第14話「マグジールと名乗った者の願い」

「アルシアァァァァアアアッ!!!」


俺に殴り飛ばされた襲撃者、マグジールは狂気に染まった表情を浮かべて叫んだ。

やはりと言うべきか、ダメージは無い。それどころか、別人とも思わせる様な変貌を遂げていた。

端末体の時と同じく神衣を纏っているのは同じだが、問題はその姿だ。

顔半分は醜く歪み、一部の筋肉は醜く膨張……、利き腕に至っては魔族の様な腕に変わり、その両目は神の力を持つ者特有の金色に変わっていた。更に、元の性格からもいくらか離れているようだ。

(ひと筋縄ではいかないだろうな……)

俺はバフォロスと鎖を構えたまま、背後のニーザに声を掛ける。


「ニーザ。お前は入口前の魔族を散らして、フェンリル達と合流しろ。お前が行けば、転移阻害は解除出来る。」

「アタシも残るわ。ここでマグジールを……!」

「駄目だ。俺達の本来の目的はロキの遺体の奪取の阻止、可能であれば回収だ。コイツを殺す事じゃない。」

「でも……っ。」

「遺体の奪取に回ってるのは間違いなく鎧の魔族だ。コイツの面倒まで見ながら戦えるような弱い相手じゃない。ここは俺が引き受ける。だから頼む、ニーザ。」

「分かったわ。ただ………、」


ニーザはそう言って、展開していた魔法陣を更に増やしてから全て起動し、天蓋の大樹前にいた魔族を赤黒い雷で全て焼き払った。


「……アルシア、待ってるから早く来なさいね。」

「………ああ、分かってる。」


俺がそれだけ返すと、ニーザは頷いて天蓋の大樹の入口へと向かっていった。

マグジールがそれを逃さないとばかりに動き出す。だが……、


「地嶽炎刃。」


マグジールの目の前に炎を纏った岩塊を幾つも生み出して、それを止める。

神衣のせいで、このままでは効かないが、足止め程度にはなる。

地面からマグジール目掛けて伸びる岩の刃を、ヤツは剣で砕くか、足場として飛び越えて回避するが、俺はそこに追加でインドラの雷を撃ち込み、叩き落とした。


「がぁあああああっ!!?」


本命である神術が直撃し、片腕がもげて悶えるマグジールを俺は眺める。

やっぱり、か………。


「お前は今度こそ、マグジールの本体だな。」

「………だとしたら、何だ…………っ!」

「言ったろう?ここで終わりにしてやる、マグジール!」


もがれた腕を押さえて叫ぼうとするマグジールにヴァルカンの力で生み出した炎の奔流を叩き込んだ。

だが、マグジールの気配は弱まらない。


「ど、で……、」

「…………ん?」

「この……程度で、殺せるとでも思ったのか!!」

「………っ!」


燃え上がる火柱の中から黒い巨大な腕が伸びてきて俺を捕まえた後、地面に叩きつけられる。

ギリギリで結界魔法を展開したが、それでも衝撃までは逃せない。


「やはりヴァルカンの火力程度じゃ無理か……!」


俺を握り込んでいる黒い手をクロノスの空間隔離で細かく切り刻んで脱出して体勢を整える。

やはりマグジールは強くなっていた。

あの鎧の魔族と同程度か、それより下くらいだろうか……。

マグジールの吹き飛ばされた腕は、黒く細かい線のような影が幾つも重なり合って再生していく。半端なダメージでは動きを止めることも難しいだろう。

しかしだ………。


「お前が生きてられるのは、そう長くないな。」

「そうだ。頼んでもないのにを勝手に作り上げ、遺体の回収の足留めの為にくだらない改造ばかりを施された。放っておいても、明日には死ぬだろうさ。だが………、そのくだらない改造に関しては今は少しばかり感謝してるがな。」

