第二章 二人の旅路編

第二十五話「深まる仲」

 俺達の前に現れたのは坊主頭の若い青年だった。茶色い民族衣装のようなものを着ている。

 

「このじーさんがここの王?」

「失礼だぞ! この方は王だと何度言えば分かる! 決してボケて無反応な訳じゃない!」

「そこまでは言ってない」

 

 頭が固そうなやつだ。なんでも否定しそうなパワハラ上司のような性格をしている。……まぁ俺高校生だけど。

 

「てかアンタら名乗れよ。出会ったら先ず名前を名乗るのが常識だろ」

「柊さんそれブーメランです。私達もまだ名乗っていませんよ」

「……これは失礼。俺の名はファルス。この方はここ、『エルムス』の王、エルムス・ピュールス様だ」

 

 坊主頭の青年が自分と王の名を紹介した。

 

「そうか。早速で悪いんだけど、服貸してくれないか? 寒すぎて死にそうなんだ」

「なんて失礼なやつだ……名前を名乗れと言っておいて名乗らないだと……挙げ句の果てには服を貸せ? ……エルムス様、コイツらに構う必要などありませぬ。行きましょう」

「ではワシのを貸してやろう」

「――おい! ジジイ! テメェ無視すんじゃねぇぞ! 聞こえてんだろハゲ!」

 

 エルムスのじーさんがあっさり貸してくれた。青年の言葉なんて無視だ。というより聞こえてないのかもな。

 

 というか、坊主頭のやつ、めちゃくちゃ無礼働いてね?

 

「うっさいわファルス! 聞こえとるわ! ファルスよ、この子らの姿を見てもまだそんな事が言えるのか! 裸同然の格好じゃぞ! この少女に至っては薄い布一枚じゃぞ! おなごがこんな格好をしているというのに、助けんとはお前恥ずかしくないのか!」 

「だまれジジイ! 今のテメェの方がよっぽど恥ずかしい格好なんだよ! なんならこいつに貸したせいで、この中でお前が一番恥ずかしい格好してんの気付けこのハゲ!」

「誰がハゲじゃ! お前もハゲてんだろうが!」

 

 エルムスは俺に服を貸してくれたおかげで、さっきの俺と同じパンツ一枚だ。それに服と言うより、ローブに近い。

 

(これはなかなか着心地良いな)

 

 というかこいつらめちゃくちゃ仲悪いじゃん……。ファルスとかいう奴に限ってはもう最初の頭固そうな印象全く無いし。俺とフィーレ置いてけぼりなんだが。

 

「まぁまぁ、落ち着いて。じーさんもそこのハゲもとりあえず奥で茶でも飲みましょうや」

「……うむ、そうじゃな。すまんの若いの」

「……そうだな。すまんな客人、恥ずかしい所をお見せした」

「いいっていいって。さ、とりあえずアンタらの家ついて行ってもイイですか?」

 

「「うむ、よかろう」」

 

 俺とフィーレはファルスとエルムスに案内してもらう事になった。俺達は二人の後ろを着いて歩く。

 

「それにしても柊さん、この二人の扱い上手いですね……もしや、この方達とお知り合いだったのでは?」

「な訳あるか。こういうのは日頃から鬱憤溜まってんだよ。だから話し合いの機会を設けただけだ」

「話し合いの機会? 茶でも飲みましょうや、の事ですか?」

 

 フィーレが俺の口調を真似して見せた。

 

「ああ。多分この後こいつら、また喧嘩始めるからよく見とけ」

「あははは……そんなもの見たくないですね」

 

 俺とフィーレはファルスとエルムスの後を着いて行く。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「ここがワシらの家じゃ」

 

 と、言う老人エルムス。そこにあるのは古びたレンガで出来た家だった。家には至る所にヒビが入っていて、倒壊しないか心配になる程だ。

 

「ここか。……まぁ不安しかないが、一日泊まるくらいならいいだろう。合格だ二人とも」

「なんで上からなんですか、柊さん」

「それは良かった! のう、ファルスや」

「そうだな。ジジイの言う通りだ」

 

