第二十一話「マジック」

 玉座の間にて、俺とアレンは向かい合う。

 

「では始めるとしよう」

「ああ。今度こそ本気を出してない、なんて言い訳が言えないようにしてやるよ」

 

 俺はそう言うと杖を握り締め…………握り締め……握り…………

 

「……あ、宿に置き忘れた」

「では、行くぞ!」

 

 しまった。急いで宿を出たから宿に杖置きっぱなしだ……。しかし、この雰囲気で杖取ってくるから待っててくれ、なんて言えないよなぁ。それに前回のような杖を持った兵はここに居ない。杖を持った兵どころか、兵そのものが誰一人居ない。俺を囲む程居た兵が。つまりこの場に杖を持った者は居ない。

 

 杖を借りることも出来ない。さてどうするか……本気を出したアレン相手に素手で勝てる気がしない。前回素手で勝てたのはアビリティのお陰な訳だし。

 

「……ん? どうした」

「どうやってアンタを倒そうかと考えている」

「ハッハッハッ! もう俺に勝つ気でいるのか! やっぱり面白いなお前は……だが今回は俺もお前を侮らない。最初から全力で行かせてもらう」

 

 本当にどうしよう、こっちは全然面白くない。降参でもしてみるか……いや、こいつがそれを許さないか。勝ち逃げのように見えてもおかしくないしな。

 

「……そうだ!」

「なんだ?」

「少しだけ時間をくれ」

「…………ああ、いいだろう」

 

 俺はまだステータスポイントを消費していない。杖を取りにいく時間は無いが、ステータスポイントを割り振るくらいなら時間はかからないはずだ。

 

「『マイステータス』 」

 

 俺は早速ステータスを開いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.50

 

 HP【6000/6000】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【500】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【50】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 アビリティ:【魔法使いの掟破り】

 スキル:【ミスディレクション】

 スキル【イリュージョン】

 装備:【戦士のピアス】

 

 

 ◇◇◇

 

 

 レベルが上がるとHPだけが上がる仕組みなのか。他はステータスポイントを割り振る事で能力を強化出来る……となると、割り振るステータスがかなり重要になってくる。今まではSTRとATKを中心に上げてきた。何回見ても魔法使いとは思えないステータスだな……。

 

 とりあえず、STRとATKに全部割り振るか。攻撃は最大の防御って言うしな。

 

 俺は他の者が目視する事が出来ないステータス画面を操作し、ポイントを割り振った。

 

 《STR.ATKのポイントが最大値に達しました。これにより【アビリティ:『魔法使いの鉄則』を獲得しました】》

 

 なに!? 今までレベルが上がった時にしか手に入らなかったアビリティがまさかこんな形で手に入るとは……!

 

 【魔法使いの鉄則】

 ・条件を満たすと、一定時間ステータスが限界値を超える。

 

 ……なんだこれ? 今までは時間が書いてあったのに、今回は一定時間としか表記が無い。それに条件ってなんだ?

 

 《さらにアビリティの獲得が一定数を超えた為、【職業:魔法使い】から【職業:マジシャン】へと昇格しました》

 

 誰がマジシャンだ! 胡散臭さ増してんじゃねぇか! ……いや、待てよ?

 

 《また【職業:マジシャン】へと昇格した事により、【ユニークスキル:スライハンド】を獲得しました》

 

 ユニークスキル……? スライハンド?

 

 【ユニークスキル:スライハンド】

 ・MP消費ゼロ 最初の一撃が必中攻撃となる(距離無制限)。

 ※初動のみ使用可能。

 

 ……つまり、どんな攻撃でも最初の一回だけ必ず当たるってことか。

 これは使いようによってはなかなか使えるスキルだな。

 スキル【イリュージョン】より全然使えそうだ。

 

 俺の行動は他人から見れば、頭のおかしい奴としか思えないだろう。なにせ、何も無いところに絵を描くように指を動かしているのだから。

 

「……あの……柊さん何をしてるんですか?」

「いつもの事ですよ」

 

 ギルドのお姉さんの問いに、答えにならない返しをするフィーレ。

 

「……はは……そうですか……やっぱり私付いてくるんじゃ無かったかも……はぁ」

 

 お姉さんは自分だけ場違いかもしれないとため息をついた。

 そしてついに――

 

「…………待たせたな、いいぞ」

「もういいのか。では始めるとしよう」

 

 俺は再びアレンへと向き直す。

 

 さっき獲得したスキルを試す時間も無い、正真正銘一度きりってやつだ。

 

(くそっ……! せめて杖さえあればな。無いものねだりしても仕方ないか……ん?)

