第3章「天蓋の大樹」

第13話「天蓋の大樹」

転移魔法で飛ばされたのは目的地から少し離れた場所だった。

ファルゼア城より北、大陸の中央に天高くそびえる大樹。

それが天蓋の大樹だ。大樹とは言っても、その正体は遺跡図書館と同じく神族が三界を行き来する為に作り上げた神造神器の一つで、本体は超巨大な無機質な塔、それが大樹の外装で覆われている。

多少遠いが、入口はここからでも見える。だが、どうにも簡単には入れそうない。


「なるほどな。たしかにここは隠し場所にうってつけだ。何せ、三界の接続地点という以外、何も無いからな。」

「……そうね。」


少しばかり元気のないニーズを見て、俺はぶっ飛ばされるのを覚悟でその頭を撫でた。


「………な、何よ?」

「別に内容が内容なんだ。泣くのなんて恥ずかしい事でもねえだろ。何であんな事になってるのかは分からんが、お前らの場合は家族みたいなもんだろ?笑ったりしねえよ。」

「…………うん。」


俺がそうフォローすると、ニーザは恥ずかしげな顔をして目を伏せた。

俺は敢えてニーザに笑いかける。


「それに、約束してきたしな。後で色々と聞かせてもらうって。だから、ちゃっちゃとロキの遺体をどうにかして、話を聞きに行こうぜ?」

「……何よ、アルシアのクセに生意気なんだから。」

「昔からだよ。」


不敵に笑うと、いつもの調子に戻ったニーザがおかしそうに笑って俺の背中を叩いた。

そんな時、フェンリル達から念話が届く。


『アルシア、ニーザ。聞こえるか!』

「ああ、聞こえる。今、天蓋の大樹前にいるぞ。」

『な……、汝ら、トートには行かなかったのか?』

「いや。しっかり行ってきたが、詳しい説明は後だ。状況はどうなってる?」


俺達が予定よりも約二日も早く帰ってきたのにフェンリルは驚いていたが、彼女はすぐに気を取り直して、状況を説明する。


『鎧の魔族が動き出した。場所は汝らのいる天蓋の大樹。その最上層じゃ。』

「アンタ達は今どこ?」

『妾達も天蓋の大樹にいるが、内部の転送陣に細工がされておる。上に行くのに苦戦してるところじゃ。』

「アイツらの仕業ね……。分かった、今からそっちに向かうわ。ちょっと時間がかかりそうだけど……ね?」


そう言って、ニーザは天蓋の大樹の入口前を睨みつけた。

天蓋の大樹の前には、夥しい程の強化魔族と暴走魔族がいたからだ。

ニーザは魔族の群れを睨み据えたまま、メイスを顕現させ、無数の魔法陣を上空に展開していく。


「………邪魔をするなら、今ここで塵芥と化すがいいわ。」


ニーザが魔法を撃ち出すタイミングで彼女の真横の空間が歪む。


2。」

「ちぃっ!!」


俺は火の魔眼を起動させながらニーザと襲撃者の間に割って入り、その顔面に劫拳ごうけんを叩き込む。

普通の相手ならば今の一撃で頭部が消し飛ぶ威力だが………


「やっぱりこの程度じゃ死なないか……。そろそろ終わりにしようぜ、マグジール。」


俺は襲撃者……、マグジールを睨みつけながら、ニーザを守る様に武器を構えた。

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