第二十二話「邪龍」

「いやはや、やりますな。ワシらが来る事を察知しあらかじめ民を逃がすとは」

 

 白のフードを被った者達が玉座の間に次々と現れた。

 

「どなたですか、あるじに代わり私がお伺いします」

「……小国の王はどこだ」

「爺さんボケてんのか? アレンならあそこで寝てんだろ」

 

 俺は玉座の方に指を指す。

 

「……なるほどのう。すると、貴様がヒイラギか?」

「ああそうだ。てかお前ら誰だよ。名乗れ」

 

 白いフードなんか被りやがって、声と喋り方で大体分かる。

 こいつらは老人だ。まぁだからなんだと言う話だが。

 

「ワシらは『ディベルドの使者』。そこでのぼせている小国の王に命じたのだがな……やはり失敗したか」

「失敗ってなんだ」

「ヒイラギ、貴様を殺す事をだ。そこで倒れている小国の王に貴様を殺すよう命じた。それが失敗したのだ」

 

 こいつらが今回の元凶か。……よし、殴るか。俺がそんな事を考えていると、ゼノアが口を開いた。

 

「――よせ柊! その者達と戦うのは危険すぎる!」

 

 切羽詰まったような顔でゼノアが俺に言ってきた。

 

「なんでだ?」

「『ディベルドの使者』はマジックアイテムを使うんだ!」

「……なるほど。つまり姑息な奴らって事か」

 

 姑息対決なら負ける気がしねぇ……!

 

「ホヮッホヮッ、ワシら九人を相手に一人で戦うと? 若造が舐めるなよ?」

「舐めたくないね」

 

 ゼノアの話ではこいつらはまともに戦わないタイプ。真剣勝負に拳銃を使うようなやつらだ。ならこちらも全力で姑息を行使するのみだ。

 

「っと、その前にアンタらに一つ聞きたい」

「なんじゃ」

「俺を狙う理由はなんだ」

「……貴様がこの世界の害悪になると判断されたのだ」

「誰にだよ」

「それは教えられん」

 

 口止めされてるって事か。しかし、なんで俺なんだ? この世界の害悪って魔王何じゃないのか?

 

「柊ここは逃げるべきだ」

「はあ? なんでだよ。こいつらを逃したら、また俺を狙ってくんだろうが」

「しかし……」

 

 ゼノアは口ごもった。それほど危険なやつらという事なのだろうか。

 

「仕方あるまい。これはそこの無能な王に任せたワシらの責任。小国のくせに王など気取りやがって」

「――アレン様を侮辱する事はこの私が許しません」

 

 レインがそう言って前に出てきた。アレンの事となるとすぐにキレるなこの女。

 

「フンッ! 無能な王に無能と言って何が悪い。それに仕える貴様もまた無能なのだろう売女ばいたが」

 

 あ、マズイ。レインとかいう女相当キレている……。血管が浮き出すぎて、今にも吹き出しそうだ。

 

「……あなた方は私を怒らせました」

「だからなんだと言うのだ。売女風情がワシらに――」

 

 その瞬間、白のフードを被った者の一人が吹っ飛んだ。レインの手には棍棒のような物が握られていた。

 

「貴様! ワシらと敵対するつもりか!」

「敵対……ですか。今までは守るべき民が居ましたので、あなた方にとやかく言うつもりはありませんでしたが、それももういない」

 

 レインはその棍棒のようなものを片手に持ち、次々と白のフードの者達をなぎ倒していく。

 

(え……この女、主より強くね?)

 

 その仕えるべき王は未だ玉座にて、眠っている。

 

「バカな! ワシらがこんな売女風情に――ぐはっ!?」

「私、あなた方を生かしておくつもりはございませんので」

 

 やばい……めちゃくちゃ怖いんだけど。

 マジで老人相手にも容赦ないな……。

 

「……はぁ…………仕方あるまい。お前達、やるぞ」

「……うむ、やむを得んな」

 

 なんだ? 何をする気だこいつら。

 

 老人達は皆、両手を上げ何かを唱えだした。

 

「『邪神ダークスレイヴよ、我らの生命いのちを糧に、目の前の者を飲み込み、再び邪の覇者となれ』」

「――させません!!」

 

 レインが詠唱する老人達に向かって飛び出した。

 

「もう遅いわ! 『邪龍召喚』!」

「ハッ! しまった……! 皆様! お逃げ下さ――」

「フンッ…………逃げ場など……ない……わ……」

 

 老人達は白いフードだけをその場に残し、溶けるかのように体が消えた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「ああ……終わりです……恐れていた事が……」

 

 レインが頭を抱えて膝から崩れ落ちた。

 

「おい! 何だよ! 何が起きたんだ!」

「『邪龍召喚』の儀式をやられました」

「だからその邪龍ってなんだって聞いてんだ!」

 

 と、俺がレインを問い詰めていると、ゼノアが俺に説明してくれた。

 

