第十一話「美少年……?」

 オタゴリラに時間を取られてしまった。珠希が寂しがっているかもしれないし、そろそろ宿に戻るか。オタゴリラと別れ、俺達は宿へと歩き出した。

 

「人為的……ね」

「どうかしましたか?」

「いや、あのオタクの言うことが少しな」

 

『人類進化計画』か。正直、あんまり信じてないんだよなぁ。こんなファンタジーな世界が作られた世界だって? ありえないだろう。そんな技術が今の日本にあるのか?

 

「……そんなわけが無い」

 

 ……だと言うのにどうも腑に落ちない。俺がこの世界に来た時、目が覚めたらここに居た。前世の記憶ももちろんある。だが、俺は車にはねられた後の記憶が無い。死んだのだから当然と言われればそうだが、例えば……

 

「……俺は死んでいなくてその体を……いや、ありえないよな」

 

 俺の体を誰かがいじくった? そんなまさかな。そもそも仮にそうだとしたら何故俺なんだって話だ。俺はそもそも学生であり、特に誰かに恨まれるような事もしていないつもりだ。自分で言うのもなんだが、ザ・普通の高校生だ。あのオタクは俺の事をイケメンとか言っていたが……

 

「……なぁフィーレ。俺ってイケメンなのか?」

「え? ……そうですね……カッコイイ方だと思いますよ?」

「そうなのか」

 

 俺ってイケメンなの? 彼女なんて出来たことないぞ。帰ったら珠希にも聞いてみるか。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「カッコイイ!!」

 

 宿に戻ってフィーレに言った事を珠希にも聞いてみた。それがこれだ。

 

「うん、知ってた」

「え? 何が?」

「何でもない」

 

 珠希はそう言うと思っていた。結局俺の事をカッコイイと本当に、心からそう思っているやつ誰一人として居ないって事だ。別にいいんだよ? だから何だよって話しだし?

 

「はぁ……」

「どしたのお兄ちゃん」

 

 俺は一体何に悩んでいるんだ。そんな事よりまずはレベルの上げ方だろ。イケメンとか人類補完計画的な陰謀論なんてどうでもいい。俺はこの世界に転生した。その事実だけで十分だ。今度こそ前世のような死に方はしない。どうせ死ぬなら大切な女の子の為に死にたいもんだ。

 

「少し早いがドラゴン、探しに行くぞ」

「え? でもまだ一週間しか経ってないよ?」

「このままここで雑魚ばかり倒していてもレベルが上がる気がしない。きっと何か条件があるはずだ。例えばそう、自分より強いやつに勝つとか……」

 

 根拠は無い。しかし、このままずっとこんな所にいても何も始まらない。それなら旅に出るべきだ。宿泊費は残り二週間分残っている。それまでに帰ってくる事が出来れば、それも無駄にはならないだろうけど、今はいい。お金よりまずはレベルだ。

 

「ただ問題がある……」

 

 俺はこの『アレン王国』付近にいる魔物をずっと倒してきた。

 それなりにここらで出現する魔物の強さや名前も分かった。

 ただし、今後はそうはいかないだろう。俺の知らない魔物も当然出てくる。強さも未知数……フィーレは置いていくべきか。

 

 俺はベッドに座って本を読んでいるフィーレの顔を見た。俺の考えを察したのか俺が何も言っても無いのに本を閉じ――

 

「――行きますよ?」

 

 と、言ってきた。

 

「これから先は長旅になる。当然出てくる魔物も未知数だ。フィーレ、悪いことは言わない。ここに残れ」

「嫌です」

 

 頑固だな……。さて、どうしたものか。

 

「私はいくぞお兄ちゃんよ!」

 

 まぁ、珠希は子供だが強いしまだ大丈夫だろう。基本的に戦闘は俺がするつもりだし。ただ、俺がもし目を離した隙に殺られるなんて事があったら嫌なんだ。うちにはヒーラーが居ない。毒なんか食らったら最悪だ。せめて自分の身は自分で守れる位の力は持っていて欲しい。その点、フィーレにはそれが不足している。だから俺はフィーレの為を思って言ったのだが……。

 

「私、死なないので」

 

 そんな、私失敗しないので、みたいに言わないでくれ。死亡フラグにしか聞こえない。……困ったな、フィーレがここまで頑固なやつだとは思わなかった。

 

「……はぁ。仕方ないか」

「いいんですか!」

「どうせダメだと言ってもお前付いてくるだろ」

「はい!」

 

 フィーレは笑顔でそう答えた。

 

「ただし、条件がある」

「……なんでしょう?」

「ヒーラーを仲間に加える」

「…………え? ヒーラーですか?」

 

 うちにはヒーラーが居ない。攻撃は俺が居る、珠希もその中に入るだろう。フィーレは……うん、まぁ一応攻撃役に入れておこう。そうなると全員アタッカーだ。ダメージを受けた時、回復出来ないというのはなかなかに厳しいだろう。……俺はまだダメージを食らっていないが。

 

「……なぁ、この世界ってポーションみたいなものってあるのか?」

「ポーションならありますけど……」

 

 なんだポーションあるのか。……いや、だからヒーラーが要らないという事にはならないな。ダメージを食らう度にポーションを使っていては金がかかる。それに、万が一無くなった時にポーションが無いから回復出来ないなんて事になったら最悪パーティー全滅になりかねない。

