仙人大戦"ヘシオドス"

尊大御建鳴

第1話 仙人大戦"ヘシオドス"開戦

《この宇宙は10つの海に分かれており、人類により多くの宇宙国家が存在する地上宇宙”バース”と神々の住む天界宇宙”ゴットバース”が存在する》


天界宇宙”ゴットバース”、オレオール

10つに分かれている各の神域[海]が集まる場であり、主には会議のために使われている。

オレオール大会議、すべての神々が集まっていた。ガヤガヤと、他神界の神と神とが話している。席の横の階段を5柱の神が歩くのを感じ取ると話をやめて静まり返る。その5柱の神は下っていき、一段くぼんだ大きな場所に用意されている椅子へと腰を下ろした。

『今日はよく集まってくれたね』

膝まである銀髪のモノトーンコーデの漢。

光のない紅緑だが、柔らかな声と瞳が話しかける。すべての神々の頂点に立つ始まりの神であり、神を統べる統治神5柱混沌神カオス

『私の統治から早5万年、そして地上宇宙”バース”では人類の対立に終止符がついたのが1000年前…私は身を引こうと思っている』

カオスの発言に周りは動揺を隠せない。

『私の後継を決めようと思ってね』

「ハ~イ」

そんなざわめきの中で1柱の神が手を挙げてヒラヒラと主張する。黄金の林檎を表したかのような美しいショートの髪と碧眼の男神、ギリシャ神界序列1位全知全能の神ゼウス

「それなら~、ギリシャじゃな~い?」

金色の刺繍の施された真っ白なキトンを身に纏っているのに、その顔は悪魔のように欲にまみれた顔、しかし、ゼウスの発言に異を唱えることは上下関係の厳しい天界では困難である。

「待て、ゼウス」

「!」

ゼウスの発言通りになりそうなところに異を唱える神がいた。ローズマダーのミョンと跳ねた前髪と肩にかかるくらいの長さ、白のアゴヒゲ、黒のコートを羽織っているイケオジな男神、北欧神界序列1位魔術の神オーディン

「カオス殿にも考えがある、まずは聞け」

ローズグレイの瞳がゼウスを見据える。ちっ、と舌打ちをするゼウスを隣にいたゼウスの正妻ヘラが宥める。

『ありがとね、オーディン…確かに規模と質、それを考慮すればギリシャが妥当だ』

カオスの発言にギリシャ勢は得意げにする。

『それじゃあ、公平じゃない…私は最強の神話を見極めたい』

「して、その術は…」

下半身だけのガラベーヤは黒と青を基調としているが、襟飾りを始め黄金の装飾具をつけており、王者の風格を漂わせている。かきあげられた黒の髪のインナーカラーのエジプト神界にとって特別なエジプシャンブルーが輝いている。細身の屈強な体からは想像できない眠たく、心地好い声、エジプト神界序列3位死と復活の神オシリス

エジプシャンブルーの瞳がカオスをゆるりと問う。

『―神と人類の共闘による代理戦線、仙人大戦”ヘシオドス”』

シンと静まり返る。ゼウスは呆れ、オーディンは理解しているが意味が分からなくて、オシリスは微笑んでいるが内心笑っていない。

「祖父ぃ…それぁ何の冗談だ?」

イエローゴールドのハーフアップ、ブルーゴールドの瞳がきっと睨み付ける。2mは越えているであろう長身を引き立たせる青チャイナドレスと纏足の女神、道教界序列2位女禍

『私はふざけていないよ…だけど、君達はチャンスだと捉えなさい』

『フフッ、そうね』

「「「「!!!!」」」」

今まで話していたカオスではなく、統治神5柱地母神ガイア。セラドンの美しき髪にはパラモンガイアが飾られていて、真っ白なドレスは清楚な美神を体現させている。

ガイアが声を出したことに他の神々は声を上げず、驚いている。

『仙人大戦”ヘシオドス”は拒否する権利はあるわ、そうなると私達の末妹に、また御願いしなきゃいけないわ』

「ええ~ん!? ちょい待ち~!いやいや、あれに任せるのはさあーーあ?可笑しくない!」

ばん!と大きく机を叩いて立ち上がるゼウス。用意されたクッションにもたれかかり、半分横になっていた姿勢から立ち上がって、統治神5柱を瞳孔の開いた瞳でジト見する。

「いくら貴神[あなた方]であろうと、それは承諾できん」

ゼウスの言葉に賛同するオーディン。

『そうかそうか!ここまで言っても分からんか!』

ガハハッと赤褐色の肌で白と黒のツートンカラーを金の簪で結い上げた男神が嗤う。ギリシャの神には似つかわしくない和装、柘榴の瞳がゼウスへと注がれる。

『最強になれば全てを手にいれられるようなチャンスが転がっているのに…それを蔑ろにすんのは…統治神[俺達]への侮辱じゃねぇかい?』

統治神5柱奈落神タルタロスの軽い殺気に戦慄が走る。反対の声を上げていた神々は黙り込む。

(なるほど、これは断れないね…末妹が何を望んでいるかも分からないのに、玉座を手にするのは…)

