第45話「追加料金ちょうだい?」

「さて、コイツを倒す訳だが……、その前にニーザ、何してるんだ。」


鎖に拘束されながらも、鎖の隙間から器用にニョロリと出ようとするラヴァ・スライムの討伐手順を考えてるところで、ニーザは横にやってきて、頬をこっちに向けてきた。


「追加料金、ちょうだい?」

「空気を読め!つか代金見返り求めんのか!?」

「当たり前でしょう?せっかく頑張ったっていうのに、アルシア、1個も褒めてくれないんだもん。」


そう言ってニーザは頬をこっちに向けたまま、不機嫌そうな表情になった。

「うぐ……、」と唸りながら、助けを求めるようにフェンリルを見るが、彼女は諦めろと言いたげに首を横に振った。

この野郎、マジで丸投げする気か……!


「………戦いが終わったらな。」

「それで手を打つわ。ところでアルシア?」

「何だ?」

「私、その言葉をたくさん聞いてるけど、そのどれもが叶ってないわ。………どう責任を取るのかしら?」

「………………。」


にっこりと微笑むニーザに、俺は無言で返す。


「まさか、ほっぺにちゅーだけで済むなんて、思ってないわよね?」

「…………戦いが終わってからな。」


うん。嘘は言ってない。

だって、まだ戦いは終わらない。

目の前のコイツを倒して、まだ後に控えているであろう連中をしばき倒して、その後も俺がジジイになって引退するまで戦いが続く予定なのだ。

ほら、まったく嘘は言ってない。

まあ、そんな事は口が裂けても言えないけども。間違いなく酷い目に遭う。

しかし、そんなしょうもない考えはフェンリルには見抜かれているようで、白い目を向けられていた。


「因みにアルシア。溜まってる分の換算だけするなら、結婚式上げるくらいには溜まってるわね?」


ニーザにも気付かれていたらしい。

こちらは邪悪に笑っていた。

…………国外逃亡を図ろう。そして、俺が逃げる間に彼女にとって、代わりに良い人が現れるのを祈ろう。


そんな事を願いながら、俺は鎖の拘束からにゅるん、と抜け出てきたラヴァ・スライムに向けて、インドラの雷を向けたのだった。




◆◆◆


「オオオオオオオオオオ!」


ニーザのお約束をいつも通り誤魔化してから早10数分。

無数に伸ばされる刃物のような灼熱の触手を、俺はインドラの雷で手当たり次第消し飛ばしていく。

特級スライムが持つ再生能力は強力で、中途半端にダメージを与えれば即時再生した挙げ句、新たに眷属を生み出してしまう。


故に俺達が立てた作戦は至ってシンプルだ。

まず、俺が前衛に立ってラヴァ・スライムを単独で相手取り、その間にフェンリルが一気にスライムを凍らせて、それをニーザが破壊する。

本来であればそこまで時間のかかる作業ではないが、フェンリルもニーザも神の血を引いているとはいえ、本質的には魔族だ。


さらに、此処が本来の力を発揮できるグレイブヤードであればすぐにでも出来ることだが、彼女達はその強大な力を外で発揮出来ないようにリミッターを掛けられている。

あの大きさのラヴァ・スライムを神術で一撃で芯まで凍らせて消し去るには、どうしても時間がいるのだ。

それに、権能で概念さえも凍らせてしまうフェンリルと言えど、神力を纏ったラヴァ・スライムの身体を凍らせるとなると、そこから更に力を練る必要がある。


体力はまだあるが、アダムの書を通じて神力に変換されていく魔力がゴリゴリ削られていくので、バフォロスも抜き放ち、纏っている神力を奪い取ってから、そのまま再度雷撃を見舞っていく。

特級スライムは特級魔族の中でも、その性質上、上位に入る強さだ。

いい加減止められはているが奥の手を使うか……と準備を始めた時、念話が響いた。


『フェンリルさん、ニーザちゃん、アルシアさん、今そっちまで飛びます!!』


アリスの声だった。だが………




飛ぶって、何だ?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る