「明日にでも死ぬってのにか?」


俺が聞き返すと、マグジールは顔半分が痙攣した顔で笑いながら「そうだとも!」と叫んだ。

俺はその笑っているマグジール目掛けて、不意打ちとばかりに無数の鎖を射出する。

だが、ヤツはそれを全て避けて、手にした真っ黒に染まった剣を振り下ろす。


「お前と戦えるからだ!」


歪な大剣と、黒い刃が交差する。


「はた迷惑な話だ……。マグジールの拗れた感情に振り回される複製なんぞ……、迷惑極まりねえ!」


死んで尚、厄介な真似をと本気で思った。

これ以上、亡霊の感情に付き合う暇など無い。

身体強化だけをかけた蹴りでマグジールを吹き飛ばしてからプリトヴィーの力で生み出した岩石の掌で押し潰そうとするが、マグジールは先程の黒い影をマント状に変異させ、それを振り回して砕いて逃れる。


「違うな、あの忌々しいみっともない感情など、今のワタシには関係無い!!」


そう叫びながら、マグジールは黒い影を剣に纏わせ、バフォロス以上の大きさな剣に変えながら、何度も斬り込んでくる。


「………ぐっ?!」


防御はしている。だが、纏った影が独立して俺の身体を斬り刻む。

視線で紅蓮陣を発動しつつ、それらを一度焼き払い後退する。

関係が無いだと……?


「なら、何で俺に固執する!お前らの裏にいる奴への義理立てか!」


黒い影が膨れ上がり、無数の刃となって再度襲い来るのを地嶽炎刃で根元を狙って破壊。

追撃が来るが、それはクロノスの空間隔離でその動きを止めた。


「違うな、願いだ。!」


奴が叫ぶのと同時に、空間隔離を砕いて影の刃が再び襲いかかるが、今度はそれを鎖で薙ぎ払う。接近しようとするも、マグジールはそれを許さない。

上級魔法のフレア・レインを撒かれてこちらの動きを止められた。

フレア・レインだけなら難なく突破するところだが、マグジールはそれに加えて影の刃までも交えて攻撃してくるので堪らずバフォロスと空間隔離でそれらを防ぐ。


(魔法の使い方がうまいな……、)

フレア・レインは上空だけでなく、地上からも斉射されている。

それだけならまだしも、破壊力の高い黒い影のオマケ付きだ。

片手間に貼った結界はフレア・レインを防ぎはするものの、黒い影の刃にあっけなく砕かれ、それが身体を傷付けていく。

マグジールは更に叫ぶ。


「戯神の遺体を手にすべく、捨て駒としてワタシは作られた。お前達の足留めとするべく、醜く身体を弄られたワタシにそれ以上の意味など存在しない!どうせ死ぬのならば、お前の様に強い敵と戦い、殺し合ってから死にたいのだっ!」


マグジールが強い渇望を込めて叫ぶのと同時にフレア・レインの弾幕が止んだ。

追撃が来る前にバフォロスの顎で影の刃を喰らい、威力を落としたバニシング・フィールドで展開されている影の刃を横薙ぎに薙ぎ払う。

マグジールはバニシング・フィールドを上空に飛んで避けた後、フレア・レインとライトニング・フォールを同時展開して地上にいる俺目掛けて放った。

マグジールは止まらない。黒い影の奔流と刃を同時に叩きつけ、更に叫ぶ。


「ワタシは……!ワタシが思うまま、願うままに戦う!それが、今のワタシの存在する意義だ!!」

「…………そうか。」


ヤツの放った攻撃の全てが、まるでその気迫に応えるように勢いを増していく。

俺は避けない。プリトヴィーの力を起動して岩の壁を作り出してそれらを防ぐ。

どう転んでも、この男を放置して最上層に行くのは無理だ。


岩の壁が炎と雷、そして追加で放たれた影の奔流と刃によって、どんどんと崩れていく。

ニーザを先に行かせて正解だった。

ここまで必死な男を、片手間で相手する事は出来そうもない。

岩の壁が砕けて、無数の死の雨が俺に迫りくる。


「なら俺も、本気を出さないとな。」


両の瞳にを浮かばせながら、俺は迫りくる死の雨を鎖で



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