びにして、メガネをかけていて、一見して地味めな草食系のインドア派男子高校生って感じだけど、実は彼女をとっかえひっかえしているような肉食系なのかもしれない。人は見た目によらない。


「……なんか寒気がするっす。っていうか、すんごく誤解されているような気もするっす」

「風邪引いたの?」

「気のせいじゃん?」


 トイレから戻ってきた秋月さん曰く「他にもお部屋がいくつもあったの!」とのことで「下の階に行こうとしたら、この階に戻ってきたの!」とも言っている。意味がわからない。まずはその不思議な階段へと向かうことにする。手当たり次第に扉を開けて別の部屋を確認してもいいけど、何が起こるかわからないしさ。先に何が起こるか知っているほうを見に行く。俺たちは赤いじゅうたんの上を歩いて行った。


「こんなことになるなら、たーちゃんが来てくれたらよかったの」

「その、たーちゃんっていうのは知り合いっすか?」

「そう! わたしの家の真向かいの交番にいるおまわりさんなの」

「警察官かァ……」


 知り合いに警察官がいる。秋月さん、何の仕事をされているんだろう。おかっぱ頭の可愛らしい女の子で、俺より年下に見える。もうちょい胸にボリュームがあれば好みだった。なんか惜しい。


「不審なお手紙だったから、たーちゃんの立ち会いのもとで開封したのに、わたししか来れなかったの」


 俺たち以外のその他大勢のみなさんも、みなさんなりに状況を把握し始めて、スマホの電波が届いてないだの、やいのやいので騒ぎ始めていたな。誰もが『招待状』を手にして、その案内に従って行動してしまった迂闊な人たちだ。俺は違うよ。


 新堂くんはコナミコマンドを入力したらしいけど(新堂くんと秋月さんの会話は全部聞こえていた。二人とも結構声が通るんだよな)、俺の場合は手紙の内容を読むまでもなく即ワープだった。俺宛の手紙なのに、勝手にモアが開けてさ。


「タクミ宛だったぞ!」


 モアが中身を読んで、手紙をこっちに渡してきて、突然うわっまぶしってなった。気付いたら大広間に到着だよ。わけがわからない。なんでモアは飛ばされなかったのさ。


「らせん階段っすね」

「ここなの!」


 さっき秋月さんが発見した階段に到着する。秋月さんが率先して「行ってくるの!」と階段を降りていき、


「やっぱり、戻って来ちゃうの」

「次、自分が行ってみるっす」


 新堂くんが降りていく。下の階には行けずに戻ってきた。女だからってわけではないらしい。


「俺も行ったほうがいい?」

「もしかしたら、身長制限があるかもしれないの! 大きい人しか通らせてもらえません?」

「そうっすね。行ってみてほしいっす」


 俺だけが下の階に行けたならそういうことになるか。そしたら、さっさと帰れるな。なんて思いながら、二人に見送られて階段を降りていったけど、足元に二人の顔が見えてきて、俺もこの階から出られないのだとわかった。


「となると、この階になんらかのキーアイテムがあるっすね」

「それか、ここに閉じ込められたままもう帰らせてもらえないとかな」

「それは困るの! お菓子は美味しかったケド、お菓子だけじゃ生きていけないの!」


 さて。

 この七つの扉の、どこから行こうかな。

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