第5章「最終決戦」

第28話「不敵な笑みのシギュン」

「さて、じゃあ行こうか。」


シギュンを先頭に、俺達はルーリア渓谷にある森の奥、隠蔽魔法が掛けられている朽ち果てた祠に来ていた。

祠の中には黒い羽根、銀狼、純白の鷲、黒き竜と……、それぞれロキ達を指し示したエンブレムが埋め込まれた石碑がぽつんと立っている。


「ルーリア渓谷の森にこんな場所があったなんて……」

「認識阻害、人払いの2種類の魔法で作った複合結界が貼ってあるんだ。招かれないとここには入れない。アリスちゃんは今度から一人でもここに来れるようにしてあるからね。」

「使う日は来るんでしょうか……」


しれっと魔界への通行許可を貰ったアリスが困ったように笑う。

たしかに、元とは言え魔王から魔界に来てもいいと言われれば、普通は困るだろう。

シギュンはそんなアリスに微笑みながら石碑に刻まれた転送魔法を起動する。

瞬間、俺達の足元に魔法陣が現れ、全身が沈んでいく様な感覚に襲われ、開けた場所に辿り着く。


「ここが、グレイブヤードの入口………」

「正確にはいくつか存在する裏口じゃがな。正門から入っては待ち伏せされる可能性もあるからの。」

「こういう時の為に作っておいて良かったよね。」


シギュンが困った様に笑いながら、遙か下の空間を見つめる。

グレイブヤード。地底世界でありながらも、雲一つ無い星空の様に暗くも明るい世界が俺達の前に姿を現した。

グレイブヤードには地上の様に広大な地面も無ければ海もない。特殊な鉱石で作られた巨大な四角錐と円錐とが足場として繋がり合って存在するだけだ。

そして、その足場の先に負の念が海の様に蓄積している。


「もっとおどろおどろしい場所だと思ってました。その、グレイブヤードなんて名前なので…………」


目の前に広がる何処か幻想的な美しさすら感じる世界を見て、アリスが驚いた様に声を漏らす。


「墓場、なんて名前だから仕方ない。私もまさか、2つ目の意味があるなんて思わなかったよ。」

「ホントよね………。まったく、神界の神って何でこんなロクな事しかしないのかしら……。封印なんてするなら神界でやれっての。」


アリスの言葉に答えるように、フレスとニーザが口を開いた。

口にはしていないが、俺とフェンリルも同じ気持ちだ。当時の神界にはそんな余裕は無かったのだろうが、下界の人間からすれば迷惑極まりない。

そんな事を考えながらぼんやりと地の底を眺めていると、シギュンが口を開いた。


「みんな、そろそろ着くよ。アルシア、アリスちゃん、準備の方は?」

「もう出来てるよ。」

「私も大丈夫です。いつでも行けます。」


そう答えた俺達は既に神殺しを発動している。

相手が神である以上、俺達人間は神殺しを使わなければ満足に戦う事すら出来ないからだ。

お互い口にはしてないが、既に魔法もいくつか起動準備をしている。問題は無い。


「そっちはどうなんだ?グレイブヤードへのアクセスは。」


その言葉にシギュン達は渋い顔をして頭を振った。


「駄目だね。管理者権限を掌握されてる。どうにか取り返さないと、フェンリル達は全力で戦えない。」


やっぱり駄目だったか、と嘆息する。

高位魔族であるフェンリル達はグレイブヤードにいる事で、地上にいるよりも強大な力を振るう事が出来る。

それをさせない為に悪神が管理者権限を掌握するだろう事は最初から予測していた。


「という事で、予定通り管理者権限を取り戻すところから始めよう。そうしないと、話にならないからね。」


そう言ってシギュンは不敵な笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る