第十話「レベルとは」

 翌朝、俺はレベル上げのヒントを得る為に魔物狩りに来ていた。

 と言っても、いつもとやる事は変わらない。杖で殴って殴って殴りまくる。そんな生活が一週間続いた頃――。

 

「ねぇ、お兄ちゃん!」

「……静かにしてろ」

「これいつまで続けるの?」

「レベルが四十一になるまでだ」

「えぇー! もう無理じゃん」

 

 珠希の言う事に否定出来ない。かく言う俺も既に諦めモードだ。いくら倒してもレベル全く上がらない。せめて一でも上がってくれでもいいものだが。最後の方はもうただの魔物への八つ当たりだった。

 

「……あの、少しいいですか?」

「ん? どうしたフィーレ」

「レベル、というものですが思い出しました」

「何をだ?」

「私の知り合いにレベルの低い人が居ます」

「おい! マジか! でかしたぞフィーレ! 今すぐそいつの所に案内してくれ!」

 

 俺はフィーレの肩を掴み、頼み込んだ。

 

「良かったね! お兄ちゃん!」

「ああ! これで一歩前進だ!」

 

 良かったなんてもんじゃないぞ。レベルという事はつまり、俺達と同じ転生者である可能性が高い! もう無理かと諦めていたところに差した希望の光! フィーレを仲間にして本当によかった!

 

 ***

 

 ――と思っていた俺が馬鹿だった。

 

「…………こちらは?」

 

 俺は目の前に居る人物が誰なのかフィーレに尋ねた。

 

「こちらの方がさっき言っていた方です」

「ど、どうもぉ。デュフフッ、拙者オタゴリラと申すでござる。フィーレたんにはいつも食べ物を恵んで頂いておるのですはい。デュフフ……」

 

 ……なんだこいつは。まず第一印象から言わせてもらうと汚い、そして不潔。生え散らかした無精髭に緑のハチマキ。ぐるぐるの丸メガネ、おまけに上は赤のチェック柄のシャツで下はジーンズのようなものを履いている。

 

「……なぁフィーレ。もう一度聞くが、こいつは誰だ」

「こちらの方は私がパーティー仲間を探していた時に――」

「――あ、なるほど! 元パーティー仲間か!」

「いえ、違います」

 

 ……違ったようだ。

 

「じゃあなんだよ」

「はい、この方は私がパーティー仲間を探していた時にお腹を空かせて道端で倒れていたオジサンです」

「……で? つまり誰?」

「誰って……レベルの低いオジサンですよ?」

「…………ふぅ……ああそうかよ」

 

 なるほどな、うん。そういう事か。確かにこれはレベルが低い。

 レベルが低すぎて何故だろう……なんだか涙が止まらない。

 

「……なぁフィーレ」

「はい、なんでしょうか?」

「お前……バカだったんだな。すまない、気付いてやれなくて……」

「えぇ!? 私なにか間違ったことしましたか!?」

 

 俺はフィーレの右肩をぽんぽんと叩き、同情する。

 うん、お前はなにも間違った事をしていない。勘違いした俺が悪いんだ。そして、薄々気付いていたがフィーレ。こいつは馬鹿だ。

 

「行くぞ、フィーレ」

「え、もういいんですか? 何か聞きたい事があるって……」

「あるわけねーだろ」

「え! 拙者フィーレたんに呼ばれたから来たでござるよ!? もう用済みで帰れと言うのでござるか!? それはあんまりでござる!」

 

 うるせぇうるせぇ! オタゴリラに用はねぇんだよ。

 俺はオタゴリラに背を向け宿の方へと歩き出す。

 

「――ちょっと待つでござるよ!」

 

 オタゴリラに右腕を掴まれた。

 

「……なんだよ。もういいって」

「お主フィーレたんの何なのですかな!?」

「何でもねぇよ。じゃあな」

「いえいえ! ちょっと待って下され魔法少年氏!」

「誰が魔法少年だゴラァ! 二度とその名で呼ぶんじゃねぇ! 次言ったらブチ○すぞ!」

「ひ、ひぃ! 申し訳ないでござる!」

 

 しまった、つい感情的になってしまった。魔法が使えない俺が魔法少年と言われた事でついカッとなってしまった。俺はこんなやつに時間を使って一体何をしているんだろうか。自分が情けなく思えてきた……。

 

「柊さん! 待ってあげて下さい!」

 

 今度はフィーレに呼び止められた。

 

「……はぁ。なんだよ、俺は暇じゃないんだ」

 

 そう、暇じゃない。俺は時間があるだけで決して暇では無い。

 俺はレベルの上げ方が知りたいんだ。

 

「違うんです! 柊さんはこの方を誤解しています!」

「誤解? これのどこがだ! ただのレベルの低いおっさんじゃねぇか!」

「い、いえ! 違うんですって! この方……オタゴリラさんはどうやら『日本』から来たみたいなんです!」

 

 ……は? 今フィーレのやつなんて言った?

