第27話「シギュンとアルシア」

「んで、具合は大丈夫なのか?」

「うん。アリスちゃんの槍の封を解くのに力を使って、疲れが来ただけ。問題ないよ。」

「………そうか。」


シギュンに呼ばれた俺は、フリードが用意した個室、ではなく俺とフェンリルが2000年間眠っていた場所に来ていた。

アリスの槍の力を解放する為に力を使いすぎ、失った力を龍脈で回復させる為に。


「まさか、槍の一族の末裔の子とはね……。運が良いのか悪いのか。」

「俺達と出会って遥か昔の神様と殺し合いしなきゃいけませんなんて、運が悪いとしか言えねえだろ。」

「それもそうか。だけど何ていうか……、イヴに似てるんだよね、あの子。まあ、彼女も一族を立ててからはリアドールと名乗ってたから、似てるのも当たり前なんだけど。」

「リアドールって………、そうなのか?」


驚いた俺を見てシギュンはくすくすと楽しそうに笑いながら「うん。」と頷く。


「まあ、知ってる人なんて殆どいないからね。フェンリル達も知らないし。アルシアが知らないのも無理はないよ。始めて見た時も、あまりにもそっくりだったから本人かと思ったくらいだし。フレス達から聞いたアリスちゃんの戦い方とか、ヴェルンドの村でドワーフに杖を突き付けて激怒してるとこなんか、ほんとにそっくり。」

「伝説の聖女はそんな物騒な人物だったのか……。ただの一般人である俺が、ここにいるのはなんか場違いな気がしてきたな。」

「たしかに君は生まれは何の変哲もない一般人っぽいけど育ちが大分ね……。」

「やっぱり、俺の親の事を知ってんのか。」

「育ての親は、ね。約束だから言えない。けど、?」


シギュンは悪い笑みを浮べた。あの顔はどうやっても教える気など無いのだろう。


「そもそも、アダムの書に選ばれて神殺しも発現し、鎖も持ってる。十分君も異質さ。」

「あんま嬉しくねえ評価だ。」

「それに、ただの一般人が友達の家に遊びに行く感覚で魔界に遊びに来て、玉座で寝るわ、おやつ持ち込んでみんなで摘むわ、挙げ句の果てには寝具まで持ち込んで泊まったりするのかな?」

「お前も食ってたろうが!」

「まあ、そこまではいいよ。百歩……、いや千歩譲って目を瞑るとして。けど、魔王の頭を引っ叩きに来たり、大人のニーザとの約束すっぽかして魔界の階層一つ消滅させるような事は普通の一般人はしません。」

「それは……棚に上げるとして。」


誤魔化すように笑うとシギュンもおかしそうに笑いながら「上げるな。」と引っ叩いてくる。

何もかも、あの時と同じやり取りだ。

ふと、シギュンは穏やかな笑みを浮かべて俺を見る。


「……聞きたいこと、あるんでしょ?」

「………バレたか?」

「そりゃあね。ボクのたった一人の人間の友人だからね。」


言いたいことは分かるぞ、とその瞳は訴えていた。隠す事は出来ないだろうし、隠しても無理矢理にでも言わせるだろう。

俺は観念して口を開いた。


「……いつまで、いられるんだ。」

「この戦いが終わるまで。元々、君達が動くまでは龍脈に身体を繋ぎながら、悪神対策に色々と細工したりして何とか生き永らえてきただけからね。それが終われば正しく消えるさ。」

「俺やフェンリル達で、お前を――――」


「アルシア。」と、窘めるようにシギュンは口を開いた。


「ボクがここにいるのは、インチキみたいな物なんだ。神も魔も、人や動植物と同じだ。死にたくなくても、その時は必ずやってくる。ボクだけワガママで生き残る真似は出来ないんだ。たとえ、そんな手段があったとしても、ボクはそれを望まない。」

「…………すまん。」


絞り出す様に声を出して俺が謝ると、シギュンは困ったように笑った。


「こら。まだボクはいるんだから、必要以上にしょげない。まだ少しだけ時間はあるんだ。明日の話もしないと。他にも沢山話しながら、ね?」

「……そうだな。」


シギュンの言葉を聞いて、どうにか気持ちを切り替えると、彼女は満足そうに頷き、そして……。


「よし。じゃあ明日、アルシアに頼みたい事を言う前に、ニーザとは今どうなってるのか……痛い?!」

「感動の再会したあとだってのにそんなしょうもねえ事聞きやがって!他に無えのか!他に!!」

「無いよ!ニーザは妹みたいなものだよ!泣かせたら怒るからね!!」

「お前こないだ泣かせたろうが!!」


2人でぎゃーぎゃー文句を言いながらポカポカとじゃれ合いの様に殴り合ってると、シギュンはするりと俺の顔に自分の顔を寄せ、耳元である事を囁いた。

俺はそれを聞いて目を見開きながらシギュンを見ると、申し訳無さそうに口を開いた。


「君に頼むのは酷だけど、お願いね?」

「…………本当に酷だよ。まったく、とんでもねえ野郎だよ、お前は。」

「神様だからね。だから頼んだよ、アルシア。」


頷きたくない。

だが、預けられた物の大きさから逃げる事も出来ず、俺はどうにか頷いた。




―――――――――――――――――――――


第4章・完

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