第23話「シギュンと高位魔族」
「………改めて言うけれど、本当にみんな、元気そうで嬉しいよ。」
フェンリル達を見て純白の少女、シギュンは嬉しそうに微笑んだ。
「ロキ……、いや、シギュンよ。一つ、聞いてもよいか?」
「なんだい?」
「妾達が玉座の間で聞いた最後の言葉、あれは全て嘘だったのか?」
「………ちょくちょく本心はあったかな?うん。ヴォルフラムに心底呆れたのも事実だし、君達が大規模侵攻の対処が嫌になったら逃げてもいい、とかね。君達が死ぬのも、スルトやアルシアが死ぬのも嫌だったからね。だから…………、」
そこで言葉を切って、シギュンはその顔を本当に辛そうな物に変え、絞り出すように言葉の続きを口にした。
「ああいう選択しか出せなかったのは、本当に悔しかったよ。人類の大半を見殺しにする様な真似をしたのは、さ………。」
「アンタは……、ロキは何も悪くない……」
「勿論。ボクも被害者だよ?どんな理由か知らないけれど、どう転んでも死ぬしかなかったし、スルトは殺されるし、本当にふざけた話だよ。それでも、感じてしまうんだ。そうでもしなければ、僅かな数の人間しか守れなかった事への悔しさとかね。」
シギュンはその幼い顔に悔しさを滲ませて微笑む。
「ワガママ、人間への試練だの、その辺は君の嘘で強がりという訳か。」
「………そうだね。本当に嫌だった。きっと、アルシアにも嫌な思いをさせたろうし……。」
「城で盛大に暴れたらしいぞ。彼が大龍脈を破壊してなければ、大規模侵攻終結後にまず間違いなくファルゼアの王族を滅ぼしていたろう。」
「大龍脈破壊したり、国を滅ぼそうとしたり、大人のニーザ放ったらかしてグレイブヤードの階層一つと、どこかの村消し飛ばしたりとか、本当に災い起こしだよねぇ………むぎゅ。」
「アンタもアルシアみたいに余計な口聞くわよね……っ。」
真っ赤になったニーザに頬を引っ張られながらもシギュンは楽しそうに笑う。
こんなやり取りは、もう2000年もしてなかったからだ。
「あははは、ニーザはもっと素直にならないとねー。アルシアは神器と同化してるとはいえ人間だから、自分の時間の感覚だけで接してると、いつの日かいなくなっちゃうよ?」
「………本当に余計な御世話だし。」
ニーザがべちべち尻尾で叩いてくるが、それでもシギュンは笑う。
(このやり取り、本当はもっと長く続けたいのになぁ………)
あと少し、いや……。もっと欲張って、いつまでもこんなやり取りをしていたい。フェンリル達だけではなく、そこにアルシアやアリス、フリードや今を生きる人間達も含めて、ずっと……。
そんな気持ちに蓋をして、シギュンは改めて3人を見る。
「ねえ。フェンリル、ニーザ、フレス。」
「……何じゃ?」
「悪神を倒した後は、頼むね。」
その言葉に、3人は何も聞かない。
気の遠くなるような時間を共にした仲なのだ。
その言葉の本当の意味を、聞かずとも分かっている。
「分かっておる。お主は何も気にするな。」
「言われずともだな。ここから先は……」
「アタシ達の仕事。大丈夫、分かってるわ。ちゃんと。」
フェンリル達が優しく微笑みながら答える。
それを聞いて、見て、シギュンは色々な感情が沸き起こるのを押さえ込む。
微笑んではくれていても、その瞳は自分と同じ様に寂しさを宿していた。
それでも、彼女達は言ってくれたのだ。
この先の世界を、自分の分まで代わりに護ってくれると。
だからこそ、シギュンは「なら、心配ないね?」と、安心したように微笑み返した。
この戦いが終わって、自分が消えた後の事は任せたよ、と。
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