第21話「地上の神の暗躍」
「その後、ボクが彼に作られ、すぐ後に君達が生まれた。」
そう言って、シギュンは凪いだ目を驚いているフェンリル達に向ける。
「あとは君達が知ってる通り。共に強大な魔族を、時に過剰に発生した下級から上級魔族を狩り続けた。そうする事で、悪神の力は大きく削られ、摩耗していった。」
「シギュン……。アンタ、どうしてそれを言わなかったのよ。」
「知覚するだけでも、彼の力になってしまうのさ。名前や認識というのは、ボク達が思っているより、ずっと強力なんだよ?アルシアのバフォロスが良い例さ。アレは暴食翁魔・ベルゼブブ=グラトニーと呼ばれた大魔族の一欠片だけど、ニーザの鱗と爪、名を偽ってその力を弱めて封印としている。最近はフェンリルの魔力も食らって更に強い鞘となってるんだったかな?」
それを聞いてニーザは納得した様に口を閉じる。
俺は遺跡図書館での事を思い出した。
厳重にかけられた開示情報制限事項はこの為だったのだろう。
シギュンは遠くを見るように視線を上に向けた。
「けれどね。何事も全て、予定通りには行かないのさ。」
「それが、わざわざヴォルフラムに呆れただけなんて嘘をついてまで死んだ理由か?」
「そう。悪神の神核は戯神・ロキが死ぬ少し前、どういう訳か自我を持ち始めた。そして、ロキの神核と身体を狙った。恐らくだけど、封印された事に加えて、力を削ぎ落とされすぎて、昔の様に力を振るえなかったからだろうね。」
「君の力でどうにかならなかったのか?」
フレスの問いに、シギュンは本当に残念そうに頭を振った。
「いくらボクでも、ボクを殺す事だけに特化した力を当てられれば死んじゃうよ。彼は封印されてる中で、それだけに力を集約させていた。相性の問題が絡む以上、本当にどうしようもない。」
「そうか……。」
フレスは短く答えた。
その顔はやはり、悔しさが滲んでいる。
「だからボクは……、いや、ロキとスルト、トートはある計画を立てた。ロキの身体、神核をそのまま奪われれば、如何に君達やスルトであっても、彼には勝てない。ヴォルフラムにはそういう意味では感謝してるよ。ちょうどいい所にマグジール一行を寄越してくれた。」
「あの、ロキさんは………」
アリスの問いに、シギュンは「そうだよ。」と、俺とアリス、フリード……、そして当時の人間達に向けて申し訳無さそうに微笑んだ。
「まず、トートには予めロキの遺体の隠し場所に関しては答えられないように開示情報制限事項に指定してもらった。万一に備えてね。そして、フェンリル達には大規模侵攻に備えて各地に待機を指示。ロキ達の計画通りにいけば、悪神が復活するまでの間に魔族を削れば、大分弱体化を図れるからね。そして、この作戦の最大の要。ロキは力の大半をシギュンとして切り離し……」
「ロキはマグジールに殺され、スルトがその遺体を自らの神核を抉って天蓋の大樹に厳重に封印……、」
「正解。ロキの遺体が使えなければ、次に狙われる可能性が高かったのはスルト。だから彼はそこまでして遺体を封印した。そして、この読みも当たった。悪神は次にスルトを狙ったけれど、その時にはスルトは身体も神核も使い物にならなくなっていた。抉られた神核は回収したけれど、到底彼の力の核とするには耐えられない。」
「トートに関しては、そもそも端末体であり、精神のみの存在である以上、候補からは外れる……、」
シギュンはまた頷いて、今度は苦笑しながら俺を見た。俺はそれを見てキョトンとする。
「それでもギリギリ倒せるか微妙なラインだったけれど、君がそこで良い意味でやらかしてくれた。」
からかう様に笑うシギュンの言葉を聞いて、全員のジト目が俺に突き刺さった。
まあ………、アレだよなぁ。
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