黙って見ていたオシリスは、エジプシャンブルーをゼウスへと向ける。

(天下は我等ギリシャのものだと誇示するような態度…まったく)

「気に入らないな」

「父上?」

ボソッと呟いたオシリスの隣にいたホルスが名前を呼ぶ。オシリスはニコと目を細めてホルスに微笑む。そして、手を上げる。

「やりましょう、仙人大戦”ヘシオドス”」

『おっ!珍しくエジプトがやる気だねえぃ…で?他は』

「はああー!結果なんて目に見えてんのに…ま、いや!ギリシャ[僕達]が叩きのめしてやるよ」

「かったりぃ、道教界[あいつら]に話さなきゃなんねえな」

「実に愉快なことだ」

オシリスの賛成から他の神々も賛成の声をあげる。カオスは手で口元を隠しているが、口角が上がっているのを、大会議室の端で見ていた神は捉えていた。

青蘭の着物に白無垢と綿帽子のような真っ白な外套を羽織る檳榔子黒の髪、青白磁の肌は雪を思わせるような、天色の円らな瞳は霙を思うような少女、日本神界専属戦天使”ヴァルキュリー”ミスト

「やるのね、カオス様の言った通りだわ…ねえ、ヘルヴォル」

座っているミストがチラリと上を向く。金髪金眼、金のイヤリング、漢服の袖が大きく、そこにも金の糸で刺繍が施されている。北欧神界専属戦天使”ヴァルキュリー”ヘルヴォル

「カオス様がそのように仕向けたのです」

腕が見えないほどの袖、こてんとヘルヴォルが小さく頭を傾けると、ヘルヴォルの尖った耳がピコピコと動く。ヘルヴォルはスマホを取り出して、他の戦天使ヴァルキュリー”に連絡をする。ミストはじっと神々を見つめる。

(たった一滴の雪が落ちて、凍りついて、神の思考さえも凍結させているわ)

仙人大戦”ヘシオドス”開戦へ、声が高まっていく。カオスは立ち上がり、両手を広げる。

『仙人大戦”ヘシオドス”開戦を決す!!』

高らかに宣言され、興奮が熱狂へと沸き立つ!




「やってらんない!」

直袖深衣型の漢服、紐で防具を腹に止めて、濃紺の雲と霞の紋様の袖羽織、呂色の波打つ髪、冷徹な瞳から織り成される、寡黙で耽美な顔からは暴言が吐かれる。

カオス専属戦天使”ヴァルキュリー”ヒヤルムスリムル

コツコツと石畳の廊下を歩いて、ヘルヴォルとミストから聞いたことに腹を立てる。

(折角、カオス様の我が儘[命令]が片付いて暇ができたと思ったら…)

スマホの画面を見る。

《ヒヤルムスリムル、司会進行宜しく

              byカオス》

(これがなければ!今頃!)

ヒヤルムスリムルはスマホを強く握りしめる。そして、ゴロゴロと寝っ転がりながら、惰眠を貪り、お菓子をバクバクと食っていた、仕事のない自由な時間を思い出して嘆く。

「おい!」

「ん? ああ、貴様ですか、ヘイルダム」

泣く泣くと壁に向き合って、休みとの別れにうちひしがれていたヒヤルムスリムルに声をかけるウルフヘアのマンダリンオレンジの男。190cmある長身のヒヤルムスリムルにも負けない曼陀羅のコートを羽織るスーツのようか姿、北欧神界統括戦天使”ヴァルキュリー”ヘイムダル

「おうよ、残念だったな、折角の休み」

「そうですね、これも全てカオス様のせいで…」

「いくら愚痴ったって意味ねーよ!神さん見てきたけどもう、殺る気だ…」

「まったく、運営の身にもなってほしいです…それよりも第1回戦の人類は?」

「ん」

ヘイムダルから渡された書類、おそらく急ピッチで進めたのでデータにできなかったのだろう。既に各神界の代表として出場が決定している人類達、それを見てヒヤルムスリムルは書類を瞠目し、止まった。

(うん…まあ、そんな反応するよな)

「これは…なんてこと…」

「断るの無理だかんな、オーディン様には運営だから任務は外してもらったから、俺も手伝えるけ、ど」

ヒヤルムスリムルを慰めようとペラペラと話していたヘイムダルの肩を力強く掴んで強張った表情をしているのかと思いきや、ただ楽しいものが観られるという稚児の表情をしている。

「さっさと行きますよ!ヘイムダル!暇なんでしょ!」

「お前のサポートを、オーディン様から命じられてんだよ!!」

コートをグイグイと見た目どおりの力で引っ張りヘイムダルを連行する。ヘイムダルは少しばかり抵抗するも、興奮と期待に満ち溢れたヒヤルムスリムルは止められない。回廊の先に見えた光に向かって走る。

ワアアー!!!

