第二十話「守る為に」
――時は少し遡る。
「正気ですかアレン様……!」
レインの声が玉座の間に響き渡る。
「ああ……この方法しかない。でなければ誰一人として守ることは出来ない」
「しかし! そんな事をすればこの国の……『アレン王国』の民は半数以上が付いてこないでしょう!」
「そうだな……俺を慕ってくれていた者たちも例外じゃないだろう。だが時間が無い、噂が出回ってしまった以上、民を納得させるにはこれしかない。逆手にとるしかな」
アレンは落ち着いた調子で話を続ける――。
「もし、それでも残る民が居ると言うのなら俺は命にかえても必ず守ろう。それにレイン、俺にはお前がいるだろう?」
「……ええ、それは間違いありません。どこまででもお供します」
レインは玉座に座るアレンの前で膝をつき誓う。
「私はあなたが敵になっても、共にいると誓います」
「敵……か。今まで守ってきた民の敵になるなんて思いもしなかった。だがこれでいい。上手く行けば半数以上の者がこの国から居なくなるだろう。そうなれば俺でも守り切れる……かなり上手く行けば全員居なくなる……寂しいものだが仕方あるまい」
アレンは一貫して民を守る事しか考えていなかった。
「寂しくなんてありません。もし二人になったら私はアレン様と二人っきりです。独り占め出来ます」
「……ハッハッハッ! そうだったな。もし、この国に二人だけになったら式でも上げるか?」
「な……! 本当ですか!」
「……冗談だ…………イテッ」
立ち上がったレインは、玉座に座るアレンの元まで近付き、アレンのすねを蹴った。
「……ま、全てが冗談とは言いきれないもんだ」
「ゼノが関係しているのですか?」
「何故そこでゼノを出してくる。アイツはただの友人だ」
「本当にそうでしょうか。アレン様がゼノを見る目はただの友人を見る目では無いように見えましたが」
レインは観察が得意だ。主であるアレンに危険が無いか常に目を配っているからだ。その身に付けたスキルでアレンもまた観察対象として入れていた。
「確かにゼノは友人、とだけでは語れない仲だ」
「…………そうですか」
「そんな悲しそうな顔をするな。……俺とゼノは因縁のようなものだ。昔、色々あったのさ」
「今は何も無いと?」
「ああ、何も無い。やつは変わった。変わらないのは俺だけだった……さて、もう時間が無い。民の元に行くぞ」
アレンは玉座から立ち上がった。
「民を守る為に民を傷付け、俺は王としての威厳を失う」
「……はい」
「最後の王としてはカッコイイ幕引きだろ?」
「はい、とてもカッコイイかと……本当に」
「――さぁ! 行くぞレイン! 戦いはまだ始まってすらない! 誰も邪魔できない最高の決闘場を作るぞ!」
そして二人は騒ぎへと駆けつけた――。
***
「……思っていた以上に多いな」
「そうですね」
アレンとそれに仕える者レインは、騒ぎのある近くまで来た。
荒れる民達にバレぬようこっそりと……。
「俺はそんなに嫌われているのか?」
「……はぁ。しっかりして下さいアレン様。さっきのカッコイイアレン様のままでお願いします」
「あ、ああ……もちろんだとも」
騒ぎは柊達が居る場所だけではなく、街中で起こっていた。
「さて、どこから言って回るかだな」
「各所を回っていては時間がありません。アレン様お得意の大声で街中の民に聞かせましょう」
「大声とか言うな。あれは『王の覇気』という立派な――」
「はいはい、それでお願いします」
「……お前はたまに俺の事を王として見ていない時があるな。まぁいいが」
そして二人は偶然柊達を見つけ、アレンはお得意の大声を上げた。
***
「……とまぁこんな所だな」
つまりアレンはこの国の民を守る為に、一芝居打ったってことか。……なにからだ?
「アイツはなんだ」
「……アイツって誰ですか?」
ギルドのお姉さんが話に入ってきた。他の者も誰の事だ? というような顔をしている。ゼノアは何か知っていそうな顔だ。
そんな俺の疑問にアレンは答えた。
「……『ディベルドの使者』だ」
「なんだよそれ」
「知らないのか? 東の『ディベルド』といえば有名だぞ?」
知らねーよ。二ヶ月前に来たばかりだし。
「……『ディベルド』は商業で栄えている国だ」
「商業? なんでまたそんな国の奴がこんなところまでくるんだ?」
「――おい! さっきから聞いていればアレン様になんて口の利き方をする!」
レインが鬼の形相で話に割って入ってきた。
「よせ、レイン。……すまんな、で話の続きだが……」
ビックリした……レインとかいう女怖すぎる。ギルドのお姉さんとはまた違った怖さだ。ギルドのお姉さんがワニだとしたらレインは虎って感じだな。……どっちも同じくらい怖いじゃねぇか。
「この国、『アレン王国』は見ての通り小国だ。俺がゼロから作り上げた国だからな」
「え? アンタが作ったのか?」
「ああ。この国の民は皆、俺が拾った者達だ」
アレンのやつ一体いくつだよ……。見たところ三十代って所だが実際はもっとイッているのだろうか。
「アレン様はまだ二十代です」
また心を読まれた。いや、表情に出ていたのか。これで何人目だよ。レインは俺が言葉にする前に答えた。
「ここはいつ出来たんだ?」
「十年程前だな」
十代で国作ったのかよ……! いや、俺の故郷でも十代で起業するやつもいたし、それと同じような感じか?
「そんな小国であるここは、民の頑張りで少しずつ栄えていった。……だが『ディベルド』はそれが気に食わないようでな。少し前から『使者』を送っては、小国の分際でと俺にイチャモンをつけてきた。だが、俺は王だ。当然知らん顔をしてやった」
それが続きとうとう頭にきて、ついには向こうさんキレちまったってのか。
「……だが、つい最近だ。いつものように『ディベルドの使者』は来た。しかしいつもと違う者だった。確か、仮面を付けていたな……そいつは言った」
「なんて?」
「
「……え、俺?」
何でそこで俺が出てくるんだよ。この世界に来たのは二ヶ月前だぞ? なにか恨みを買うような事をする時間なんて俺には無かったぞ。レベルを上げるのに必死だったし。
「お前は何者なんだ柊」
俺はその鋭い眼光に一瞬気圧されそうになる。
「……何者と言われても、ただの魔法使いだけど」
「ただの魔法使いはあんな戦い方をせん」
ごもっともだ。
「……気付いたらこの国に居た。それだけだ」
「……そうか。嘘を言っているようでは無いようだ。……柊、俺ともう一度勝負しろ」
「は? なんでこの流れでそうなる」
「俺はまだ本気を出していない。負けたままというのが気に食わん」
そんなに悔しかったのかこいつ。
「……お願いします柊様。アレン様ともう一戦お願い出来ませんか?」
そう言うのはレイン、黒スーツを着た彼女だ。さっきまで俺を睨んでいた彼女が頭を下げてそう言ってきた。プライドが高そうな彼女がだ。
「……はぁ。いいよ」
「感謝する柊」
「ありがとうございます、柊様」
「俺も本気じゃ無かったしな」
それに断れば後々ねちねち言ってきそうだ。本気を出していないから負けたなど。そんな言葉を聞くくらいなら、本気の状態というこいつを負かせてやろう。そうすればこいつも納得するだろ。
そして俺とアレンは再戦する事となった。
「あの……私はどうすれば……」
付いてきたギルドのお姉さんがまたしても手を挙げ、呟いた。
誰もその言葉に反応しない。……誰か反応してやれよ。
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