第27話「封印の真実・後編」

丸一日の作業の後、大龍脈の応急処置は終了し、龍脈もフェンリルとフレスが魔法と権能をフルに酷使する事で――ついでに土砂や瓦礫などを運ぶ肉体作業もこなし――無事、元の機能を取り戻した。

そして、龍脈を見事修復した肝心の高位魔族2人はと言うと……


「高位魔族に土木作業をさせる人間など、生まれてこの方、見たことも聞いたことも無いわ……。」

「全くだ……。アルシア、君は魔界の歴史には名を残すかもしれんぞ?」


大規模侵攻を止めた挙げ句、龍脈の修復という土木作業などやらされてヘトヘトになったフェンリルとフレスは嫌味を隠すことなく、息も絶え絶えに俺をさっきから罵倒していた。


「………いやー。」

「褒めておらんわ馬鹿者!!!」」

「ぎゃあああ!?」


冗談で照れ隠しに微笑んだのはいいが、遂に怒りが頂点に達した2人によって袋叩きにされて悲鳴をあげる。

因みにニーザはニーザで、バフォロスに繋いだ魔力供給用の鎖に齧りついて、潰れながら魔力の補給をしていた。

それでいいのか、自称レディー。


「まったく………。それで、そっちはどうじゃ、ニーザ?」


俺をひとしきりボコボコにしたフェンリルは、大龍脈の修復状態を聞くべくニーザに問いかけ、ニーザも気怠げに「んー……。」と頭を上げた。


「取り敢えず……、応急処置は済んだわ。放っておいても一年は平気。けど、このバカチン。バニシングフィールドなんかぶっ放した時にまで使ってるから、神界との接続はズタズタ、大龍脈を完全に直さないとどうしようもないわ。」


「さすがに放置出来ないもんなー……」と、一度口から離した鎖を再度齧り直して、ニーザはまた地面に突っ伏した。だから、それでいいのか自称レディー。


「……それで、妾達に袋叩きにされた汝は何をしておるのじゃ?」


フェンリルはボコボコのボロボロにされた俺がある魔法を展開してる様を見て、呆れた様に聞いてきた。


「何って、見れば分かるだろ。大龍脈の修復専用魔法を組んでるんだ。さっき応急処置した時に必要な情報は割り出した。………と、あとはこことここを組んで、ここは変えて……。」

「だから、それでなんで汝が使う予定の冬眠魔法でそれを組み直しているのかと聞いている。」

「勿論、俺がこれに入って大龍脈の修復をするからだ。」

「………何を言ってるのか本当に分かっておるのか?」

「勿論だ。お前らからしたら忘れ去るくらい短い付き合いかもしれんが、俺は目茶苦茶楽しかった。ありがとうな。」


しれっと答えて腰から下げたアダムの書も用意する。大体の準備は出来た。

あとは魔法陣に入って起動の手順を……というところで手首を掴まれた。ニーザだった。


「アンタ……。分からない訳ないわよね?そんな事をすればアンタは……」

「ああ。たぶん生きて帰って来れないし、出て来れても1000年ちょいはかかる。俺は自分を修復制御用の回路にするだけだ。その間、のんびり寝る事にするよ。」

「……駄目よ。消し飛ばしたのはたしかにアンタだけど、あそこであの数の暴走魔族を吹き飛ばしてなければ、それこそ人間は絶滅してたわ。大龍脈はアタシ達で何とかしてもいい。だから……」

「駄目だ。」


その申し出に、俺は強い言葉で拒絶した。

黒髪の竜の少女はそこで初めて怒りを露わにした。


「なんで!アタシ達でやるって言ってるんだから、アンタは何もしなくていいって言ってるでしょ!!」

「人間が……、俺達がロキを殺して、危うく世界を滅ぼしかけた。たとえ、それを俺がやった訳じゃないと分かっていても、それを無視して、のうのうと生きる事は俺には出来ないよ。」


それに、今回の件でファルゼア王国には完全に愛想が尽きた。なんなら今から乗り込んで、ヴォルフラム含めて滅ぼしたいくらいには。

ただ、さすがにそれをする訳にはいかないので、何だかんだ優しい黒髪の竜の少女に「ありがとうな。」と礼を言い、掴まれた手を空いてる方の手で離してまた魔法陣へと歩き出そうとするが、再び呼び止められる。


「アンタが修復用の回路になるとして、炉心はどうするのよ?言っておくけど、アルシアがどんなに強かろうが、それで代わりになる訳……」

「コイツらを使う。コレなら問題ない。」


俺はバフォロスと鎖、手元のアダムの書を見せた。

修復用の回路になると言っても、俺一人では無理だ。炉心なんて論外である。

だから、回路の延長としてバフォロスと鎖を大龍脈に繋ぎ、俺はそのコントロールと、アダムの書を使って炉心の役割をする。


神器、魔装具はどちらも特殊な生まれだ。

時間の経過と共にその存在を強固にする関係上、何をしても壊れる心配もない。

「これで文句ないだろう?」とニーザ達を見るが、彼女達は何故か今度は呆れた顔をしていた。


「………何だよ。」

「……アルシアが本気なのは分かったし、それならたしかに出来なくはないわ。その上で聞くけど、アダムの書は意思なんか持ってないから、命令式無しで炉心にはならないわよ。アンタ、大龍脈の修復なんて大作業しながら、アダムの書の命令式なんか維持できるの?」

「………………………あ。」


俺の今気付きましたという反応に、3人揃って大きな溜め息を吐いた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る