第11話「遺跡図書館トート・後編」
「トート。最初に攻め込んだ質問をする。裏にいるのはハルモニアの神か?」
「違う、と言っておこう。ギリギリの解答にはなるが、神ではある。」
敢えてハルモニアの、と強調した質問に、仮面の奥の双眸を細めてトートはぼかしながら答えた。
どうやらここまでは問題ない様である。
ここからは遠回しに軽めな質問をしていき、重要な質問を最後にしていくか……。
「この件に2000年前のファルゼア王国はどこまで絡んでいる。」
「全くと言っていい程、関係ない。あるとすれば、勇者……マグジール・ブレント一行が戯神・ロキを殺害した事だけだ。」
「……次。大規模侵攻後、ヴォルフラムはどうなった。」
一瞬、ロキを殺したのは本当にマグジール達か聞こうとも思ったが、誰がどう見てもアレは奴らの仕業だし、ここでエラーを貰ってまで聞く様な事ではない。
なので、ヴォルフラムのその後の事を聞くことにした。
「死んだ。正確には暗殺された。」
「暗殺?」
「暗殺者は勇者マグジール。彼はヴォルフラムを殺害したその場で、護衛の兵士に串刺しにされて殺された。因みに言うが、これも君達が追っている事柄とは関係が無い。」
俺とニーザは驚いた顔をしてトートを見た。
当たり前だが、嘘を言っている顔ではない。
何故奴が……?とも思ったが、本題はそこではない。
開示情報制限がかかっている以上、大した話は聞けないが、どうにか聞ける情報は手に入れておくに越したことはない。
少し考えて2つ、俺はある事を聞くことにした。
「裏にいる奴は2000年前から動こうとしていた。」
「そうだ。」
トートは短く答えた。恐らくだが、これもギリギリなのだろう。
続いてもう1つ。
「2000年も経ってマグジールが出てきて、魔族がおかしくなったのは、俺が大龍脈を破壊した事に関係はあるか?」
リスクを承知での質問だし、下手をすればエラー案件だ。
俺はトートから視線を外さず、じっと見つめる。
「………ある。お前が大龍脈を破壊した結果、ある事が起きた。」
「……そうか。」
再びぼかして、ぎこちなくトートが答えた。
恐らく無理をしてくれている。
予想は当たった。
ここに来て、裏にいるのが神だというのが確定した。
しかし、それはハルモニアの神ではなく別の……、何処かの神……。
そんな強大な存在が2000年前前から動こうとし、動かなかった。いや……動けなかった。
あの時、俺がバニシング・フィールドで大龍脈を破壊した事で、裏に潜む神は活動出来なかった。
その原因はまだ分からない。
俺はそこで顔を上げ、トートを見た。
トートは口を緩やかに歪ませた。
「聞くつもりかな?」
「………ああ。あのマグジールと鎧の魔族を作った奴は同じか?」
「開示情報制限事項です。開示は出来ません。」
瞬間、トートは直立不動の姿勢になり、背中がゾクリと泡立つ程の無機質な声で冷たく言い放った。
最初のふざけ具合が嘘のようだ。
俺は一度、ニーザを見る。
ニーザは一度悩んだあと、頷いて無機質な顔を浮かべるトートに向き直った。
「……2つ目。元凶が完全に力を発揮できないのはこの大陸に縛られているから、かしら?」
「開示情報制限事項です。開示は出来ません。」
再び冷たい無機質な声が辺りに響く。
あと一度、それで遺跡図書館は1年間、強制停止により機能を閉ざしてしまう。
ニーザはトートに背を向けて、俺の後ろに移動した。
「アルシア。アタシは今ので聞きたいことが聞けたからいい。最後の一つはアンタが好きになさい。」
「本当にいいのか。」
「ええ、構わないわ。」
「分かった……。トート。」
「……あと一つだ。よく考えて決めろよ?」
トートはそれだけ言って不敵に笑う。
「エラーは3回まで。」
彼はわざと踏ませようとしている。
それはつまり、答えられない事が答えに他ならないから。
よく考える必要もない。俺が知りたい事は一つだけだ。
「最後の質問だ、知恵の神トート。ロキが死を選んだのは、本当にヴォルフラムに呆れていただけか?」
「開示情報制限事項です。開示は出来ません。エラーコード・00016410031、遺跡図書館トートは強制停止します。入館者は退場願います。繰り返します。エラーコード―――」
けたたましい警報音と共に無機質な声が館内に響き、次々と全ての記録媒体に魔法陣によるロックが施され、トートの映像がブツン、という音と共に消えていく。
これでここは暫くは使えなくなるだろう。
警報音が鳴り止み、何も映さない台座を俺とニーザはぼんやりと眺めるのだった。
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