第7話 サーシャの才能

「これは......」

「教えがいがこんなにある子が近くにいたなんて......私の見る目も落ちたのかしら」

「......」


 サーシャの身体強化の才能は凄まじく、部分的な強化を完全にマスターしてしまった。

 少ない魔力を感じさせない強化密度を必要な時に必要な部位に的確に施しながら動くその姿は俺が闇魔法で全身を強化した時と遜色ない速さだった。


「ふぇぇぇ、つ、疲れました」

「頑張ったわね、打ち上げにでも行きましょうか、お祝いよ」

「え、良いんですか!?」

「もちろん私の奢りだから安心して食べなさいサーシャ」

「はいっ!」


 サーシャを見ていると俺も訓練に対するモチベが上がったような気がする。

 目覚しい成長というのは見ていてやる気を貰えるものだ、俺も抜かされないように頑張らなければ.........



「んぅぅぅ! おいひぃれふ!」

「落ち着いて食べなさい、あと顎を魔力で強化するのはやめなさい、急いで食べなくてもご飯は逃げないわ」

「わかりまひた」

「ほら、口にソースが付いてるわ」

「んぐっ、ありがとうございます〜」

「ふふっ、良いわ」


 あそこまで楽しそうにしているアイリスはなかなか見られないな、模擬戦で俺の事をボコボコにしている時のようなその笑顔は俺にとっては少しトラウマものなのだが綺麗で何時まででも見ていれそうだ。


「......さっきから何かしら? 私の顔にソースでもついてるの?」

「いや、何も無いよ」

「ふぅん、まあ、何も言わないでおいてあげるわ」

「助かる」


 どうやらアイリスお姫様は読心術も極めているのか俺の心の中を覗いたかのような反応を見せる。

 まあ、見られて困るようなことは考えていないので別に良いのだが。


「今日はありがとうございました!」

「えぇ、これからも訓練頑張りましょう」

「気をつけて帰るんだぞ」

「はいっ! ではまた明日!」


 足を強化しながら爆速で寮の方へと走っていくサーシャを見送る、しかしあそこまで魔力強化を多用すると明日筋肉痛でとんでもない事になるんじゃ......

 慣れてない人間が魔力強化で調子に乗ると起こる現象なのだがここまで使いこなせると思っていなかったので注意するのを忘れていたのだ。


「はぁ、あの子明日は迎えに行ってあげないとダメそうね」

「あぁ、筋肉痛でろくに動けないだろうな」

「まあ、明日は移動教室もないし教室まで運べばあとは大丈夫でしょう、念の為私の部屋に帰るように伝えているしね」

「用意周到だな、さて俺達も帰るか」

「......そうね」


 俺とアイリスは並んで街を歩き始める。

 他の寮生に会わないように少し遠くまで食べに来たのでまだまだ寮まで時間はあるのだが、寮に近づく度にもう少しだけこの時間が続けばいいと心の底から神に願う。


「ねぇ、あなた闇魔法の隠密系は使えるかしら、私は苦手なの」

「一応使えるけど? 触れてる相手じゃないと効果が届かないぞ」

「そっちの方が都合がいいわ、ほら、手を出しなさい」

「え?」

「たまにはこういうのも良いでしょ? それとも嫌かしら」

「いや、ありがとう」


 アイリスの細く綺麗な手を握る。

 少し冷たくすべすべとした触り心地がたまらなく、もう少しでこの時間が終わるのを妬ましく思う。


 お互いに好意はある、それは確認するまでもないと俺は心の底から信じている。

 しかし、今の俺には何も無いのだ、地位も力も何も。

 魔王の娘、アイリスと隣に立って同じ歩幅で歩む力が俺には無い。


「もう少し待っててくれ」

「あまり遅くなるのは嫌よ」

「頑張るよ」


 そんな会話が行われてから寮までずっと無言の時間が続いた。


「ここまでで良いわ、ここなら誰にも見られてないでしょうし」

「あぁ、また明日」

「......耳を貸しなさい」

「え?」

「待ってるわ、何時までも、あの日助けられてから私はあなたのものよ」


 そういうとアイリスは女子寮の方へと走っていってしまった。

 待っているそう言ってくれたがその言葉に安心してゆっくり進むなんて俺自身が許さない。


 この学園で誰よりも強くなって、魔王に価値ある人間だと証明する。

 そのために俺は強くならないといけない。


 魔王を倒してお姫様を貰い受けるなんて童話の勇者みたいじゃないか。


 勇者学園で誰からも勇者になれるなんて言って貰えなかった。

 そんな俺を勇者にしてあげると拾い上げてくれた存在アイリスを何時までも待たせる訳にはいかないよな......



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 ちょっと2人ともバックストーリーがあまりにもないけど、そのうち回想で明かしていこうかなって思ってます。

 話の出し方下手でごめん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る