仙人大戦”ヘシオドス”の会場、闘技場”オレオールコロシアム”には神と人類の観客がいつ始まるのか、どこが勝つのかということを口々に話していた。

円上のコロッセオの観客席には人類や下級神などがいて、個室には上級神が寛いで専属の戦天使”ヴァルキュリー”が神々に従って動いている。

「ヒヤルムスリムル様、こちら」

見習い天使がマイクと端末をヒヤルムスリムルに渡す。端末を起動させて、タンタンと操作する。ヘイムダルが横から覗き込む。

(始めからぶっ飛ばしてんな、カオス様)

他の個室より一際目立つ観戦室には、統治神5柱と、ヒュプノスとタナトスが給仕をしている。こちらに気づいたカオスが手を振ってきたので、内心驚きながらも一礼する。

キィィン!

ヒヤルムスリムルがマイクを起動させ、会場が暗転し、光がヒヤルムスリムルに集まる。ヒヤルムスリムルに視線が注がれる。

「皆様、遠路遙々次代の統治神を決定するこの決闘にお集まり下さって感謝申し上げます…なーんて、堅苦しい御託は要らねえな!!そこ!沸いてっか!?」

「「「YEAHーーー!!!」」」

「ルールは至って単純!神界代表と、選び出した人類が共闘!共に気絶させた神界が次の決闘への出場権を得る!」

ヒヤルムスリムルが指差したフロアは待ちわびた、と言わんばかりの歓声がコロッセオを湧かす。

(こんなとこがカオス様が気に入ってんのな…)

ヘイムダルが真顔でヒヤルムスリムルを分析する。フロアの熱狂が最高潮に達したと感じ、ヒヤルムスリムルが口元に指を当てる。すると、フロアは静まる。

『第1ラウンド、仙人大戦”ヘシオドス”第1回戦を飾るのは…神といえば、誰もが思うであろう…強さ、柱、逸話、強姦、強奪、裏切り、全て揃う神界!! ギリシャーー!!』

ギリシャ専用観戦室、ゼウスが不敵な笑みを浮かべる。


『ギリシャ選抜人類はこいつだ!!

北欧が生み出した史上最悪の英雄、軍神として圧倒的な地位と支持を受けた、誇るべき神…しかし、こいつは赦されざる大罪を侵し、人に堕ちた…一体こいつは何がしたい!? 何を求む!? 魅せてくれ!! お前の最終地点!!

不徳の大英雄ジークフリーート!!』


サバイバルパンツ、透ける胸までのタンクトップからは鍛えあげた筋骨美が表れる。手の甲までの肘当てのような手袋には装飾として贅沢にも宝石がつけられている。スペサルティンガーネットの瞳が隠れるほどのアクロアイトの短髪の2mはあるであろう男は、気だるげな態度で、元神であるのかを疑うような風貌だ。

北欧専用観戦室、オーディンがゼウスを睨みつける。ゼウスも負けじと睨みつけ、会場に重い空気が充満する。

(恐っ…)

『さあ、続いて、ギリシャに対抗せし神界!

数ある神話の中でも異質を放ち、愉悦を重んじるインド!!』

「「「おう!!」」」

ヒヤルムスリムルがそう言うとインドの神々が声をあげる。


『インド選抜人類を紹介するぜ!

地上宇宙”バース”に多く存在する一族、その中で頂点に君臨する竜族から選抜! 

闘うことを己から禁じ、武を放棄したコイツは、何故!現れたのか!? 選抜された故か?

そして、なに故に闘うことを撰んだのか?

我々に魅せてくれ!

