第三十一話「助太刀」
「看守さん、俺達怪しいもんじゃないです」
「……いくら言おうと無駄だ」
ここの看守は厳しいみたいだ。『アレン王国』の看守さんは優しかったのに。あの看守さんが例外だったのか。
「柊さん、私お花摘んでもいいですか?」
「え……あートイレか」
「せっかく濁したのに言わないで下さいよ!」
「分かった。目瞑っておくからいいぞ」
「……いや、あっち向いてて下さいよ。あと耳も塞いで下さい」
注文の多いフィーレだな。
「分かったから早くしろ」
「……はい」
……俺は目を瞑り、手で耳を押えながら考える。この檻から出る方法を。
まず、檻は鉄だ。俺なら力ずくで開けられるだろうが、看守が巡回しており、その隙がない。『アレン王国』の時はそもそも囚人が俺しか居なかった。故に看守も一人だった訳だが、ここは違うようだ。大きな街という事もあって、囚人が俺たち以外にも居る。つまり、看守の目を欺こうと、囚人の目がある以上より抜け出すのは難しく…………
「…………おい、今考えてるんだ静かにしてくれ」
「聞かないでくださいよ! ちゃんと耳塞いでいてください!!!」
「すごい静かなんだ。耳を塞いでても聞こえるんだよ」
……ん? そういえば静かすぎないか? 俺達以外にも囚人が居る筈だ。にしては静かすぎる気がする。
「なぁ看守さん、なんでこんなに静かなんだ?」
俺は巡回している看守さんに聞いてみた。
「この檻の中は酸素が薄い。喋ると息苦しくなるからみんな静かなんだ。お前もあんまり喋ると苦しむだけだぞ」
「おい! 欠陥刑務所じゃねぇか!」
「欠陥なんかじゃない。そういう仕様だ。ここは死罪を言い渡された囚人が入る檻。檻の中の酸素を薄くすることで、大人しくさせているのだ」
つまり、この檻の中ではどんな暴力的な囚人でも強制的に大人しくさせることが出来るって訳か。よく考えたな……。
……やばい。さっきからずっと喋ったせいでなんか息苦しくなってきた。
これが酸素が薄いってやつか。他の囚人が大人しいのはそういうことか。それにこの檻には俺とフィーレの二人だ。二人分の酸素を消費する。
「ま、大人しくしておくことだ罪人」
……
…………
………………
あれから十二時間が経った。食事は出るし、檻の中にはトイレやベッドもある。一応砂漠の時よりは快適だ。
「……さて、フィーレさんや。檻の中で暮らすのも飽きてきたな」
「…………しりとりやジャンケンも飽きましたね」
俺とフィーレはなるべく酸素を消費しないよう小声でしりとりをしていた。娯楽が無い。自分たちで生み出す以外に。何とか、しりとりのルールを色々変えて遊んでみたが、それも十二時間もすれば流石に飽きる。
「――見つけた」
そんな途方に暮れるていた所にある女性の声が聞こえた。その声は聞き覚えのあるものだった。
「誰だ貴様――うっ」
看守が力なく地面に倒れた。
「お久しぶりです、柊様、フィーレ様」
「……お前は確か…………レイン……だっけか」
「何故こんな所に? それよりもあなた一人ですか?」
「…………」
レインは眉を
「……あの、私何か気に触ることでも言いましたかね?」
「いいや、お前は悪くないフィーレ」
フィーレが俺の耳元でコソコソと聞いてくる。俺はレインが一人というだけで大体察した。それに、こいつが持っている真っ赤な剣。俺はこれを知っている。判断材料としてはそれだけで十分だ。
「柊様、フィーレ様。話は後です。どうか私に力をお貸しください」
「……力を貸して欲しいのは俺らの方なんだけど……見ろよこの状況。それにこの檻の中、酸素が薄いからなるべく手短に頼む」
レインは顎に手をやり考えた。
「……なるほど。分かりました。では、看守の目は私が潰します。ですから柊様達はそこから出てください。あなたならこんな牢は檻の内に入らないでしょう?」
「ま、まぁそうだけど。……なぁそこに倒れてる看守、死んでないよな?」
なるべく殺したくは無い。俺のその意図を汲み取ったのかレインは、
「大丈夫です。ただの峰打ちです」
どうやら死んではいないらしい。
「なら良かった。では、よろしく頼む」
「お任せ下さい」
そう言うとレインは刑務所の中を、目にも止まらぬ速さで走り出す。彼女が通った道の後に立っている者はいない。看守達は次々と倒れていく。声を上げさせる時間なんて与えない。まるで昔の時代劇のような太刀捌きだ。
「……レイン、あいつやっぱ
「あの人なら一人で邪龍でも倒せそうですね」
俺はフィーレのその言葉に同意した。実力を隠していたのか、もしくは俺達が離れてから強くなったのかは分からないが、少なくとも俺が最後に見たレインとはかけ離れた強さだ。
「さて、俺達も出るぞ」
「はい!」
「トイレ、もういいのか?」
「……柊さん、しばきますよ?」
「……すまん」
俺は鉄格子に手を掛け、それを両手で広げていく。人が出れるくらいの大きさまで。
「……開いた……出るぞフィーレ」
「はい!」
俺とフィーレはやっと檻から出る事が出来た。俺は刑務所の中を見て回った。
「レインのやつ派手にやったな」
倒れている看守達に傷が無い所を見ると、死んではいないんだろうな。
「……ここにいる囚人が大人しい訳だ」
刑務所の中を歩く俺とフィーレは檻に入っている囚人を見た。その中に居た者たちは、皆倒れていた。辛うじて生きている者もいるが、それも時間の問題だろう。
「いつから居たんだろうなこいつら」
「分かりません。……ただ、私達もこのまま檻の中に居れば、ああなっていた可能性はありました」
レインが居なければそうなっていたかもしれないか。
「……来ましたか」
出口の前でレインが立っていた。
「待たせたな」
「いえ、こちらも今終わった所です」
レインの足元には数名の看守が転がっていた。
「なぁそれ――」
「もちろん死んでなどいません」
私がそんなヘマをするように見えますか? というような表情だ。
「そ、そうか。ならいい」
「それよりも私が聞きたいのは、柊様は何故このレベルの者達に捕まったのかという事です」
「このレベルって……こっちにも色々あんだよ」
あの時、抵抗することも出来た。ただ、下手に抵抗すれば俺はともかく、フィーレの命が危ないと思った。彼らは弓や槍を持っていた。槍はともかく、弓に関しては視覚外からフィーレを狙われれば終わりだ。だから俺は抵抗しなかった。出来なかったのだ。
それをレインに伝えた。
「……そうですか。すみません」
「いいよ。じゃあ出るか」
「はい。私についてきてください、柊様、フィーレ様」
俺とフィーレはレインの後をついて行き、外に出る事が出来た。
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