計測


「こちらが今回の計測に関する資料となります。また、雨野あまのさんは受験先への提出のため別途資料を請求されていたようですが、お間違いありませんか?」

 受付をしている女性が奥からカウンターに戻ってくると、数枚の資料と大きさの違う2つの封筒を手にしていた。

 2つの封筒をカウンターに置き、数枚の資料をこちらへ向けて手渡してきた。

「ありがとうございます。間違いありません。」

 手渡された3枚の資料を確認すると、今日の計測の記録だけでなく、これまでの計測の記録等が数値やグラフを用いて示されている。

 棒グラフで示されている出力の項目が目に入った。これまでの十一年間の緩やかな記録の伸びに対して今日の記録、つまり今年は跳ね上がるように記録が伸びている。

 資料には二次元コードも印刷されており、これをスマートフォン等で読み取り、進んだページからログインすることでも自分の記録を確認することができる。

「では、こちらが受験先への提出用の資料となります。開封しないようにお気をつけください。」

 受付の女性は手元に置いていた封筒のうち、大きい方をこちらへ手渡してきた。

「ありがとうございます。」

「それから、こちらが報奨金です。」

 続いて最後に残った小さな封筒をこちらに渡してきた。毎年このために計測に来ているといっても過言ではない。まあ、魔法の計測はホルダーの義務だから来ざるを得ないんだけど。

 報奨金とは、今年の記録と過去最高の記録を様々な面から比較し、今年のほうが成長していると判断された場合に渡されるお金のことだ。ちなみにボクは今回を含め六歳の頃から十年連続で報奨金を貰っている。報奨金の受け取りが十一年連続でないのは、初回の計測は報奨金が貰えないからだ。これで1年に1度の計測が終わった。




     * *


 受け取るものも受け取ったため、先に計測を終えた両親と合流する。両親もホルダーなので一緒に計測を受けに来ているのだが、計測は最初の計測日より十ヶ月以降から十四ヶ月以内なら、予約をしておくことでいつでも受けられる。

 ただし、ボクみたいに受験のために新しい計測記録が必要な場合等の事情があれば、1年に1度に義務付けられている計測とは別に計測を受けられる。

 ボクはたまたま受験申し込みの少し前の計測だったため、毎年の計測と受験用の計測を兼ねていた。

「おつかれー。」

 母が先に気づいてボクに向かって声をかける。ちなみに母の魔法は遠隔でモノを操るというものだ。一般的にテレキネシスとかいわれているアレだ。

 母と対面して座っている父が母の声を聞いて遅れてボクに気づいた。

「お、終わったな。帰るかぁぁ…」

 言いながら立ち上がって軽く伸びをする。それなりに待たせていたようだ。父は魔法でナトリウムを生成できるらしい。イメージしにくい。




     * *


 車に乗り、とりあえず自分の資料を母に渡す。車内の配置は父が運転席、母が助手席、ボクが助手席裏の後部座席だ。

令太れいた、うまくやれたか?」

 父が車を走らせながら言う。

「たぶん。グラフ見るとちょっと不自然だけど。」

「このくらいなら気にならないんじゃない? お父さんなんてこれの反対に大きく記録が落ちてるんだから。」

 母はボクの計測の資料を手にしながら、ボクが不安にならないためにフォローをしてくれる。

「この年になってくると記録が下がりやすいらしいからな。そういえば、令太のお金はまた口座に振り込んでおくか?」

 お金というのは報奨金のことだろう。例年通りこの封筒の中には一万円札が入っているはずだ。

 毎年、このお金は自分の口座に入れておいてもらったり、欲しいものを買うのに使ったりしている。

「いや、お金は今日使いたい」

「ん、なんか買うのか? どこの店だ?」

 買いたいものがある訳ではない。

「今からこの金で焼肉を食べよう。」

 約三千円の食べ放題コースを3人で頼めば一万円で足りる計算だ。計測の日はいつも外食のため、母が今日の夕飯の計画や準備を済ませているなどといった心配はない。

「え、いいんですか?」

 なぜか敬語の母だが、こういう使い方をしたことがないので少し驚くのも仕方ない。

「受験前に良いことしておきたいから。」

 それらしい理由を言ってみせたが実際は違う。今日の計測時に大幅な記録更新があったのだが、あのときボクの中では全力の7割くらいのつもりで計測に挑んだ。7割にもなればある程度限界を感じるものだと思っていたが、まるで感じなかった。

 そのときの高揚感がまだ体から出ていかない。ボクの魔法はどこまでが限界なのだろう。

 話を戻して、普段からは考えられない言動になってしまったのはこの高揚感が原因だといえる。自分でも今、少し恥ずかしい。

「そういうときは親孝行したくなったとか言っとけよ。」

「じゃあ、そういうことで。」

 スマートフォンで近くの焼肉屋を調べていると、ちょうどいい値段の店が見つかった。たしか以前にもそこで食べたことがある気がする。

 母に場所を伝えると、やはりカーナビの履歴から目的地を設定したため、記憶に間違いはないようだ。

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Peaceful Days 栗原 翠 @tojimary

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