第15話「神殺し・破壊」
マグジールの背筋に走ったのは悍ましいと感じるまでの恐怖だった。
フレア・レイン、ライトニング・フォールまではいい。所詮はただの魔法だ。
あの男、アルシア・ラグドであれば難なく対処するだろう。
影の刃も対処されるのは分かる。
だが、その影の刃を消し去ったあの力は何だ?
バフォロスと呼ばれた刃が力を喰らうのとは違う。
鎖に触れた先からまるで殺されたかの様にかき消されていった。その消された影も元には戻らず、消え去ったままだ。
「ここからは本気だ、マグジール。」
「………………っ、」
そう言い放つ彼の姿は一見、なんの変化もない。
魔眼を展開している両目に浮かんだ金色の鋸歯の輪の模様を除いて……。
目の前の彼は歪な刃を収納魔法にしまうと、一つの魔法を起動した。
その魔法は知っている。彼を異形の姿に変えたあの魔法だ。
「
以前、マグジールの端末体に向けられる筈だった赤黒い凶雷が彼を包み込む。
僅かに残った生存本能が「止めろ、ここで殺せ!」と叫んでいるが、マグジールの闘争本能がそれを退けた。
元より生き残るつもりなどない……。
この身体は今も尚、崩壊という死が蝕んでいる。
身に纏う影で誤魔化してるだけで、身体は今も端から崩れ落ちていた。
(明日まで……、いや、今日を乗り越える事も出来ないだろう。)
そんな事を思いながら、マグジールは赤黒い雷から現れた死の化身が現れるのを眺めた。
真っ黒い翼と尾、鋭い爪を生やし、頬に鱗のような紋様を浮かび上がらせた彼の姿を。
「待たせたな。」
「いや、構わない……。そこまで、してくれるのか?」
「ああ……。お前、一つ嘘つきやがったな?」
気付かれていたらしい。
「何がだ?」とマグジールは痙攣する表情筋で笑った。
「持って今日まで……。それがお前の命だろう?」
「……やはり、気付かれていたのか。」
「当たり前だ。それに、本音を言えばお前を最初は片手間に処理しようとしていた。コレはせめてもの詫び代わりだ。」
オリジナルの記憶では、適当に見えて律儀な性格だとあったが、それはどうやら本当らしい。
気まずそうに目を逸らす目の前に男に苦笑しながら「別にいい。」と声を掛けた。
身体が崩れる激痛さえ無ければ、本当に心の底から戦いを楽しめるのだが、それは仕方ない。
邪悪竜の力を纏ったアルシアは手にした武器を構え、その口を開く。
「死力を尽くせ、マグジール。妖姫と災い起こし、2つの力でお前を葬ってやる。」
そう言って彼……、災い起こしと呼ばれた最強の魔導師はその闇のように暗い翼を広げ、上空に無数の死門を展開した。
その姿に、マグジールの口元が自然と邪悪に歪む。
怯えはある。死への恐怖が全身を貫く。
だが、それ以上に……、その体は最高の舞台を用意してくれた男への歓喜に打ち震えていた。
マグジールはその全ての感情を乗せて、腹の底から叫んだ。
「………感謝する。行くぞ!!」
最早元の形とはかけ離れた手で剣を握り、邪悪竜の力を宿した男に、湧き上がる影を軍勢のように引き連れ、マグジールは立ち向かった。
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