 

「……どういう事だ」

「拙者は所謂、異世界召喚されたのでござるよ」

 

 オタゴリラは頭をポリポリと掻きながら、そう言った。

 

「……おい、フィーレ」

「は、はい」

「次からはもっと分かりやすく、端的に教えろ」

「すみません……」

「拙者が悪いのでござるよ! フィーレたんは何も悪くないでござる! だから責めないで上げてほしいでござる! ぶつなら拙者を! 何卒!」

「分かった分かった。何もしない……で? 教えてくれ。アンタがどういう経緯でこの世界に来たのかを」

 

 オタゴリラは地面に座りだし話し出した。どうやら立っているのが辛いらしい。運動不足だ。

 

「実は拙者、『アンノーン』という会社の責任者をしておりました、はい」

「つまり、社長ってことか?」

「い、いえ! そこまで偉くは……ただ、業務をほぼ全て拙者に一任されておりました故、そう捉えて頂いても構いませぬが」

 

 社長代理って所か? にしてもこいつが? 見た感じ社長というより、ただの不潔なやつだぞ……。

 

「で、それが何か関係しているのか?」

「……あっいえ、関係しているかどうかは……ただ……」

「ただ?」

「拙者の会社は常に最先端を求めていた会社であったでござる……そして実験にと、拙者が選ばれたでござる」

「……何にだよ」

「『人類進化計画』でござる」

 

 なんだよそれ。いきなりSFみたいな話になってきたぞ? 俺が求めていた答えでは無いのだが……。

 

「……俺はアンタがどういう経緯でここに来たのかを聞いているんだ。そんなよく分からない計画の話はどうでもいい」

「まぁまぁ、最後まで聞くでござるよ」

 

 オタゴリラは続けた。

 

「その『人類進化計画』はこういったものでござる『

 人類を新たなステージへ』」

「なんだよそれ……」

「拙者も詳しくは知らないでござる……ただ一つ言えるのはこの転移は人為的なもの・・・・・・、という事でござる」

「……は? そんな訳あるか。俺は死んだんだぞ?」

 

 そうだ。俺はあの時、車にはねられて死んだんだ。人為的とか意味が分からない。そもそも異世界転生自体が夢のようではあるが……しかしここは紛れもなく現実だ。

 

「異世界に転移するなんて技術今の日本に無いだろ」

「拙者もそう思いたいでござるが……見てしまったのでござる」

「……何を見たんだよ」

「『人類進化計画』の計画表でござる」

「そこにはなんて書いてあったんだ?」

「……申し訳ないでござる。拙者もそこまで詳しくは見ていないでござる」

 

 なんだよ、ならこの話は一体何だったんだよ。

 

「なんせ拙者、何者かから注射のようなものを打たれ意識を失ったでござるから……」

「……なに? 意識を失った?」

「左様。そして、目が覚めたらこの世界に居たでござる」

 

 ってことはこいつも死んだって事なのか……?

 

「先に言わせてもらうと、拙者多分死んでは無いでござる」

「なぜそう思う?」

「拙者もこの世界に来たばかりの頃、自分は転生したのだと思ったでござる。……ただそれは直ぐに違うと気付いたでござる。何故なら転生なら……」

「転生なら……なんだ?」

 

 オタゴリラの顔付きが変わった。今までより深刻な顔になり、これから重要な事を言うのだと、俺ですら分かった。

 

「…………転生なら拙者、イケメンになっているはずでござる」

 

 ……どうやら俺の勘は狂っている様だ。オタゴリラは頑張って二重にして、こちらをまじまじと見てくる。こいつは至って真剣のようだ。ふざけてはいない……多分。そう願いたい。でなければ今すぐにでも持ってる杖で殴ってしまいそうだ。

 

「拙者も柊殿のようにイケメンになりたかったでござるよ……」

「俺はイケメンでも無いし、そもそも年齢が違うだろ。アンタ何歳だよ」

「拙者二十六になるでござる……」

「……お、おう。まじか」

 

 見た目からてっきり四十後半かと思っていたが、以外に若いオタゴリラだった。

 

「拙者も柊殿の様にイケメンであれば……フィーレたんに告白の一つでも……するのでござるが」

 

 お前はまず見た目と喋り方から変える必要があるだろう。面倒臭いからあえて何も言わないが。

 

 ……え? レベルの上げ方は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る