第二十四話「着いた先」
邪龍ダークスレイヴを討伐した俺とフィーレは松明を片手に出口を探していた。
「しっかしなんもねぇなここ。本当に出口とかあるのかよ」
「ありますきっと! 出口のない洞窟は存在しないと本に書いてありましたから!」
その本というより、フィーレの言葉に不安を感じるが。
ともかく、ここを出てアイツらに無事を報告しなければ、きっと心配している事だろう。俺とフィーレは松明片手に洞窟の奥へとさらに突き進んでいく。
「なんだこれ? 化石か?」
「そうみたいですね……でもこれなんの化石でしょうか?」
俺とフィーレが見つけたのはヒビが入った化石のようなもの。見ただけでもかなり年季が入っているのが分かる。何十年……いや、何百年も前、もしくは何千年の可能性だってある。
「見てください! 柊さん! アレ!」
フィーレが指をさして俺の名前を呼ぶ。そこにあったのは顔が人間、体がライオンのような石像だった。
「……これってスフィンクスか? でもなんでこんな所に」
スフィンクスと言えば、エジプトだよな? こんな異世界にどうしてスフィンクスがあるんだよ。
「この石像、スフィンクスって言うんですか?」
「ああ、俺が知っているものと同じであればそうだな。ただ……」
「ただ? なんでしょう?」
「こんな所にあるはずが無い。スフィンクスはエジプトという所に存在する石像だ。つまり、これは偽物だ」
そうだ、これは偽物。本物のスフィンクスな訳が無い。俺とフィーレはスフィンクスを観察し、その足元に何かが埋まっているのを見つけた。
「これって……」
「魔法陣だな」
そこにあったのは六芒星を描く魔法陣。途切れ途切れになっており、最近描かれたものでは無いのが見て取れる。
「古臭い魔法陣だな」
「…………でもこれ、まだ使えますよ」
と、フィーレが魔法陣を見ながら答えた。
「分かるのか?」
「昔、本で見た事がある気がします……たしか…………そう! 転移の魔法陣だった気がします!」
転移……か。どこに転移するか分からない以上、あまり近づかない方が良さそうだな。俺はその魔法陣を足で砂を被せた。
「ちょっと柊さん! 待ってくれませんか!?」
「なんだよ。迂闊に近づけば、どこに転移するか分からないから隠したんだろ?」
「いえ、その考えは分かりますが良く考えて下さい!」
まさかフィーレに良く考えてと言われる時が来るとは。
「もう松明もあまり長く持ちません。この灯りが消えれば真っ暗でこれ以上先へ進む事は出来ないでしょう」
「……確かに」
松明の火が消えかかっている。
「それに私達は今、パンツ一枚と下着姿の魔法使い二人ですよ? 長居はできません」
結局俺はあの後、フィーレの下着を松明にした訳だが、見ててあまりにも可哀想だったので、俺がローブの下に着ていたシャツを貸してやる事にした。なんか彼シャツみたいな状態で正直エロい。
「確かにな……どちらにせよこのままじゃ死ぬのか」
「はい。それならこの魔法陣に飛び込んで賭けに出る方がいいと思います」
こいつ本当に俺の知っているフィーレか? こんな頭の冴えているフィーレは今まで見た事がない。とはいえ、フィーレが言う事も確かだ。このままじゃどちらにせよ死んでしまう。
火が消えれば、お陀仏だ。それに魔物がいる可能性だってある。
「……よし、フィーレ。その魔法陣どうにか起動出来ないかやってみてくれ」
「はい! 任せて下さい!」
フィーレは地面に座り込み、砂をかき分け魔法陣を露出させた。魔法陣の全体像が見えてきたが、やはり途切れている。
「本当に大丈夫か?」
「はい、やってみます」
フィーレのその言葉に俺は何故か安心した。頼もしすぎるフィーレ。マジでこいつこんなに優秀だったのか。
……
…………
………………
時間にして十分程経過した。
「…………ごめんなさい分かりません」
「……おい、返せよ信頼」
フィーレは真顔でこちらを向いて言ってきた。
「だってこんなにも途切れている魔法陣分かる人居ますか? 居るわけないでしょう! いるなら返事をしてください!」
もちろん誰も返事をしない。この場には俺とフィーレ、二人しか居ないのだから。
「……あぁもう、見せてみろ」
「出来るものならどうぞ?」
言い方腹立つなこいつ。多分もう死を覚悟して頭がおかしくなったのかもしれない。もともと良くはなかったが。
俺は魔法陣と向き合う。
(ん? ……この魔法陣の横に何か書いてあるぞ?)
俺は魔法陣のすぐ横に何か文字が書かれているのを発見した。砂をかき分けそれを見た。
「えっとなになに……『この魔法陣を使いたければ、三回回ってワンと唱えよ』……なんだこれ。バカにしてんのか」
そんなので起動出来ると思って、試す奴なんて居る訳――
「三回回ってっと……ワンッ! ……ふぅ、これで良いですか柊さん」
身近に居た。フィーレはやはり想像を超えるバカだ。俺がそんな事を思っていると、
「見て下さい! 魔法陣が光りました!」
「……嘘だろ」
魔法陣が起動した。これ作った奴を今すぐ殴りたい。しかし今回はバカなフィーレに救われた。
「じゃあ飛び込むか」
「そうですね!」
松明の炎も消えかかっていた。もうあまり猶予は無い。
「手を繋ぐぞ」
「はい……え?」
「俺かお前のどちらかが先に入って、はぐれたら大変だろ。この魔法陣が二度使用出来るとも限らない」
「あ、なるほど。ではお願いします」
俺はフィーレの手を握った。
「よし、じゃあ行くぞ」
「……柊さん手汗凄いです」
俺はフィーレの手を引っ張り、半ば強引に魔法陣へと引きずりこんだ。
「ちょっと柊さん! きやぁっ――」
***
目を覚ますと、見慣れない街にいた。『アレン王国』とはまた違った原始的な街。辺りは一面砂で人々は薄茶色の毛皮のようなものを羽織っていた。
「どこだここ」
「多分、どこかの街ですね」
それは見れば分かる。
「てか寒! なんだここ!」
辺りは暗く、空には星が見える。
「砂漠の夜ってこんな感じか」
砂漠の夜は寒いと聞いたことがあるが、そもそも俺はパンツ一枚だ。
それも理由のひとつだろう。
「おい見ろよ、人だ!」
「街なんですから当たり前ですよ」
邪龍と戦った辺りからフィーレの態度が冷たい気がする。
何故だろうか。俺何かしたかな?
「おやおや、こんな所でその姿は寒くは無いかね?」
白い髭を生やした老人が杖を着きながら話しかけてきた。
「寒いです。助けて下さい」
俺は老人に、助けを求めた。しかし、自分から話しかけておいて老人は反応がない。
「……聞こえてねーのかなこのじいさん」
「柊さん、失礼ですよ!」
「そこの少女の言う通り、失礼であるぞ。その方はこの街の王で在らせられるぞ」
どうやら俺はいきなり王様と出くわしてしまったらしい。
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