第4話 サーシャ

「新人くん、何してるの......?」

「あぁ、これですか? 水魔法を操る練習みたいなものですかね」

「器用なんだね」

「人並よりは魔力操作ができる自信はありますよ」

「そうなんだ、いいなぁ、私はなんにもないから」

「そうですか? 足は早いですし身体能力は高そうですけど」

「それだけじゃ凄い人には勝てないでしょ、逃げ足だけだもん」


俺はサーシャさんが話してくれるまでの暇つぶしで水魔法を使って動物を造形してみたり、いろんな形を作って遊んでいた。

サーシャさんは自分の得意なことを自覚していながら逃げにしか役に立たないと可能性を断ち切っている。


その姿がどこか自分と重なった。

闇魔法なんていらないと雷魔法を必死に練習してそれでも虐められた。

いっそ開き直って闇魔法を極めていれば俺は今頃胸を張ってアイリスに告白出来ていたかもしれない。


「サーシャさん、何があったのか話してくれない? きっと俺が力になるよ」

「......実は、私、家が貧乏でこの学園に通うのでも精一杯なんです、なのに狼獣人の子に虐められてて、大事なお昼ご飯代が取られちゃって......無理してお母さん達が用意してくれた大事なお小遣いなんですけど......出せって言われて逃げるしかできなくて」

「そうだったのか」

「笑っちゃいますよね、せっかく通わせて貰った学校すらも嫌いになりそうで、やめて働こうかな」


そういう事だったのか、狼獣人の奴がどんなやつかは知らないがこんな可愛い子を虐めて何が楽しいんだろうか。


「俺も、アイリスに拾われるまで人間の国で虐められてたんだ、自分の殻に籠って外を見なかった俺を無理やり外に連れ出してくれたのがアイリスだった」

「え?」

「意外か? 俺はそんなに強くないんだよ」

「......」

「なぁ、サーシャ一緒に強くなろう、虐めてるやつを見返すくらい強くなって両親に笑顔で卒業を伝えてやろうぜ」

「......どうしてそこまでしてくれるの?」

「アイリスの真似事だよ、憧れの人の真似はしたくなるだろ?」

「ありがとう、アーランくん」


カッコつけたはいいものの人に教えるなんてしたことが無いので手探りな状況は変わっていない。

とりあえず明日は授業を受けるところから始めないとな。


「それじゃ、教室に戻ろうぜ」

「うん......」


俺の隣を歩くサーシャさんには少し力強さが戻ってきたように感じた。



俺たちが帰った教室はガランっとしていてもうみんな帰った後だった。

アイリスは俺たちを待ってくれていたのか1人で本を読んで教室に座っていた。


「へぇ、私を放ったらかしにした挙句、私の数少ない友達を毒牙にかけたと」

「誤解だって!」

「そ、そうだよ、アイリス! アーランくんは助けてくれて」

「アーランくんねぇ、随分と仲がいいみたいね、良いわ、サーシャ今日は私の寮室に来なさい朝までたっぷりと尋問してあげる、アーランへの判決はそれからよ」


どうやら俺の命運はサーシャさんにかかっているらしい。

俺は早く帰れと男子寮に追いやられてしまった。


男子寮は広くは無いが個室が用意されており、俺も自分の部屋に入った。

綺麗に整えられた部屋には何も家具がなく、運び込まれた荷物だけがポツリと置かれている。

荷物を広げるほどのものがないのでクローゼットに制服を入れると私服に着替えてベットに寝転がる。


転入初日に授業をサボってしまったが、サーシャさんとはこれからも仲良くできそうだ。

この調子で友達を増やすぞ!


そう意気込んで今日の疲れを取るために寝ることにする。

明日はきっと罰というなのシゴキが待っているので体力を温存しなければ......

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