第12話「白い少女、再び」

「……アルシア。あの質問で良かったの?」


ニーザの質問に俺は黙って頷く。


「ニーザも分かってるだろ。スルトはわざわざここに来て開示情報制限をかけていた。ロキの遺体の埋葬方法を考える限り、開示情報制限をかけた項目は間違いなく遺体の隠し場所だ。それなら、前々から気になってた事を聞く方がいい。」

「それはそうだけど……」

「それに、一番気になってたのはお前らだろ?俺も気になってたし、良いんだよ。アレで。」

「………そういうとこよね。」

「ん?何か言ったか?」


ニーザが何か言っていたので聞き返したのだが「何でもない。」とそっぽを向かれてしまった。

ニーザの反応に首を傾げながらも、心のどこかで感じていた違和感が解消していく。

あのロキがヴォルフラムに呆れた程度で自ら死を選ぶのか……?

いいや、するはずが無い。


まず、マグジール達程度ではロキを殺せない。

奴らには神衣を突破出来ないし、突破出来たとて、ロキを相手するというのは、ある意味

しかし、それはいい。自死の為に力を停止させたのだろう。


だが、自分が死ねばフェンリル達は止まってくれたとはいえ、俺が動く事をアイツが予想できない筈がない。

現に奴は、俺がマグジール相手に暴れる事を予想していたし、その後に俺はニコライに阻止されたとはいえ、

あの場でファルゼア王国を破壊しても構わないと思っていた俺の動きを予想してまでやるにはリスクが大きすぎる。


それに、自分が死ねば魔族が暴走する事も知っていたはず。

人間がそれで絶滅する可能性だってあった。

人間の存続の為に動いていたロキがそれも加味して自死するのは、あまりにも不自然過ぎたのだ。

それなら、ロキがあの時点で下界にいる何かに気付いていて、何らかの理由で魔族の暴走なんてリスクを選んでまで死を選んだ、という方が説明がつく。

そして、あの場に現れ人知れず死んだスルト……。

これもほぼ確定だが、自分が死ぬリスクを負ってまでロキの遺体を埋葬、またはそれに近い何かをしたという事は、スルトも何かに気付いていたのだろう。

恐らくは、ロキとスルトは裏で協力していた……。


「………………」

「アルシア、大丈夫?」


考え込んでいると、ぴょこりとニーザが顔だけ覗かせて心配そうに見つめてきた。


「あ、ああ。すまん。とにかく、ロキの遺体探しだな。取り敢えず、フレスが行っていない……、スルトが行きそうな場所を手当たり次第探そう。見つからないにしても、何か手掛かりくらいはあるかもしれん。」


そう言った時だった。


「ロキの遺体を探してるのかな?」


「「っ!!?」」


いる筈の無い第三者の声に俺達は瞬時に反応して武器を構えた。


「心配しなくても、ボクは敵じゃないから安心して?」


再び透き通るような、それでいて何処かあどけなさの残る声が館内に響いた。

それに続く様に、今度はコツ、コツ、と階段を上る音が近付いてくる。

俺達が階段に注視していると、声の主は暫くして階段を上り終えて姿を現した。


「なっ…………、」

「……………嘘、」


俺とニーザは目を見開き動揺した。

目の前にいるのは着ている物も、髪の色も、何もかも白い少女だった。

違うのは耳に付けたと神の力、またはそれに類する力を持つ事を示す金色の瞳。


恐らくは彼女がアリスの言う少女、シギュンだろう。

しかし、俺達が動揺した理由はそこではない。

何故なら、ここにいる人物が


「お………前……、」

「ウソ……、なんで………。」


俺は有り得ない出来事に動揺を隠せないでいるし、ニーザに至ってはボロボロと大粒の涙をその赤い瞳から流していた。

そんな俺達を見て、は困った様な笑みを浮かべた。


2000でもね、再会を喜んでいる暇は無いんだ。」

「………どういう事だ。」


そこでシギュンはその顔を真剣な物に変えて口を開いた。


「マグジールと、君達の言う鎧の魔族が動き出した。彼らの目指す先は天蓋の大樹の最上層……。そこに戯神・ロキの遺体が封印されている。フェンリル達は気付いて、既に現地に向かっているはずだよ。君達も早く。」


彼女は手短に告げて転移魔法陣を起動した。

早く行けという事だろう。

俺はまだ泣いているニーザの手を引いて転移魔法陣の中心部に移動した。

転移魔法陣が起動を始めるが、転移までは僅かだが時間がある。

俺はシギュンを見た。


「……ちゃんと説明してくれるんだろうな?」

「心配しなくても、龍脈で身体を回復させてから君達のところに行くよ。ファルゼア城でいいんだよね?」


やはり無理をして転移魔法を使っていたらしい。苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、青褪めた顔のシギュンを見て「そうだ。」と返した。


「無理はするなよ。後で……、必ずだ!」

「分かってる。ボクも話さなきゃいけない事があるし、やらなきゃならない事が沢山ある。それまでは死ねないさ。だから……また後で。」


無理に笑うシギュンの言葉を最後に、俺とニーザは転移魔法で飛ばされた。




―――――――――――――――――――――


第2章「超大型神器・遺跡図書館トート」・完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る