第2話

「それでアイリスお姫様、俺って魔王学園に行くために何か準備でもあるんでしょうか?」

「そうねぇ......転入生だし、制服とかの準備は私がしてあげるし......あっ」

「何かあるんですか?」

「準備運動だけしておいた方が良いかもしれないわ、頑張りなさい」


 準備運動? 嫌な予感がビリビリするのだがどうすればいいんだ?

 魔王学園からは逃げられない


「えっと、魔王学園は何時から始まるんでしたっけ?」

「明後日」

「え?」

「明後日よ」

「え?」

「まあ、当日は馬車に乗って転入の挨拶決闘をするだけよ」


 何か挨拶に含みを感じたが今はそんなことを気にしている場合では無い。

 ミャーを預ける場所を探さなければ......


「ミャーちゃんは城で預かるから安心しなさい、ほらあそこでミャーちゃんに魅入られたメイド達が」

「あ、メイドさん! これ」

「え、わ、え」

「ミャーの事に関するメモです、ミャーの事よろしくお願いします」

「ま、任せてください!」


 普段の城でのミャーのスペースはこの人達が整えているらしいので、かなり安心して任せられそうだ。

 何年も一緒に過ごしてきた大切な家族なので信用出来る人に任せたいのだ。

 今日はここにミャーを預けて明日の様子をしっかり見よう。


「じゃあ、俺、今日は帰るんでアイリスお姫様もゆっくり休んでくださいね」

「あ、う、うん......また明日、ミャーちゃんは預かったままなんだからちゃんと来るんだぞ......」

「はいはい、分かってますよ、それじゃ」

「うん......」


 あそこまで寂しそうにされてしまうとこちらが帰りずらいじゃないか。

 まあ、そういうところも彼女の魅力なのだが今日は荷物を纏める必要があるのであまり構ってばかりはいられない。


「えっと、あれ? 特に持っていくものもないし帰ってくる必要無かったのでは?」


 そう、俺はアイリスに拉致......じゃなくて連れてこられてから特に物も買っていないので食料品とベット以外家に無いのだ。

 お陰様でお金は有り余っているし、お金だけ持って、それ以外はこの家に置いたままでいいだろう。


「......早いけど寝るか」


 早めに寝た俺は次の日にアイリスから必要になりそうなものを街であらかた買い終えた。

 今日はアイリスが城の一室を貸してくれるらしく、そこで寝ることになった。

 明日の朝は早いがメイドさんが起こしてくれるらしい。

 至れり尽くせりで少しアイリスの生活が羨ましくなった気がする。




「よし、出発よ」

「おう、移動手段はどうするんだ?」

「え? 転移魔法陣がそこにあるでしょ? 魔王学園のある王都に繋がってるのよ」

「え、そんなに簡単なの!?」

「そうよ、ほら早く行くわよ」


 アイリスに手を引かれて光る魔法陣に飛び乗ると淡い光に全身が包まれて一瞬の浮遊感が終わると王道に着いていた。

 綺麗に整備された街がココが首都であることを教えてくれる。


「さて、さっそくいきましょう」

「お、おう」


 少し歩くと大きな建物が見えてきた、アイリスによるとあそこが魔王学園らしい。

 門を潜るとアイリスはどこかに向かって迷わず進んでいる、転入生の挨拶って何をすればいいんだろうか。


「よし、これあなたの剣よ、こっちは魔法の補助具のネックレス、頑張って来なさいな」

「え?」

「ここを真っ直ぐ行くとみんな歓迎してくれると思うわよ? 転入生が来るのは一大イベントだもの」


 ここまで来ると粗方、この先で何が待っているのか想像できるのでますます行きたくなくなってきた。

 今いる場所は少し薄暗く1本の長めの通路の先には光が見える。


 アイリスから貰った剣を腰に、ネックレスを首にかけて歩き始める。

 薄暗い通路を抜けた先には広い広い闘技場のようなものがあった。


「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」


「さぁ! 我が魔王学園にも4年ぶりに転入生がやって参りました! 100年前から始まったこの転入生歓迎会! 実力がなければこの学園は無理だぞということを肌で感じてもらいましょう!」


「「「「「実力を見せろーーーー!!」」」」」


「さぁっ! それでは今回のお相手は! 魔の樹海に生息する強力なモンスター......イビルハンターだ!」


 イビルハンター......鋭い鉤爪と猛毒の牙を持っておりアクロバットな高速移動がこいつの持ち味だったはずだ。

 実際に戦ったことはないけど、人間国の図書館に引きこもっている時、本で書かれていたのを思い出した。


「さぁ! 檻が開くまで!」

「「「「「3!」」」」」

「「「「「2!」」」」」

「「「「「1!」」」」」


 檻が開くと同時に閉じ込められていた鬱憤を晴らしたいのか俺目掛けてまっすぐに突っ込んでくる。

 毒を持った攻撃を受ける訳には行かないので受け流しながら距離をとる。


 少しの睨み合いのあと、仕掛けたのは俺だった。

 魔法で地面から土の槍を生み出しイビルハンターの腹部を狙う。

 流石と言うべきか、すんでのところで避けられてしまったがまだ追い打ちをかけられるので俺のターンだ。


 水の檻を作り強い電撃を流しつ続ける。

 どうやら電気に体勢があるらしく、余り効いていないように見える。


「アーラン! あんたの力見せてあげなさい!」

「無茶言わないでください! 結構限界なんですって!」


 お得意の雷魔法が効かないとなると俺に出来る手段はそんなに多くないのだ。

 勇者学園にいた頃は必死に雷魔法だけを勉強していたのでそれ以外であまり攻撃手段がない。


「嘘つきなさい! 命令よ! 本気で殺りなさい!」


 本気......か

 この学園でならあの魔法を使っても虐められたりしないんだったよな......


「......」


 俺が唯一言葉に出さずなんのアクションもなしに即座に出せる属性がある。

 闇属性......俺が人間世界に馴染めなかった理由でもありアイリスに拾って貰えた理由でもある。


「死ね」


 闇を纏った剣がイビルハンターに喰らいつき、命を吸い取り始める。

 暴れれば暴れるほど闇は体を蝕んで敵を衰弱させていく、敵から吸い取った魔力でさらに追い打ちをかける。

 イビルハンターを蝕んだ闇が消えたと同時に電池の切れた玩具のようにぐったりと倒れ込んでしまうイビルハンター。


「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」


「なんとっ! イビルハンターを単騎討伐!恐ろしい闇魔法の練度だっ! 今年の転入生は凄いぞ!」


 勇者学園でこの闇魔法を見られた時と真逆の反応が沢山返って来る。

 かっこいいとか強いな! とかそんな言葉が本当にあの魔法を見て出でくるなんて人間と感覚が違うんだと理解させられる。


「どうだった? 見せてよかったでしょ」

「うん......」

「アーラン、人間国でのことは忘れなさい、大丈夫、もう私が着いてるから二度とあんな思いはさせないわ」

「......ありがとう」


 アイリスを守りたいと思っているのに彼女はどこまでも強くて周りが見えている。

 本当に俺なんかが隣に立てる日が来るのだろうか......


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