 無礼な発言にも怒らない二人。

 

(流石に怒られると思ったけど、これで怒られないのか)

 

 俺はこの二人を怒らせるにはどうしたらいいのか少し興味が湧いてきた。

 

 中に案内されると、ちゃんと家だった。薪のキッチンにトイレ、くつろげる場所もちゃんと確保されてある。正直、案外悪くないと思ってしまった。おまけに外には薪で沸かす風呂まであった。ボタン一つで沸かすものなんかじゃない、レトロな風呂。憧れがあった俺は少しテンションが上がる。

 

「どうじゃ、二人とも腹減ってないかのう?」

「ああ空いてる、飯頼むよじーさん」

「任せておけ。ワシの腕はこの街一番じゃ」

「――待てよジジイ。飯より先に風呂だろ。こいつら汚れてんだ。先に風呂に入って汚れ落としてからの方が、飯も美味くなるだろ」

「なーーーにを言うとるんじゃ! これだから若いのはダメなんじゃ。飯食って風呂入って寝る! これが正しい順序じゃろうて!」

  

 ファルスが俺とエルムスの会話に割って入って来た。かと思えばまた喧嘩が始まった。

 

「ジジイは先に風呂案内してこい! 俺が作っといてやる!」

「何言うとるんじゃ! お前が風呂を沸かしておけ! こういうのは若いもんが沸かすもんじゃろう! 老人をいたわらんか!」 

 

 口喧嘩は止まらない。こいつら俺達が居ない時もいつもこんな感じなんだろうか。よくそれで二人で生活出来てるな。

 

「……柊さん、別の家探しませんか?」

「ああ、それもそうだな」

 

 フィーレが耳元で話しかけてきた。俺もこいつらの喧嘩を見ながら飯食いたくない。それにいつ終わるのかが見当がつかない。

 

「悪いなじーさん、ハゲ。俺とフィーレ違う家探すわ」

 

「「――黙れ! 今から用意するからそこで座ってろ!」」

「……はい」

 

 さっきまでどうやってこの二人を怒らせようかと考えていたが、その機会はすぐに訪れたのだった。息ピッタリで俺は返す言葉がなかった。

 

 

 ***

 

 

「ふぅ……喧嘩は見るに堪えないが、飯は美味いしそれに……」

 

 ドラム缶の風呂まである。都会育ちの俺はこういうレトロな感じに憧れがあった。俺は風呂に浸かり疲れと汚れを落としていく。

 

「……にしても、ここは街……っていうより村? に近いな」

 

 街と言うには原始的というか……。一応この家に着くまでに何人か住人らしき人物を見かけたが、少数だった。それも皆同じ格好をしている。どこかの民族? のようだった。

 

「――柊さん、次私いいですか?」

「ん? ああ、待ってろ今出る」

 

 結局飯が先だった。喧嘩は俺の一言で何も無かったかのように終わりを迎え、じーさんは飯、ハゲは風呂をテキパキ動き出し、用意してくれた。

 

「……分からん。こいつらの怒りの沸点が分からん」

 

 何を言ったら怒るのか、そもそも俺達は快く歓迎されているのか。あの二人が何を考えているのかさっぱり分からない。

 

「レイン……だっけか。アイツと同じくらい分からん」

 

 俺はあの頭の固いアレンに仕える者、レインの事を思い出した。……アイツら今頃何してんだろうな。『アレン王国』に置いてきてしまった仲間達。俺はアイツらに俺とフィーレの無事を報告する為、一刻も早く『アレン王国』に戻る事を決めた。

 

「――あの! 柊さん! まだですか? 私もお風呂に入りたいんです! 早くして下さい!」

「ああ、今出る」 

 

 フィーレと二人で行動する事になってまだ一日も経っていないが、前よりも仲が深まった気がした。……というより、フィーレは遠慮が無くなった気がする。

 

「……ま、その方が俺もやり易いけど」

 

 その後、一日の疲れを癒した俺達は寝床に着いた。

 

 

 

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