第44話「特級暴走魔族ラヴァ・スライム」
神の力を纏ったラヴァ・スライムは村へと進み出した。
暴走したスライムが本能で村を破壊しようとしているのか、それとも取り込まれたマグジールの端末による意思なのか……、それは分からないが、ただ一つ分かっている事がある。
「止めるぞ!アルシア、アリス、ニーザ!あれを野放しにすればヴェルンドの村が呑み込まれる!」
「分かってる!!」
フェンリルの言葉に、俺は鎖を出しながら答えた。
………バフォロスを使えば奴を一撃で消し去れる。
それはあの厄介な神衣を纏っていても変わらない。だが、火山地帯であんな物を使えば間違いなくラヴァ・スライムを放置するよりも危険な状態になる。
奴の力を喰らうだけならともかく、バニシング・フィールドは使えない。
アダムの書を起動しようとした時だ。
「待て、汝ら!!」
フェンリルの叫ぶ声と同時に、背後から大量の魔法がスライムへと放たれた。
村にいた冒険者や、ドワーフ達による攻撃だ。
魔法はスライムの身体に直撃して、その身体を吹き飛ばして削っていく。
スライムの破片はバチャバチャと地面に落ちていった。
それを見たフェンリルが背後で舌打ちをするのが聞こえる。
明らかに厄介な事になるのが確定したからだ。
「オオオオオオオオオオオ!!」
攻撃を受けたラヴァ・スライムは再び大きな咆哮を上げた。
「効いてる……効いてるぞ!!」
「はっ!何が神の力だ、クソッタレが!俺達の力を見せて―――――」
「馬鹿野郎!攻撃するな!!」
俺は彼らに怒声を浴びせた。だが、彼等は何の事か分からないとばかりに首を捻る。
クソ、ドワーフまで平和ボケしていたか!
「小僧、一体何言って………え?」
異変はすぐに起きた。
本体から抉られ、地面にばら撒かれたラヴァ・スライムの破片がひとりでに蠢き、小さなラヴァ・スライムへと変わっていったからだ。
特級スライムが持つ特性に、分裂という物がある。
その名称通り、その肉体を切り離して、新たなスライムとして誕生させる能力だ。
質の悪い事に、本体の能力をある程度引き継いで。
慌てた冒険者やドワーフ達が魔法を撃っていくが、今度はその魔法はスライムの身体に呑まれ消えていった。
「く、くそ!魔法が効かねえ………!」
「お、落ち着けお前ら……、なら武器で……!」
混乱状態になりながら、小さなラヴァ・スライムへと殴りかかるが、そんな精神状態で、小さいとはいえ特級魔族に勝てる訳がない。
死にはしてないが、次々と返り討ちにあっていく。中には負傷者まで出ていた。
助けてはやりたい。だが………
「ちぃっ!!」
本体のラヴァ・スライムが放つ触手をインドラの雷を纏わせた鎖で消し去って迎撃していく。
先程からずっとこの繰り返しだ。
これでは救助など出来るわけがない。
フェンリルやニーザも別のポイントで散らばったスライムの迎撃にあたっているし、こちらには来れないだろう。
クロノスの力で一時的に閉じ込めるか………、そう考えた時だった。
「レゾナント・バースト。」
アリスが片手を前に突き出し、柔らかな声でその単語を紡ぎ出すと、アリスを中心に無数の光球がスライムの群れ目掛けて発射された。
それらがスライムに着弾すると、キィンッという冷たい音が響き渡ってスライムの悉くが跡形もなく消し飛んでいく。
「すまん、助かった。」
俺は一度、クロノスの空間操作で大きな障壁を作り出してラヴァ・スライムを足留めし、アリスの背後まで後退する。
「いえ。本体の足留め、ありがとうございます。アルシアさん、私は一度、彼らと一緒に村まで後退しますがいいですか?」
「頼む。奴の対処法を考えると、とてもじゃないが全員の面倒は見れん。それと、アリス。バフォロスに手を当てろ。」
「はい。」とアリスは頷いて、俺の握っているバフォロスに手を置いたので、バフォロスが食らった神力をアリスに分け与えた。
「ありがとうございます!」
「ああ。だが体力までは回復出来ない。過信せず、一旦後退したら村で少しだけ休んでくれ。その間に俺達で何とかする!」
俺がそう言いながら、空間隔離を強引に砕いて中から出てきたラヴァ・スライムに鎖を巻き付けて拘束する様を見た後、アリスはドワーフ達を連れて村へと撤退していった。
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