「『邪龍ダークスレイヴ』。かつていくつもの国を滅ぼしたとされる災厄そのもの。またの名を『災厄龍』」

「なんかヤバそうだな」

「ヤバいなんて言葉では足りないよ。僕達が何人居ても勝つのは無理だ。ただ蹂躙されるのみだよ」

 

 なるほど、つまり逃げても無駄ってことか。しかし、いつ現れるんだその邪龍とか言うやつ。何も起こらないが……。

 

「…………来たよ、お兄ちゃん」

 

 珠希がそう言うと城内だと言うのに視界が急に真っ暗になった。

 

「――おい皆! 無事か!?」 

「はい! 今のところ大丈夫です!」

「その声はフィーレか! 他の皆は?」

 

 ……………………誰も返事がない。

 

「おい、嘘だろ? 無事なやつは返事しろ!」

「……柊さん、恐らく皆さん飛ばされたのかと」

「飛ばされた……? 転移したってことか? なんで俺たちだけ飛ばされてないんだよ」

「いいえ違います、飛ばされたのは私達の方です」

 

 俺達が飛ばされた……? よりにもよってフィーレもか。

 

「私が見た本によると『邪龍ダークスレイヴ』は、ある魔法使いによって封印された邪龍です。そのせいか魔法使いを酷く憎んでいるとされています」

「あの中で魔法使い職は俺達だけ……」

「はい。なので私達だけが飛ばされたという事ですね」 

「『邪龍ダークスレイヴ』というのは何が弱点だ」

「効きませんよ」

「攻撃が効かないのかよ!」

 

 そんなのありかよ……反則だろ……。

 と俺が頭を悩ませていると、フィーレが続けた。

 

「邪龍は魔法使いによって封印された恨みから、魔法攻撃に高い耐性を持ってしまいました」

 

 つまり魔法使いだけを自分の戦場に上げ、一方的に蹂躙するのか。

 『災厄龍』というか『最悪な龍』だな。

 

「…………ん? 待てよ? なぁフィーレ」

「はい、何でしょうか」

「お前偉く落ち着いてないか?」

「そうですね。だって私には柊さんが居るので」

「偉く信用されたもんだな。相手に攻撃が効かないんじゃ俺だって勝てんぞ」

 

 信用してくれるのは嬉しいが、攻撃が効かないんじゃどうしようも無い。

 

「だって柊さん魔法使いですけど、魔法使わないじゃないですか」

「…………ああ、使えないんじゃなくて、使わないんだけどそれがどうした?」

 

 俺は使わないを強調した。

 

「『邪龍ダークスレイヴ』に魔法攻撃は耐性によりほとんど効きませんけど、それは魔法攻撃のみです。物理に耐性はありません」

 

 マジか。ならその邪龍ってやつからすれば、俺は天敵じゃねぇか。

 

「ベストカップルだな俺と邪龍」

「そうですね、お似合いです」

 

 だが、その邪龍が一向に姿を見せない。そもそも視界が真っ暗で何処にいるのかすら分からない。

 

「なぁフィーレ、灯りないか?」

「灯りですか? 『ファイアーボール』なら……」

「それでいい! 使ってくれ!」

 

 真っ暗じゃ邪龍が何処にいるか分からないからな。灯りが必要だ。

 

「でも私、今杖持ってませんのでマッチの火くらいにしかならないですよ?」

 

 なんで魔法使いなのに杖持ってねぇんだよ。俺も人の事言えないけど。

 

「……マッチの火でいい使ってくれ」

「え、いいんですか? ……分かりました。『ファイアーボール』!」

 

 フィーレは魔法を唱えた。

 

「……本当にマッチの火だな」

「だから言ったじゃないですか」

 

 フィーレの掌から小さな炎が現れた。

 

(本当にマッチの火だな……)

 

「まぁいいだろ。フィーレ、先に謝る。悪いな」

「え? なんですか急に」

「スキル『イリュージョン』!」

 

 俺はフィーレのローブを引きちぎり、スキル『イリュージョン』で松明たいまつへと変化させた。

 

「……よし、松明の完成だ」

「え…………きやあああああああああ」

「おい騒ぐな! 邪龍とやらが近くにいるかもしれねーだろ!」

「だ、だって柊さんが私のローブを……」

 

 フィーレは下着姿になっていた。

 

「仕方ないだろ、お前杖持ってきてないし。杖があればそれを燃やして松明にしたけどよ」

「魔法使いの命の次に大事な杖をなんだと思っているんですか! そもそも私じゃなくて、自分のローブを燃やせばいいでしょう! 女の子を下着にするなんて何考えているんですか!」

 

 やめろよその言い方……俺がセクハラしたみたいな。

 

「俺が戦うんだ、俺が下着姿で戦う訳には行かないだろう」

「だとしてももっとやりようが――」

 

 そんなやり取りをしていると、全身に響く咆哮ほうこうと共に邪龍が姿を現した。

 

「出たな、邪龍。フィーレ、松明持ってろ! 絶対消すんじゃねーぞ! 次消えたらその下着を燃やすことに――」

「絶対に消さないと約束します!!」

 

 邪龍ダークスレイヴとの戦いが幕を開けた。

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