第七話「転生者、現る」

 う〜んよく眠れない……暑い。

 

「……うぅ…………ん?」

 

 なんだこの柔らかいの……俺は手を動かす。

 

「あ、あの……」

「……あ」

 

 俺は無意識にフィーレの服の中に手を突っ込んでいた。

 

「いや、悪い! 違う! わざとじゃないから!!」

「いえ、大丈夫です。一つのベッドで寝ているんですから、こんなこともありますよ」

「お、おう……」

 

 フィーレのやつえらく冷静だな。俺はこんなにもドキドキしているのに。……にしてもまだ手に感触が残っている。初めて触ったこの感触。柔らかかったなぁ。

 

「……よし、今日は強い奴を狩りに行く」

「あ、はい!」

 

 俺はこの場の空気を変える為、話題を変えた。

 

 ***

 

「今日はマンドラゴラゴンより強い相手が欲しいんですが、なにか居ませんか?」

「うーんそうですね……マンドラゴラゴンは上級寄りの中級モンスターなので、それより上となると上級モンスターになりますよ?」

 

 上級モンスターか……今の俺に倒せるのだろうか? 俺はAGI敏捷には一切ステータスポイントを振っていない。もし俺より強い場合『逃げる』という選択肢は俺には出来ないだろう。だから本来なら慎重に選ぶべきだ。だが、レベルが一切上がらない現状を打破するにはやはり、上級モンスターに挑むべきだろう。

 

「構いません。上級モンスターのクエスト、紹介して下さい」

「かしこまりました。でしたら、ゴーレムなんていかがでしょうか」

 

 ゴーレムか……ゲームなんかだと、岩で作られた巨大な人形のイメージだが。ゴーレムが上級?

 

「特徴を教えてください」

「ゴーレムの洞穴ほらあなに生息しています。この近くにありますよ? ゴーレムは凶暴性が高く、知恵も高いモンスターです」

 

 ゴーレムって知恵あるモンスターだったか……? そんな俺の疑問を受付のお姉さんが答えてくれた。

 

「ゴーレムがゴーレムを作り出すんです。そうやって増殖しています」

「え? ってことは結構な数居るってことですか?」

「はい……それに凶暴性が高いので、その付近には誰もいません」

 

 元々ゴーレムの洞穴の近くには村があったそうだ。しかし、その洞穴に一体のゴーレムが迷い込んだ。そこで増殖し、今はゴーレムの洞穴となっているらしい。

 

「分かりました。俺が行きます」

「はい、では承認しますね。気を付けてください」

 

 ***

 

「あの……柊さん、ほんとに大丈夫ですか?」

「ああ、多分」

「多分って……」

 

 最悪勝てなければ、俺がおとりになってフィーレだけでも逃がせばいい。俺も相手の強さがまだ分からない。どうやら俺が知るゴーレムとは随分違うみたいだしな。

 

 ……

 ………

 ……………

 

 着いた。ゴーレムの洞穴ほらあな……確かに大きいな。このサイズの洞穴に入るってことはゴーレムもきっとかなり大きいんだろう。

 

「よし、進むぞ」

「は、はい!」

 

 俺とフィーレは洞穴に足を踏み入れた。その瞬間何かが起動したような音が聞こえた。

 

「ん? なんの音だ?」

 

 俺は足元を見る。すると何かを踏んだみたいだった。

 なるほど、罠が作動したのか。そしてまた新たに違う音が聞こえてくる。次は何かが動くような音。その音は段々近付いてくる。

 

 俺とフィーレは岩陰に身を隠し、音の鳴る方を注視する。

 

「………あれは」

「土人形……? ですね」

 

 土で出来た巨大な人形が沢山居た。しかし、それだけなら俺の想定していたゴーレムとほとんど同じだ。俺が気になったのは――

 

「あれは機械か……?」

「キカイ? ですか?」

 

 うーん、どう説明すればいいんだろう。某機械で戦う戦闘アニメと言えば良いのだろうか。いや、アニメなんて言っても分からないな。とにかく、自然に出来たものじゃないのは確かだ。これは誰かの人工物だ。

 

「アイツが恐らくリーダーだ。奴を倒す。フィーレは下がってろ」

 

 多数のゴーレム達の後ろに他のゴーレムとは違うものがいた。

 俺は岩陰から身を出し、ゴーレム達の前に姿を現す。

 

「おい、俺が相手をしてやる」

 

 ゴーレムは立ち止まった。

 

「コロセ」

 

 なに? 今喋ったのか!? ……やっぱりなにかあるなあのゴーレム。この土人形共を倒してからじっくりと観察するとしよう。

 

 

 ……

 ……

 …………

 

「はぁ……数が多いなぁ」

 

 個々は大したことないが、数が多すぎて手が疲れてきた。

 

「コロセ! コロセー!!」

 

 くそっ! まだまだ居る……! 分かったよ! 全て片付けてやる。

 確実に減ってきてはいる。このまま行けば大丈夫だっ!