偽善の呪術士たる役小角~~!!』


裳形の束帯で腰は紐で留めている。銀の長髪を笄で結い上げる少女のような幼い顔の、竜族役小角という男は真剣な面持ちで立っている。

「初戦から有り得ないカードが実現!! 表立った戦いを禁じられている玄武と、元神のタイマン!! それでは、Lady fight!!」

ヒヤルムスリムルがスタートを告げると同時に仙人大戦”ヘシオドス”の開戦を告げるゴングが鳴り響く。観客が盛り上がるなか、小角は動こうとせず出方を伺っている。

「ふわあ~~っ」

どう動くのかと会場に緊張が走る空気で、ジークフリートが大きな欠伸をして、腕を伸ばす。会場が静まり返り、観客はポカンとしている。

「ああー、寝っみ…ギリシャ[あいつ]から強え奴と闘えるって期待してんのに、餓鬼とか…まじ萎える」

がしがしと頭を掻いて、やる気のない発言をする。

(おいおい、七大一族最強の竜族だぞ…)

ヘイムダルがジークフリートの発言に有り得ないという反応をしている。しかし、それは正しい。地上宇宙”バース”には多くの民族や一族がある。その中でもトップである七大一族の更にトップであるのが竜族。武力を重んじる一族だ。

「おい、ヒヤルムスリムル…大丈夫なのか?」

「…何がです?」

「勝負になるのか?あの態度、」

「普通に考えて非常識極まりないです、が、それが罷り通るのがジークフリートです」

ヘイムダルが心配そうに中央を見る。ジークフリートはめんどくさそうな態度を取る。しかし、ガーネットが光ると、一瞬で小角に近づいてパンチを放つ。小角は腕で防御していないのにジークフリートのパンチを防いでいる。しかし、そのパンチの威力は小角の後ろをぶっ壊してしまうほどのものだ。小角の後ろにいた観客は衝撃波を受けてしまい、一部気絶している。

「救護班を…」

「もう呼んでる」

ヒヤルムスリムルが指示を出す前にヘイムダルが動いたおかげで、天使達が傷をおった観客を移動させている。

怪我をさせた当人は全く気にとめていない。小角は一瞥して、ジークフリートに殺意を向ける。今度は小角がジークフリートに拳を放つ。ジークフリートは腕をクロスさせてガードしたが、後退してしまった。彼の腕はシュゥゥと音を立てている。

(威力のわりに痛くねえな、それと俺のパンチは術無しで無傷な代物じゃねえ…こりゃぁ、なんかあんな)

ペロリと舌舐りをする。

「お前、ただの餓鬼じゃねえ~な!」

「一応…先代王の右翼だったからな」

「ふーん、契約には申し分ねぇ…」

「………」

ジークフリートは手を顎に当てて、楽しんでいる。それもそのはず、本来ジークフリートの一撃を受けて再起不能だった神は10柱にも満たない。それが人間ごときが防いだのだ、唆られない訳がない。

「楽しませてくれよ…どうせ俺が克つけどな」

「………」

始めの気だるげで、やる気のない雰囲気から一変して、圧倒的なオーラを放つジークフリートの言葉に、小角は無言で返事をする。


北欧専用観戦室内にて、

赤きアンタレスを表すかのような洋紅色の髪を緩くハーフアップで纏める。開いた幕から黃星の瞳が現れる。燃え盛る髪と瞳とは正反対に闇夜を象徴するかのような黒い服を纏う。耳にはキラリと光る山羊のピアス。

北欧神界序列2位雷神トール

雪の瞳、雹の髪、短パンとシャツの上に半透明のパーカー着ている少女、彼女からは冷気が放たれている。

北欧神界序列3位原初の巨人神ユミル

「父上、これ分かってました?」

「そんなわけないだろう」

『初戦を汚点野郎が飾るなんてな』

ユミルは見た目からは想像もできない低い声と口の悪さを出す。口の悪さだけでなく、椅子に胡座をかいて座るユミルと、正反対に足を組みながらも背筋をピンと伸ばすトール。

「縁を切ったとは言え、元は北欧を守る軍神です…それを出すなんて、どれだけ積んだんでしょうね」

不遜な笑みを浮かべながらトールがオーディンを見る。オーディンは頭を抱えて、溜め息をつく。横から酒の入った杯を差し出され、オーディンはグビッと飲む。トールとユミルにも酒が差し出される。

黒髪の葵い目の双子の男子、オーディン専属戦天使”ヴァルキュリー”フギンとムニン

ムニンが飲みほされた杯を下げている時に、フギンの端末が鳴った。

「オーディン様」

すっ、とフギンが端末をオーディンに見せる。

(これが…)

それは仙人大戦”ヘシオドス”の対戦表、オーディンは顔をしかめているが、ひょこりと覗いたユミルはフフッと嗤う。

『面白くなりそうだな、』


ギリシャvsインド ― 天使vs道教

アッカドvsシュメール ― 仏教vsポリネシア

アステカvsローマ ― ウガリットvsエジプト

北欧vs日本 ― イスラムvsアボリジニ

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