 

 俺は自分の手に視線を向ける。

 

(微かに光ってる……ある……気がする杖は俺の手の中に……そうか! そういうことか!)

 

 その手に杖は無い。だが、確かに感じる杖の感触。

 

「では、戦闘開始の合図は僭越せんえつながらこのレインが努めさせて頂きます」

 

 レインは、俺とアレンの中心に立ち宣言する。試合開始の合図はレインの一声によって始まる。そしてレインは右手を上げる。

 

(最初が大事だ……大丈夫、負けはしない……大丈夫)

 

 俺とアレンは集中し、開始の合図を待つ。

 

「――では! 始め!」

「はあああああああっ!」

 

 アレンが抜刀の構えでこちらに向かって突っ込んできた。以前は大振りの構えだったが今回は違う。まだ剣を抜いてすらいない。

 アレンもまた一太刀で決める気だ。

 

(お前も一撃に全てを込めるか! なら俺もそれに応えないとな!)

 

「『イリュージョン』!! からの――」

 

 俺はすかさず次のスキルを唱える。さっき獲得したばかりのスキルの名を。

 

「『スライハンド』!」

 

 何も無かったハズの俺の右手には杖があった。スキル『イリュージョン』によって生成された杖。

 

「くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇ」

「――なに!?」

 

 俺は杖を大きく振りかぶった。その射程範囲内にアレンは居ない。誰がどう見ても、俺がくうを切ったようにしか見えなかっただろう。それはまるで空振りしたバッターのように。

 

 しかしその攻撃は空振りには終わらない。

 

「グハッ!?!?」

 

 アレンは勢いよく飛ばされ、玉座へとホームラン。

 

「……ふぅ……ストライクにならなくて良かったぜ」

 

 俺の攻撃に唖然とする一同。

 

「…………お兄ちゃん今何したの……?」

「……柊さんが手に杖を出現させたと思ったら、今度はそれを振りかぶって……でもそれは当たらないはずなのに当たってぇ……あれれ? どういうことですかぁ」

 

 珠希とフィーレは何がなにやらという顔をしていた。ゼノアもギルドのお姉さんも……そしてレインも。この場にいる全員が状況を掴めずにいた。

 

「なぁレインさんよ、俺の勝ちだよな」

「…………あ、ああ。勝者、柊様」

 

 レインの言葉で俺は二度目の勝利を収めた。アレンは白目を向いて玉座に座っていた。

 

「よし……あれ? そういえばこんな事してる場合だったっけか」

 

 何か忘れているような……。

 

「柊さん! 今のなんですか!」

「お兄ちゃん今の何!?」

「柊! 今のはなんだ! 僕にも説明しろ!」

 

 うちの仲間が皆俺に近寄ってきた。

 

「落ち着けお前ら!」

「落ち着いていられるか! ……ってあれ? 柊、右手にあった杖はどうした?」

「……ん? あぁ……効果切れだな」

 

 俺の右手に杖は無かった。そもそも最初からそんなものは存在しない。あるように魅せていた・・・・・だけだ。

 

 俺はここでようやくスキル『イリュージョン』を理解した。これは魔法じゃない。魔力が無い俺がそもそも魔法を使える筈が無かった。

 あの時、飛行魔法だと思っていたのも違う。あれは悲しいがただのジャンプだ。そして今回俺の手に現れた杖、これも幻覚だ。

 

 スキル『イリュージョン』は使用者の……俺の望んだ事象を出来る範囲で再現させるものだ。しかしそれは偽物であり、本物では無い。タネがある魔法マジックだ。

 

「……これは本当に魔法使いというより、マジシャンに転職だな」

 

 アレンとの再戦は柊の二度目の勝利で幕を閉じた。

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