 

 ……

 ……

 …………

 

「……ふぅ。もう終わりか?」

「ナ、ナンダオマエ!」

 

 リーダー格のような者がついに姿を現した。

 

「やっぱり喋れるんだな。お前こそ何だ。ゴーレムじゃないのか?」

「ワタシガゴーレムダト? ワタシヲナメルナヨ」

 

 機械ゴーレムが俺に巨大な手をかざしてきた。

 

「クラエ!」

「……まずい! フィーレ!! 今すぐここを離れろ!」

 

 俺は岩陰に隠れていたフィーレの手を取り、全速力で洞穴の出口を目指し走る。

 

「ニゲテモムダダ」

 

 ゴーレムの手に光が集まっていく。

 

「くそ……! 間に合わないか!」

 

 俺には盾が無い。AGIも上げてないからこのまま逃げきることはできない。……くそ! こんなことならAGIにもステータスポイントを振っておくんだった。今更言ってもしょうがないが。

 

「フィーレ、俺の後ろにいろ」

「え……? は、はい!」

 

 俺は覚悟を決め、杖を両手で持ち構える。

 

「ムダダ」

「無駄かどうかはやってみなきゃ分かんねーだろ」

 

 その姿はまるで野球のバッターのよう。

 

「クラエッ! ロボロボビームッ!」

「だっせぇ名前だ……なっ!!!!!」

 

 俺は杖を振りかぶった。ゴーレムから出たビームを打ち返してやった。ビームはゴーレムの後ろをすり抜けていき爆発した。

 

「ナニ!?」

 

 打ち返す俺の姿を見て、機械ロボは驚いて腰を抜かしている。

 

「オマエマホウツカワナイノカ!?」

「使え……使わない。お前みたいな雑魚にはな」

 

 俺が魔法を使わない姿を見て、後ろで少し残念がっているフィーレ。

 

「さぁ、お前が何者か教えてもらおうか」

「ワタシハテンセイシャダ」

「……なに? 転生者だ?」

「ソウダ」

 

 そう言うと機械ロボは目から光を失う。すると機体の真ん中が開いた。

 

「お前こそ何者だ! 私の研究の邪魔をしよって!」

「……人間かよ」

 

 機体の中から小さな女の子が出て来た。グルグルの丸メガネを掛け、白衣を着ていた。研究者ごっこか……?

 

「転生者と言ったが、どこから来た?」

「日本だ。……まさかお前もなのか?」

 

 俺は少女の問いに無言で頷く。

 

「そうだったか! それはすまない! 私はマッドサイエンティストの狂沢くるいざわ 珠希たまきだ! お前はなんて言うんだ?」

「……ひいらぎ 奏多かなただ」

「私はフィーレ……です」

「…………誰だお前は」

「酷いですぅ!」

 

 俺はこの世界に来て初めて同郷の者と接触したのだった。

 ゴーレムを何十体も倒したが、経験値は得られなかった。恐らく、この少女の召喚物だからだろう。

 

「……はぁ……苦労したのに経験値ゼロか……」

「……経験値なんて得られるわけが無いだろう?」

 

 ん……? 経験値のことを知っているのか。てことはこいつも俺と同じくステータスを持っている……?

 

「なぁ狂沢」

「珠希でいいぞ?」

「どっちでもいいんだが、お前今レベルいくつだ?」

「私は二十一だ!」

 

 俺より下か。しかし、俺の思った通りだ。恐らく転生者はもれなく皆ステータスを持っている。となると、俺よりレベルの高い転生者が居てもおかしくは無い。……もっとレベルを上げないとな。

 

 前みたいに対人戦となった時、レベルがものを言うだろう。魔法使いが相手なら、アビリティ【魔法使いの掟破り】がある俺に分があるだろう。なんせダメージを受けないからな。ただ、戦士は話が別だ。正直、レベルが上なら勝てる気がしない。できる限り転生者同士の戦いは正直避けたい所だが……。

 

「さて、じゃあ転生者同士だ。情報を交換しようか」

 

 俺と狂沢の、転生者同士の対談が始まった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 《ひいらぎ 奏多かなた

 Lv.40

 

 HP【4900/4900】 MP【0/0】

 

 STR【500】 ATK【500】

 

 VIT【50】 DEF【50】

 

 INT【50】 RES【50】

 

 DEX【50】 AGI【50】

 

 LUK【0】

 

 アビリティ:【不器用な魔法使い】

 アビリティ:【魔法使いのとっておき】

 アビリティ:【魔法使いの最終手段】

 アビリティ:【魔法使いの掟破り】

 スキル:【ミスディレクション】

 装備:【戦士のピアス】

 

 

 ◇◇◇

 

 

 【不器用な魔法使いLv2】

 ・与える物理ダメージ3倍

 【魔法使いのとっておきLv2】

 ・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ

 【魔法使いの最終手段】

 ・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇

 【魔法使いの掟破り】

 ・魔法使いに与える物理ダメージが500%上昇し、魔法使いから受ける魔法ダメージを0にする。

 

 スキル【ミスディレクション】

 ・【MP消費0 相手の視界から一時的に消えることが出来る。

 ※ただし、相手との力量で効果変動

 

 【戦士のピアス】

 ・物理ダメージ5%上昇

 

 

 ◇◇◇

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