第2話 武力vs愉悦
北欧元軍神ジークフリートは北欧最強と謳われるトール神の永劫の宿敵であり、武力で圧倒的な指示と信頼を受け、その高位さに全てが与えられ、なに不自由なく過ごしていた…
では、ジークフリートはなぜ、堕ちてしまったのか
《地上宇宙”バース”と天界宇宙”ゴットバース”は同じ10つの海で構成されている
天界宇宙”ゴットバース”では、それぞれの海が神域となり、その海で一番強い神界が政権を牛耳っている》
夜の海を牛耳るのは北欧神界
そよそよと風の吹く草原に、大柄な神がドカッと寝転がり、いびきをかいて寝入っている。
「また問題行動を起こしたのですね、ジークフリート」
「んぁ?」
トールの声で、フガッ、と起き上がるジークフリートはまだ寝ぼけている。木に寄りかかり、呆れた顔をするトールとは対照にジークフリートはどうでもいいと思っているようだ。
「ユミル殿が怒っていました、あなたが訓練と称して氷の神殿を粉々にしたので………父上が困っていましたよ」
「あ゛~、んなこと気にしてんのかよ…めんどくせぇーなー」
ピョイと飛び起き、ぼりぼりと頭をかき、ズンズンとどこかに行こうとする。
「ジーク、あなたの行動は目に余ります…豊饒の儀は大人しくしておいてください…これ以上は庇えれません」
二柱にとっては日常的かつ何気ない会話が、北欧の面汚しと云われる最悪の事件を引き起こす。
‘豊饒の儀’は北欧神界にとって大切な行事である。北欧の神々が集い、ユミルの竜に祈りを捧げる。そうすることで、皆の祈りが竜にとっての力となり、北欧の守護竜としての役割を果たすのだ。
竜は北欧の宝、ユミルの愛竜として崇められていた。しかし、これをぶち壊したのが、ジークフリートであった。
ジークフリートは豊饒の儀に主賓として招かれた立場であるのに、ユミルの目の前で竜の絞殺を行った。
ユミルは激昂し、トールは呆然とし、オーディンは頭を抱え…夜の海は大混乱に陥った。後、捕縛されたジークフリートはこう語っている。
「つまんなかったな」
ギリシャ専用観戦室
「苦労したよ~?あの神に合わせるんなら、あの怪物じゃないとねぇーーえ…お仕事ご苦労様~……お•と•お•さ•ま♡」
スーツ姿の白髪お団子ハーフアップの男、刺青が首から見える。タバコを咥えて、柘榴の細目が虚ろになっている。
ギリシャ神界序列2位時空の神クロノス
「息子の頼みだからな」
「そゆことにしといてあげる♡」
ゼウスは来てきて、と子供のようにクロノスを横に座らせてベッタリとくっつく。
「一緒に見よっ!」
「よいぞ……私の積んだ駒がどうなるか、」
ジークフリートはグルグルと肩を回して、いかにも何かを仕掛けようとしてくる。小角は、そんなジークフリートを正面から迎え撃とうとしているが、妙なオーラに当てられている。
(なんだろうな、この奇奇怪怪なる呪力…いや、北欧ならば魔力なるものか…)
思考を巡らせていると、
「往くぜぇ」
真っ正面からジークフリートが突っ込んでくる。竜族はこの手の扱いには慣れている。誰もがそう思っていた。北欧以外は…
重点が低い体勢で突進してくるジークフリートのスピードに呆気にとられて、咄嗟に腕でガードする。ガードした瞬間にジークフリートの拳が小角の腕をベキッ!、と音を立てた。予想値にしなかった一撃に怯む小角と、瞳孔が大きく見開いているジークフリート。
「まだまだぁ!!」
ジークフリートの大きな構えを見て小角が避けると、その拳は地面へと流れて凹みを作った。
「い゛⁉」
驚く小角ではあるが、体勢を整えて、拳をぶつけ合う。1、2、3、4発と鈍い音とともに猛攻が続く。急に小角の視界からジークフリートが姿を消した。どうなっているのかと思考が停止する小角に、下から、
「こっちだぜ」
しゃがみこんでいるような体勢だが、踏みこみの体勢であることがわかる。素人でもわかる、拳が来るであろう、と。だからこそ、小角も’あれ’で防御する。
ジークフリートは大きく踏みこんで、両手を地面につけて足をあげる。その反動を利用して、小角の脹ら脛を力任せに蹴る。小角は壁にめりこむ程打ちつけられた。
「フム~、低重心姿勢でのカーフキックか…意識上でのフェイント、か?」
日本専用観戦室にて、白と
日本’正一位’五穀を司りし
「あの御方、とても素敵ね」
白群と瓶覗きの衣裳姿、露草色の瞳と髪、横髪をお下げにしているので綺麗ではあるが幼さが残る女神がジークフリートを見て、ポッと頬を赤らめて言い放つ。
日本’正二位’水を司りし女神ミヅハノメ
「おんめぇ~、見境ねえな~」
