第18話「炎上する大樹」
「ちっ…………、」
戦いが終わった後、今になって偽装召喚の反動がやってきた。全身を鈍痛や斬られた様な鋭い痛みが襲う。
偽りとは言え、神の力をたかだか人間の身体に押し込んで強引に再現したのだ。
決まった形で神術を使うのとは訳が違う。
回復魔法と修復魔法を同時に掛けている時、上空に異変を感じてそちらを見た。
天蓋の大樹の最上層にあたる部分が燃えていた。
それを見て、俺は自然と身構えた。
アレはスルトの炎………、俺が過去見てきたそれに近い出力の物だ。
加えて、大気中の魔素が震えてる……。
(…………まずい!)
上がどうなってるかは分からないし、神器である以上天蓋の大樹本体が破壊される事はない。
だが、俺の予想通りなら大変な事になる……!
俺は急いでフェンリル達に念話で回線を繋いで叫んだ。
「全員、ロキの遺体を放っておいてでもそこから離れろ!!
『分かっておる!もう下まで避難済みじゃ!!』
幸いというべきか、フェンリル達は既に避難していたらしい。既に最下層まで降りてきてるようだ。
俺は万が一に備えて神殺しを起動させたまま両目の魔眼も展開させた。
塵獄。指定したポイントを中心に広範囲を灰燼に帰す事が出来る、スルトが扱う最強の炎熱神術だ。
発動には時間がかかるが、発動さえしてしまえば山や城一つ消し飛ばすくらいは容易に出来る。
目の前にいるのであれば発動前に潰すなりなんなりできるが、ここで出来ることはあまりにも少ない。
入口を見るとフェンリル達が脱出しており、遅れて鎧の魔族が放った塵獄が発動する。幸いにも一階部分には被害が及ばなかったが、外装である大樹の上半分が爆風によって一瞬で吹き飛び、巨大な破片が降り注いだ。
「ティアドロップ。」
降り注いだ破片目掛けて水球を複数生み出してそれらを打ち砕く。
ここは森ではなく平地だ。燃え広がることは無い。
全てを破壊しなくてもいい。自分達に降り注ぐ物だけを的確に破壊していると、破壊の力を纏った赤黒い雷、静止の力を宿した氷、無数の斬撃の風が飛び交った。
「アルシア、君はもう休め。この程度なら私達で容易に処理できる。」
「そういう事じゃ。気配だけで分かるが大分無茶な力を使ったのだろう?」
「アンタはそのガタガタの身体をアリスに治してもらいなさい。マトモな戦闘をしていないアタシ達ならこのくらい楽勝よ。」
「………すまん。」
俺がこれ以上やらないでいい様にフレス達が前に出て破片を破壊してくれたので、俺が魔眼と神殺しを解除して座り込むと、アリスが駆け寄ってきて回復魔法をかけてくれたので、俺は天蓋の大樹の最上層を見やる。
「アルシアさん、すみません。私達が辿り着いた時には、ロキ様の遺体はもう……」
「気にすることはないよ。そうなる事は想定の範囲内だ。それよりも、皆が無事で良かった。」
「ありがとうございます……。」
「だから気にするなって。後の事は帰ってからだ。」
最上層に敵の気配はない。恐らくは逃げたあとだろう。
感情を見せない伽藍洞の魔族。
ヤツの顔を思い浮かべながら燃え盛る大樹を見上げる。
灰と煙、炎に包まれながら焼け落ちた木々の残骸を落とすその姿は、終わりの始まりを告げる光景のように思えて仕方なかった。
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第3章・完
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