第24話「シギュンとアリス・前編」
「アリスちゃんもごめんね。わざわざ来てもらって。」
「平気ですよ。何となく、話の内容は分かるので。」
「そっか。それとね、本当にいいのかな?悪神と戦うのは……」
シギュンが少しだけ不安を交えて聞くと、アリスは笑顔で頷いた。
「フェンリルさんと話して、もう決めてるんで大丈夫です。それに、ここで戦わないと死んじゃう事には変わらないし、大切な人達も守れないから……。」
「……………。」
そう答えたアリスの焦げ茶の眼には、なんの迷いも無かった。
大切なものを守る為………、この少女は心の底からそう思っているのだ。
アルシアとは違う強さを持つ少女だと、シギュンは思った。
アルシアは………捻くれ者だから言っても否定するけれど、今あるものと自身が大切と思うもの……、それら全体をありのまま残す為に、ある種使命感で戦っている。
けれどアリスは、大切な誰かを守るために、世界ではなく、身近な存在の幸せを願って、そうしたいからと当たり前のように戦う事を選んでいる。
行き着く結果は同じかもしれない。
けれど、その過程で得る物も、変えられるものもきっと違う。
そんな何処にでもいる何でもない少女、アリスを見てシギュンはついつい口を開く。
「もしかしたら、君は別の意味で切り札になるかもね……。」
「………シギュンさん?」
心配そうに見つめてくるアリスに「大丈夫だよ。」と微笑む。
「アリスちゃん。」
ふと、シギュンは真剣な顔をアリスに向けた。
アリスもそれを見て「はい。」と頷く。
「最後の封を解こう。君の持つ「槍」の力を。」
「槍……、あの時話していた物の事ですね?」
アリスはヴェルンドの村で、初めて彼女と会ったことを思い出した。
『あ、やっぱり。お姉ちゃん、槍を持ってるよね?』
あの時、シギュンはアリスにそう言った。
そして、今は使いこなせない、とも。
「そう。今なら大丈夫。フェンリルが相当しごいたみたいだね?」
「……あはは。」
苦笑いしながら、フェンリルとの修行を思い起こす。
別に厳しかった訳ではないけれど、時間が無いからと本当に四六時中修行という状況だった。
ただ……、
「苦ではなかったですよ?無茶な事はしなかったですし。それに、フェンリルさんは教え方がすごい上手い人で、どんどん色んなことが身につきました。」
「やっぱり、性質が近い者同士だと、そういうところの相性はいいのかもね?」
「………性質?」
「君の神殺しの力は「静止」でしょ?どういう原理か分からないけど、力の性質が似てる者って、昔から惹かれ合うみたいなんだよね……。」
シギュンはそう言うといたずらっぽく笑い、それで何かを察したアリスは目を輝かせた。
「じゃあ、ニーザちゃんも……」
「本人に言ったら駄目だよ?それで何度アルシアと一緒に頭を引っ叩かれた事か……。さて、話を戻そうか。アリスちゃん、手を出してもらえるかな?」
「……今度は胸じゃないんですか?」
アリスがそう言って自分の胸を隠しながら言う。あの時は正体を知らなかったから流したが、今は知ってしまった為、どうしても抵抗が生まれるのだろう。
シギュンは申し訳無さそうに苦笑しながら頭を振った。
「しないしない。あの時はごめんね?アリスちゃんは神殺しの力がまだ神力と一緒に枷みたいに絡まってたから、どうしてもね。今は違うでしょ?」
「はい……。あの後、すごい身体が軽くなった様に感じました。」
「神術使える人は魔法と勘違いすると、心臓付近でつっかえみたいになっちゃうんだよね……。でも、今はそれもないから手で大丈夫だよ。」
それを聞いたアリスはシギュンに篭手を外した手を出すと、シギュンは両手で包み込むように覆った。
シギュンはその手を優しい笑顔で見つめながら力を流し込み、口を開く。
「アリスちゃんのお父さんとお母さんは元気かな?」
「え、はい……。元気というか、変わってるというか……。」
アリスは結局、王都に来なかった両親の事を思い浮かべて苦笑する。
夫婦の仲は良いし、大好きだが、変わった人達だからだ。
「そっかそっか。槍の一族は相変わらず変わった人が1人か2人いるんだね。」
「……………!?」
大体の驚くような出来事に慣れてきたアリスの目が大きく見開かれた。
驚きを隠せないとでも言うように……。
「………どうして、知ってるんですか?」
槍の一族。アリスの生まれた村に住む一族を指す言葉だが、村の外で呼ばれた事は一度もない。
それもそのはず。村の人間ですら、どうして呼ばれているのか分かっていないのだから。
分かっているのは、人魔戦争と呼ばれた2000年前の大規模侵攻で、口伝と、伝わるべき物の大半が失われてしまった、という事だけ。
誰もその本当の意味を知らない。
しかし、シギュンは知ってて当然だと言わんばかりに笑う。
「昔話をしようか。これから君が振るう力が何なのか、君は知った方がいい。知った方が、その力を正しく使えるだろうからね。」
そうして、シギュンはある昔話を口にした。
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