「あら? 素敵な殿方がいらっしゃるのなら私は構いませんわ」
「フッー!…ユミッちゃんが天界宇宙”ゴットバース”へ足を踏み入れんの禁止したはずなのに!…規則破るギリシャに、それを睨みつける北欧、それを許した統治神5柱……んで…姉怒らせて未だにこっちに来れてねえ馬鹿どもと、男癖の悪い日本…カッー!、まともな神がいねぇ」
ソファーに足を開いてもたれかかる宇迦之御魂大神を他所に、ミヅハノメは前に出て闘技場を乗り出して見る。
「ああ、ジークフリート様…このミヅハノメに、もっと、みせてくださいまし」
瓦礫をどかして小角が立ち上がる。
「(あいつ容赦ない)……来る」
「お前頑丈だなぁ!!」
実直なまでにジークフリートが殴りかかってくる。小角は重い身体をあげ、壁を蹴って間一髪で避けた。
「ガーハッハッハッ!!!珍妙な小細工野郎だな、けどな、俺にゃ効かねぇぜ!」
またも愚直で実直なジークフリートの突進に観客はヒヤヒヤする。獣の鋭い眼光を向けるジークフリートから、闘技場を覆い尽くす獣のオーラが放たれる。
『この闘争の肝は人類と神との共闘…選抜人類の能力だけではなく、’神の権能’をどう活かすか……さあ魅せてくれ、不徳の大英雄、そしてギリシャよ!』
「おい、ギリシャの神、そろそろギア上げんぞ!」
『五月蝿ぇ!』
ジークフリートが呼び掛けると、ジークフリートの脳天を突く声で反抗された。ポリポリと耳をかいてうるせえな、と思う。そして、もう一度、足を引いて、筋肉に力を巡らせて構える。
「受け止めてみせろや」
ジークフリートが踏み込むごとに地面が凹んでいく。軌道が分かっているのに、小角は避けれないと判断して、まるで刀を使って防御しているように、ジークフリートの拳を受け止めた。と思ったが、ジークフリートの手は拳ではなく、何かを掴んでいた。
「どうやって…」
「あー、これがお前の武器ってか?…」
(焦るな焦るな! この距離だ、高威力のパンチはできない)
「なんて思っているのでしょうね」
観戦室にてトールがユミルを一瞥しながら不遜な顔をする。タンタンと貧乏ゆすりをして、鬼の形相でユミルがジークフリートを睨む。
「あの馬鹿が軍神として特出していたものは圧倒的な破壊力、それよりも恐ろしいことはどんな状況下でも一定以上の威力を出せること」
ジークフリートは何かを掴んでいる手に力を入れて小角を近づけさせる。
「じゃあな」
ジークフリートの拳が小角の脇腹に当たった直後、小角は宙に浮かぶ。浮いた小角は一回転して着地する。だが、どうにも様子がおかしい。小角は脇腹を押さえているのと、大量の汗が流れ出ている。
「ここまでいくと……タフってレベルじゃねえな」
ジークフリートは口角を上げつつも、冷徹な目を向けて放つ。観客が小角に注目していると、小角は腕をどけた。
「「「「!!!!」」」」
闘技場が驚愕する。小角の脇腹は穴が空いており、そこから赤黒い血がダラダラと流れている。
『な、なんということだ!!ジークフリートのたった一撃の拳が!互角と思われていた試合に旋風を起こしやがった!!
一体、どうなってやがる⁉』
ヒヤルムスリムルは進行の役目として実況をするが、何が起きたのか分からずにいる。
北欧専用観戦室にて、ユミルが観戦室を覆う殺気を放つ。
『やっと解ったぜ』
「お前の愛竜が死んでしまった理由が、か?」
『私は疑っていた、神であろうと権能が授けられた私の愛竜がたかだか、あのくずにやられては……だが、竜族とやらの餓鬼を見て解った』
「ジークフリートの一定以上の威力というのは’竜を穿つ’ということですか…いやはや、面白いですね…ですが、それよりも面白いことは音がしなかったことです」
トールの発言はオーディンも考えていることだ。オーディンは顎髭を触りながら、ジークフリートと小角を交互に凝視する。
(
(アハッ! あの爺もう気づきやがった、そうだよーん! ジークフリートの最強の拳を更に最強へとさせし力、それが)
「攻撃エネルギーへの100%変換…ですよね」
ブルーポルスレーヌのクラゲヘアの少女、首飾りで留められているキトンを纏い、フラゴナールの瞳と唇から、美しくも純粋なる少女
ギリシャ神界序列49位冥界妃ペルセポネ
「あれれペルちゃん、その格好でいいの?」
「はい、ハデスが天界宇宙”ゴットバース”ならば、これで問題ないと」
「相も変わらず冥界に閉じ籠ってるのか、ゼウス」
「分かってるよ〜、いいじゃん…そのうち来るって!それよりも上手いこといったね」
ゼウスは顔をひきつらせて嘲笑う。ペルセポネはウズウズとゼウスを見つめる。
