第20話「グレイブヤード」

「名もなき、悪神………。」


その名に俺は首を傾げる。

フェンリル達も同様だ。


「知らないのも無理はないよ。だって、ボクですら生まれる前の話だからね。」

「それなら、何故汝は知っておる?」

「だって、。」


その言葉に全員が驚いたが、シギュンは構わず続ける。


「正確にはフェンリル達もなんだけど、関わらせたくなかったからね。だから。」

「魔族の間引きの事か?」

「うん。これに関しては人間サイドも少しだけ誤魔化してる事になるかな?」

「………どういう事なんです?」


フリードが恐る恐る口を開くと、シギュンはおかしそうに笑いながら口を開いた。


「そんなに畏まらないでいいよ?君だってアルシアやフェンリル達にしてる事だろう?」

「……なら、遠慮なく。その神とシギュン達がどう関わってくるんだい?」

「ボク達が人間では対処出来ない強大な魔族を狩っていること……、その理由も聞いてるね?」

「アルシアやフェンリル達から聞いてるよ。」


フリードの問いにシギュンは頷く。


「その時代の人間が対処出来ない魔族を狩り、人間の繁栄を陰ながら護る。それがボク達高位魔族と呼ばれる種族の役目。それは嘘じゃない。ただ、もう一つ理由がある。」

「もう一つ……、ですか?」


アリスの問いにシギュンは頷く。


「力を削ぎ落とす為さ。封印された悪神のね。」

「………魔族を倒すのと、その神様の力を削ぐのに、どう関係があるのですか?」

「魔族の本当の正体はね。グレイブヤードの管理者である魔王の力を核とし、そこに人から零れ落ちた負の念と、削り取られた悪神の力を混ぜ合わせた物なんだ。」


それには俺を除いて全員が驚いた顔をした。


「まあ、魔王になって特に何かするとかは無いよ。あとはグレイブヤードの機構が勝手にやってくれるし。と言うよりも………、アルシアはやっぱり知ってたんだね?」

「アルシア……?」


それを聞いたフェンリルが不思議そうな顔をしてこちらを見る。

その反応は当然だろう。本来ならば俺は17かそこらの年齢だ。フェンリルが生まれる前の事を知ってる方がおかしいのだ。


「魔族が生まれたのはロキが生まれる少し前………。負の念の浄化機構はそれまで存在しなかった。そうだな?」

「正解。もしかして……、に会ったんだね?」

「ああ。色々教えてもらった。」

「そっか。」


それを聞いたシギュンはやっぱりかと頷き、フェンリル達は不思議そうに首を傾げる。

シギュンは再び説明する為に口を開いた。


「この世界が生まれ、原初の人間が作られ、そこから人類が増え始めた頃にね。バグが発生したんだ。当時の人間はお互いに争い、殺し合う事で発展していった。生きてる者の負の念と、死んだ事で生まれた負の念……、それらがやがて蓄積され、そのバグと混ざり合い………、自我が生まれてあらゆる物を取り込み、肥大化していった。それが下界で生まれた最初の神、名もなき悪神だ。」

「ヤツは当時のハルモニアの神々と戦い、敗れた。」


俺は短く続きを言い、シギュンは更に続ける。


「敗れた彼の神核は強大だった。それこそ、破壊すれば星そのものが消え去るほどに。だから遺体から切り離されたそれはある場所に埋め込む形で、弱体化も兼ねて封印を施され、その身体はある場所へと作り替えられた。」

「まさか………、」


フェンリルがそれに気付いて大きく目を見開き、シギュンは微笑みを消した顔で頷く。


「魔界がグレイブヤード墓所と呼ばれているのはね。たしかに死した魂が最後に向かう場所という意味ではある。けれど、もう一つ。死して封印された悪神の力を、魔族という形で削ぎ落とし、放出。消滅させる為という意味も込められているんだ。」


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