 

「よしお前ら、ギルドへ行くぞ」

「了解だお兄ちゃん!」

「……はい」

「お兄ちゃん言うな」

 

 ん? なんだかフィーレのやつ元気が無いな。もしかして、ヒーラーを加えることに乗り気じゃないのだろうか。

 

「どうしたフィーレ。何かあるなら言ってみてくれ。ヒーラーが要らないならそう言ってくれ」

「……いえ、私もヒーラーは必要だとおもいます」

「ならなんだ?」

「……大丈夫です。すみません、変な気を遣わせてしまって」

 

 なんだか煮え切らないな。なにか隠している気がする。フィーレは一体何に困っているんだろうか。

 

 ***

 

 冒険者ギルドへと来た。

 

「さて、お前ら。今からこの紙に募集内容を書く。欲しい条件、もしくは必要ない条件などを教えてくれ」

 

 俺は受付のお姉さんから貰った紙とペンをテーブルに置き、フィーレと珠希に条件を聞く。これは俺だけじゃなくこいつらの意見も必要だ。今後共にするであろう仲間の事だからな。

 

「はい!」

「よし、珠希。言え」

「私の下僕――」

「――却下」

「えぇーーーー! まだ最後まで言ってないのに!」

 

 下僕とまで言っている時点でアウトだろうが。

 

「フィーレはどうだ?」

 

 こいつはさっき悩んでいたからな。何か思う事があるはず。

 

「……えっとそれでは」

「おう、何でも良いぞ」

「え! お兄ちゃん今何でも言いって――」

「――お前はダメだ」

「えぇーーーー! フィーレだけずるい!」

 

 俺は珠希をスルーし、フィーレに顔を見る。

 

「……どうだ?」

「はい、では……その……女性は辞めた方が良いと思います」

「……女性? 何故だ?」

「あ、いえ! 別に良いんです! すみません、なんでもありません」

 

 女性は辞めた方が良いってどういう事だ? 女性冒険者の方が能力的に劣るとかそんなとこだろうか。

 

「いや、分かった。なら募集は男だけにしよう」

「ホントですか! ありがとうございます!」

「お、おう」

 

 フィーレは元気を取り戻したようだ。笑顔でこちらを見ていた。

 そうして俺はフィーレの意見を取り入れつつ、俺の要望も紙に書いていく。

 ……

 …………

 ………………

 

「……よし、出来た。これでどうだ?」

 

 

『ヒーラー募集中ー! アットホームな環境です!』

 ・主 魔法は使わない物理型魔法使い。

 ※使えないのでは無く使わないだけです。

 ・募 誰でも構いません。変な人以外は歓迎します。

 ※ただし、男性冒険者に限ります。

 

「わぁ! 良いですね!」

「だろ?」

「なんか胡散臭いよお兄ちゃん」

 

 何処がだよ。めちゃくちゃ良いだろ。

 

「こことかほら。今どき『アットホームです』とかブラック企業の謳い文句だよ」

「……確かに言われてみればそうかもしれない気がする」

「そうでしょうか? 実際アットホームですし、私はそのままでいいと思いますよ?」

「そ、そうだよな! よし、じゃあ貼ってくるわ。少し待っててくれ」

 

 俺は掲示板に書いた紙を貼る。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……来ないな」

「来ないね」

「来ないですね」

 

 何故だろうか。皆掲示板に目を通しては離れていく。アットホームはやはりマズかっただろうか。いや、フィーレは良いと言ってくれたんだ。良いに決まってるだろ。

 

「…………いいわけないだろ」

 

 フィーレが良いって言っている時点で何故俺は気が付かなかったんだ。そういえばこいつ馬鹿じゃねぇか。

 

「……すまん、ちょっと紙剥がしてくる」

「行ってらっしゃいお兄ちゃん」

「剥がしちゃうんですか? 良いと思いますけど……」

 

 お前が良いと言っているから剥がすんだ。俺は席を立ち、掲示板へと足を運ぶ。そして、紙を剥がそうとした時――

 

「――待ってくれないか。その紙よく見させてくれ」

 

 俺が紙に手を伸ばしたその時、短髪の美少年に声をかけれた。

 髪は黒く、ツヤがある。服装は露出が激しい動きやすいものだ。男なのに何故かエロスを感じる程に顔立ちが整っていた。そして腰には短剣を装備している。

 

「え、ああ良いけど。ほら」

 

 俺は掲示板から手を離し、紙を美少年に見せる。

 

「…………うん、良いね。その……良かったら僕を仲間に入れてくれないか」

「え、良いのかよ」

 

 美少年が俺達のパーティーに加入したいと申し出てきた。

 

(これを見て入りたいとかマジかこいつ)

 

「実は僕、君たちの事を知っていてね。前から気になっていたんだ。そして先程あるパーティーが仲間を募集していると聞いてここへ来た……それで、どうだろうか?」

「あ、ああ。良いよ、うん」

 

 まぁ断る理由も無いし、募集していた男だし良いか。

 

「ありがとう! 感謝するよ! 僕の名はゼノアだ。ゼノア・グランソルト。これからよろしく頼む」

 

 こうしてゼノアが俺達のパーティーに加入する事になった。

 

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