「発生したエネルギーを、目的のエネルギーへと100%変換させることは不可能、まっ! 僕はできるけど…ジークフリートの拳は攻撃エネルギーに変換効率はたったの50%、それじゃあつまんなーい」
「ジークフリートの拳の変換効率を攻撃エネルギーに100%変換させる………竜を穿つ拳を神を穿つ拳にするためか、考えたな」
「パピー! そうでしょそうでしょ? このために考えたんだ~! 誰もがギリシャの力に圧倒され、畏怖し、敬い、這いつくばる! あの統治神5柱でさえも、ウハ! 興奮してきた♡」
『プレゼント確かに受け取ったよ、ゼウス』
他の神々の個室よりも1等豪華な統治神5柱専用の観戦室、口を隠しながらフフフと穏やかに笑うガイア
『てめぇらのガキを出してきやがるんだな』
椅子のひじ掛けに肘を立ててタルタロスがほくそ笑む。
スーツのような祭服と魔術師の服を合わせた闇を表す黒き神服を纏い、ベンタブラックの目は光をも吸収する。極寒たる冥界を表すスノーホワイトを黒の紐で三つ編みに結い留め、尖った耳にはイヤリングがつけられている。
統治神5柱深淵の王エレボス
『エネルギーという仮想を操る権能を持つアイテールか…
「どういうことっすか?」
死の神タナトスが眠りの神ヒュプノスが淹れた紅茶やコーヒーを差し出しながら尋ねてきた。エレボスはコーヒーの注がれたカップをとる。
『神と選抜人類の共闘の術は大きく2つに分かれている。この戦いのように神が人類の肉体に憑依し
エレボスはコーヒーを口に運ぶ。そして、ジークフリートを、否、ジークフリートを覆うオーラを見る。
『アイテールは、権能を完全に譲渡しているわけではないな』
「問題が?」
『人類と神とでは神が優れているように、人類の叡智は権能に呑み込まれる…
「おじ様はどう思いますか?」
ふわふわとした雰囲気のヒュプノスがタルタロスに話しかける。月餅を食べていたタルタロスはうーんと考え、口についていたくずを取り、口に運ぶ。
『信頼だろうな』
「信頼…」
ペロペロと指をなめ、茶を飲むタルタロスをヒュプノスはじっと見つめる。
『ま、アイテールには無理な話だろうがな! そうだろう? ニュクス』
朱と黒の唐装漢服、
統治神5柱夜の女神ニュクス
『あやつは天空の燦然たる光を表したる神、妾とエレボスのように何人も拒まぬ質じゃが、何人も信頼に価せぬという
「知識としては知っていましたが、やはり面妖な
小角に話しかけるサリーを身に纏い、ティッカをつけている女神
インド神界序列12位殺戮の女神カーリー
霊体として姿を見せる。
「ごめん、せっかく撰んでくれたのに……」
「気にすること御座いません、今からでしょう?」
深傷を負わされて気の落ちていた小角をカーリーは慰める。
『はっ! なんだなんだ、もう終いじゃねぇのか』
慰めていると、アイテールも霊体として姿を見せた。金色に輝かせたる髪と、シアンとルーカスのオッドアイ
ギリシャ神界序列39位大気の神アイテール
「これはこれは原初様では御座いませぬか、高貴な御方が屑野郎と共闘などとは…上天の光明は地に堕ちましたか?」
『殺戮を愉悦と刺し違えるような
「本当にギリシャは偉そうですわね、いいです、その虚勢も今だけですから」
『お前らの言う虚勢とやらはギリシャとインドの覆ることの無い格差を、まだ理解してねぇんだな!』
「格差ではなく
小角とジークフリートそっちのけで、カーリーとアイテールは言葉の決闘をし合う。バチバチと火花が飛び散る闘技場、しかしながら……
「カーリー様! もっと言っちゃってくださいーーー!!!」「ギリシャに鉄槌を!」
「アイテール様、そのような下賤なるインドに負けないで!!」「鼻伸ばし野郎どもに、我らの力を~!」
観客席のギリシャとインドの神々はいがみ合い、声援を送るほど熱狂の渦が巻き起こり始めた。
「小角」
「いいよ!」
カーリーが小角の手を握ると、そこを中心として暗黒に包まれていく。闘技場全体を覆った暗黒に観客は戸惑う。瞬間、背筋が凍るような恐怖に襲われる。
(…なんだぁ?)
ジークフリートが警戒して動けない中、小角が歩み寄ってくる。1歩、1歩と近づいてきて、無防備な状態でジークフリートの間合いに入ってくる。何もかも異様で、薄気味悪い小角に誰も目を離すことが出来ない。
小角が話しかける。
「君は武力を求めて、武力を重視するギリシャと共闘したように僕にもあるんだ、 教えてあげる、僕が選抜人類になった理由を…
そして、音無き拳の返礼を!」
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