第29話「悪神羽化」

鉱石で出来た無機質な足場を歩いて数分後、俺達は最奥にある玉座の間に辿り着いた。

いくつもの鉱石の足場がつらなって出来た広場には俺達と、ある一体の魔族………、ロキの遺体を奪い去った鎧の魔族が立っていた。

俺達を見てもヤツは何もしない。

まるで敵意など無いとでも言うかの様に佇んでいるだけだ。


「返してくれるかな?ロキの……、ボクの身体とスルトの神核、このグレイブヤードをね。」


シギュンが数歩、鎧の魔族に歩み寄る。

鎧の魔族は相変わらず、何も言わない。

ただ、その問いへの返しとでも言うように人差し指をシギュンを向けた。

その様子を見て、シギュンは微笑みながら肩を落とす。


「仕方ないか……。フレス、アルシア。」


呼ばれた俺とフレスがそれに応えるように武器を構えながらシギュンの前に出る。

そして彼女はその微笑みを残酷な笑みに構えてただ一言。


。」


その言葉が放たれるのと俺達が動いたのは同時だった。

鎧の魔族が炎閃をシギュンに向けるが、それに構わず俺は雷纏を、フレスは縮地を使って鎧の魔族に迫る。


「やらせる訳無いでしょ!」


撃たれた炎閃をニーザが翼で払い、影から手を生み出して、鎧の魔族の身体を拘束していく。

フレスが鎧の魔族の前に立ち、炎閃を放った腕ともう片方のを斬響で斬り払い、遅れて出てきた俺がヤツの頭部を鎖で落とす。

ガラン、と音を立てて兜が落ちた。


鎧の魔族はそれでも止まらない。首を失ったまま即席の塵獄を放とうとするも、バフォロスでそれを喰らい無効化、フレスと同時にその胸を貫こうとした。だが………


「ぐっ………、」

「ちっ……!」


鎧を砕いて出てきた負の念の黒い刃に阻まれ、2人揃って吹き飛ばされる。


「フレス、アルシア!無事か!」

「心配ない。」

「こっちも問題ない。?」


俺がそう言うと、鎧の魔族の胸を

バキリ、と嫌な音をいくつも立て、鎧の魔族だった物は粉々になって地面にその残骸を散らばらせる。

やがて、中からは一人の男が現れた。

俺の友人にして、フェンリル達、魔族の頂点に立つ者。

黒い服を纏い、鴉のような黒い羽を生やした男。

見慣れた姿のはずの、それでいてまったく知らない誰かがそこに立っていた。

閉じられた男の瞳がゆっくりと開かれ、その口からは聞き慣れた声が響く。


「―――――我は、神である。」


「ぐっ………!?」


凡そ、ロキが発したとは思えない程、無機質な声と共に全身に圧が掛かり、全員膝を付く。

重力魔法の類ではない。纏っている神の力による物だ。


「……大昔に討ち滅ぼされた、その神様が今更何の用だよ?」


バフォロスを支えにして、力尽くで起き上がって問う。

今から下界を滅ぼすと抜かしても別に不思議でも何でもない。

それほどの力を、目の前にいる名も無き神は振りまいているのだ。

しかし、ヤツは俺が予想していた物とはまるで別の答えを口にした。


「世界の……、人の世の救済を。」

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