第7話 次のステージ

 今日は、夏の来る前の、雨の日、気温が少し、低いが、空調の冷暖房を使わずに、快適に過ごしている。守は、コトゲとイナズマに、アドバイスする準備をしていた。


 朝、事業所に行くと、今日の作業の内容が、カゴ拭きだった。

 ゴウは、居なかったが、コトゲと、イナズマが、参加していた。朝、守が、ウロウロしていると、コトゲが、目についたが、支援員に目をつけられているので、お勉強は、しなかった。

 時間が来て、カゴ拭きの作業を、始めると、守は、イナズマの様子を見ていた。

 「ありがとうございます」

 そうは言うのだが、「お願いします」と、言わない……。


 そこで、洗浄し終えた、カゴを他の人に渡した後、「お願いします」と、言わなかったら、守が、彼の代わりに言うことにした。

 「~してください」

 そう言い捨てる、イナズマに、その後から、守が、「お願いします」と、言って、イナズマが気づくのを待った。しかし、守が、いくら、「お願いします」と、イナズマのために、言っても、 当のイナズマは、それに気づかず、当然、改心する、兆候がない……。

 たまらず、守は、イナズマに言った。

 「こうゆう時は、寺さんに、『お願いします』と言ってください」

 「はい、ありがとうございます」

 しかし、イナズマのそんな言葉とは、裏腹に、中々、守の思い通りには、行かなかった。


 しかし、守は知っている、後で振り返った時、イナズマにかけた、「労力」が、 後々、守を、受け入れる、イナズマにとっての、重要なカギになると……。お互い苦労したという、土台がないと、こういう人は、簡単に、ひねくれるからだ……。


 例えて言うと、100,000円、突然もらった人と、苦労して100,000円貯めた人では、お金に対する思いが自ずと違う……。当然、苦労して、100,000円稼いだ人は、お金を大切にする。それは、お金にたいする思いが、辛抱や、感謝が、 そこに、一杯あるからだ……。

 守は、普通の達の半歩先を見ている。

 ただ、現実問題、守は、事業所にいる、そこで、最も難しいと彼が、思う、「済みません」の言葉を、彼らに教える事が控えていた。

 ままならない、思いを抱えながら、守は、大方針の下、粛々と作業をこなしていった、


 そんなイナズマが、お昼の休憩のちょっと、前の時間に、やっと、一回、「お願いします」と、言った。守は、そこを捉えて、「今の良かった、こうして、声掛けをすると、相手に、自分のやった事が、アピール出来て、それを、感謝されて、また、もう一回やってみようと思うから……」

 「そうですね」

 守と、イナズマは、お互いに、ほほ笑んだ。

 それが、イナズマの本心なのか? どうなのか? それは、守には、分からなかった。


 お昼の休憩の時間になって、道具を片付けて、テーブルを、布巾で拭いて、食事の用意を始めた。

 きょうは、午前上がりだ。


 ご飯を、食べながら思った。

……教えるって、難しいな……

 家路についた守は、人を、教える難しさを、骨身に感じた、一日だった。


 午後3時、自宅で、少額・自費出版の2回ある支払いの1回目の支払いを済ませたのに、出版社からの連絡がないので、出版社に連絡した。

 すると、担当の人が出て、「確認しました」と言って、入金を確認した。

 すると、「初稿の出るまで、時間がかかります」と、担当の人が補足した。

 守は、それを確認して電話を切った。


 確かに、守が、この事業所で目標にしている、「済みません」の言葉を、彼らに、伝える、作業は、残っている。

 でも、守は、彼らを急に動かして、猛反発されない様にしたいから、当面は、この状態を、来週明けまで続けることで、お互いの親和を深めて、相性を良くしていく事にした。


 ただ、まあ、彼にとって、確かにイメージはあるが、そこに至る、予定は、はっきり言って、未定なのである。

 それは、守が、たった一人で、やっているから、なのかもしれない……。




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