第二十七話「別れ」

「お世話になりました、エルムスさん」

「いいってことじゃ」

「ありがとうじいさん、それからハゲ。また何かあったら頼む」

「お前も達者でな。あと、ハゲ言うな」

 

 俺とフィーレは『エルムス』を離れる事にした。全ては仲間の無事を確認する為だ。そして、歴代の勇者達が何度挑もうと勝利出来ないとされる魔王。正直俺としては魔王なんてどうでもいい。アイツらが無事ならそれで。その過程で魔王を倒す必要があるのなら倒すだけだ。

 

「……まだアイツらと出会って日は経ってないのに、ここまで心配になるとは俺も随分変わったなぁ」

「それだけ大好きだったって事ですよ……私も寂しいです」

 

 とっととアイツら見つけて、また冒険者になって、受付のお姉さんから依頼を受けて、俺はレベルを上げて……よし。そうと決まれば、とりあえず滅ぼされたらしい『アレン王国』を目指そう。もし本当に魔王に襲撃されたのなら、アレンとレインとかいう女は自分の国を捨てて逃げる事はしないだろう。どこかに隠れて生きているか、あるいは……

 

「――聞いてるんですか柊さん! しっかりして下さい!」

「あ……なんだ?」

「なんだじゃありません! エルムスさんが呼んでますよ!」

 

 考え込んで全然話が聞こえてなかった。

 

「いいんじゃよ……若いのよ、これを持っていきなさい」

「これ……」

 

 エルムスのじいさんがくれたのは新しいローブ。ここエルムスの民達が着ている物と似て非なるものだった。今俺が着ているのは、初めて会った時、じいさんから剥いで……貰ったものだ。だが、今回くれたのは似ているが少し違う。

 

「それはヒケシドリの毛皮をもちいた火炎耐性を持つローブ。この先で役に立つじゃろう。それと――」

 

 エルムスのじいさんは茶色をベースにした茶と赤のまだら模様のローブを俺とフィーレにくれた。

 

「これもな。見たところ二人とも、魔法使いじゃろう。魔法使いなら杖があらんとな」

 

 と、エルムスのじいさんがくれたのは何かの骨で作られた杖だ。先端部分には赤い宝玉が付いている。

 

「杖だ!」

「杖ですね!」

 

 俺とフィーレは魔法使い。久しぶりの杖に思わず歓喜の声が溢れてしまった。

 

「それはカースドラゴンの骨にゴーレムの心臓を取り付けたものじゃ。ゴーレムは緻密な魔力操作を得意とする魔物。そのゴーレムの心臓を取り付けた杖には、威力を上げる効果などはあまり期待できんが、魔力をコントロールするにはうってつけじゃ」

 

 と、解説付きで杖まで貰ってしまった。それもフィーレと俺の二人分。お揃いのローブにお揃いの杖。

 

(なんかはたから見たら兄妹みたいだな……)

 

「感謝するじいさん……いや、エルムス王」

「ありがとうございます、王エルムス様」

「いいんじゃよ、そうかしこまらんでも。ワシがしたいだけなんじゃ」

 

 エルムスは俺達にそう言うと笑いかけた。

 

「お前達、俺からはこれをやろう」


すると、今度はファルスが何かをくれるみたいだ。


「ん? これネックレスか?」

 

 ファルスがくれたのは麻の紐で作られたネックレスだった。それに付いていたのは石。いや……これは

 

「これ……魔石ですよ! 柊さん!」

「魔石?」

「知らないんですか! 魔石は強力な魔物が住み着く洞窟で稀に取れる希少な石で、所有者の魔力を大幅に上昇させる事が出来るんです!」

「ふーん」

 

 魔力ねぇ……俺に魔力関係ないしな。ゼロに何を掛けてもゼロだ。必要ねぇな。

 

「二人分ある。持っていけ」

「助かる、ハゲ」

「ありがとうございます、おハゲさん!」

「う、うむ……なぜか癇に障るがまぁいい」

 

 一応貰えるもんは貰っておこう。そんなに希少なら金に困った時にどこかで売ればいい。……そうだよ。今手持ちねぇじゃん。珠希の財宝で売った大金が無い。無一文じゃねぇか俺達。

 

 よし、売ろう。

 

「ところでじいさん」

「なんじゃ?」

「この杖耐久性ってどんな感じだ? やっぱベース骨だし壊れやすかったりするのか?」

「そうじゃなぁ……普通に使えば問題なかろう」

 

 普通に使えば、ねぇ……俺普通じゃないんだよなぁ。なるべく壊れない様に優しく殴っていこう。

 

「分かった。二人ともありがとな」

「ありがとうございます!」

「気をつけるんじゃぞ」

「達者でな」

 

 こうして俺とフィーレは『エルムス』を離れた。たった二日程ではあったが、それなりに楽しいものだったな。じいさんとハゲの喧嘩は見ていられなかったが、それでも本当に良くしてくれたと思う。こんな見ず知らずの俺達を歓迎するなんて普通じゃありえないだろう。

 

(まぁファルスのやつは最初、歓迎って感じじゃなかったが)

 

 振り返るとエルムスとファルスの姿がかなり小さくなっていた。もう豆粒に見えるほど離れているのに、あの二人はまだ手を振っていた。

 

「どんだけお人好しなんだあの二人」

「そうですね。この先もそんな方達ばかりだといいですね」

「……そんなに居るかよ」

 

 俺達は思わず笑みがこぼれると、後ろでまだ手を振っている二人に手を振り返した。

 

 

 ***

 

 

 ――ある廃城にて。

 

「アレン様! ご無事ですか!」 

「ゴフッ……ああ、なんとかな。レイン……良いかよく聞け」

「喋らないでください! 血が――」

「いいから聞けレインッ!!」

「は、はい……」

 

 真っ赤な鎧を着た男とそれに仕える黒一式の衣服を着た女が居た。男は鎧の至る所に傷があり、腹から大量の血を流している

 。女はその男の腹に手を当てなんとか血を止めようとしていた。

 

「…………レイン、俺はもう長くない」

「そんな事を言わないで下さい!まだ助かります!!」

「自分の事だ。それくらい分かる……だからレイン、お前が王になれ。そして……あの二人……柊とフィーレに助けを求めろ…………お前ならそれが出来る……はずだ」

「アレン様……」

「それと……すまないな。式を挙げるという話だったが実現……出来なかった」


男は申し訳なさそうに女の頬に触れる。


「そんな事より今は生きて下さい!それにあれは冗談だと……!」

「……冗談なんかでは無い。本当に挙げるつもり……だった。こんな事がなければな…………だから悪いがこれで許してくれ」

 

 男は最後の力を振り絞り、女に口付けをした。女は涙を流し、笑う。ずっと男に恋をしていた。女にとってそれは初めての恋。それがたった今、ようやく成就した。

 

「嬉しいですけど、少し血の味がしますアレン様…………アレン……様?」

 

 男は笑みを浮かべた表情で息を引き取った。

 

「――アレン様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 叶った恋はすぐさま終わりを迎えた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る