第21話「暴食の斬波」
「ぐっ………おのれ!」
先程の大雪崩に呑まれて、スノーゴーレムは一匹もいない。
俺はバフォロスを片手で構えて、今度は俺から斬り掛かった。
身体強化を掛けてる腕に更に魔力を上乗せして、俺はバフォロスを軽々と片手でマグジールの剣に叩き付ける。
砕くつもりでぶつけたが、それなりの材質の剣なのだろう。問題なく持ち堪えると、バフォロスを払いのけて、俺目掛けて突きを放ってきた。
俺はそれを身体を逸らして避けたあと、剣を握ってる腕を掴んで、その身体を雪の上に叩き付けた。
「ぐぅっ!?」
奴の短い悲鳴が聞こえるが、構わずバフォロスを奴の身体目掛けて叩きつけようとするが、すんでの所で横に転がって避けたあと、後方へと飛んで距離を取られてしまう。
追撃で鎖を何本か放つが、それも弾き落とされるか躱されるかして、ダメージは無しだ。
「………魔法は使わないのか。使えるんだろう?」
「見たいなら見せてやるよ、来い。」
俺は挑発するように片手で来い、と挑発をすると怒りに顔を歪めて、マグジールは俺目掛けて距離を詰めてきた。
ヤツの操る双剣を、バフォロスを片手で振り回して次々と払っていく。
そして打ち合いの末、マグジールのショートソードが真ん中から砕け散った。
俺はその隙を逃がす訳も無く、両手で握って全力でマグジール目掛けてバフォロスを振り下ろす。
だが、流石に元勇者だけあるのか、奴も両手でロングソードを構えて、バフォロスの重たい一撃をギリギリで食い止めた。
「………、さっきまでは手を抜いてたのかっ?!」
「魔法が見たいんだろ?なら、《今目の前で見せてやるよ》。」
「っ!?」
一気に膨れ上がったバフォロスの気配を察して、マグジールはバフォロスを強引に押し退けて距離を取った。
しかし、俺は奴が距離を離しても構わず、その場で一気に愛刀を力任せに振り抜いた。
その直後……
「ぐあぁぁあああっ!?」
奴のロングソードを持っていた腕が宙を舞い、俺達の間に落ちた。
マグジールは切り裂かれた腕を見たあと、荒い息を整えながら驚愕に見開かれた目で俺を見る。
バフォロスの放った斬撃は、マグジールの背後の雪に覆われた地面を遠くまで深々と抉っていた。
「こんな事……先程の分身とは訳が違う………。」
「ああ。いくら何でもこの規模の魔法は俺だけで、ここでは出来ない。」
「ならば、どうして!?」
聞いてばかりのマグジールに、今度は俺が心底呆れたように溜め息を吐いた。
「質問だらけだな………、簡単な事だ。自分の魔力を使って出来ないなら、湧き上がってる龍脈の力を使えばいい。」
俺はバフォロスの力で吹き荒れる龍脈の魔力を刀身に集めた。
極上の魔力を喰らえてご機嫌らしいバフォロスは、先程からガタガタとその身を揺らしている。
俺はそれに応えるように頭上で魔力を集めるように振り回すと、どんどんとバフォロスに喰われ、禍々しい光が刀身を覆った。
「あ、あ………」
「これで3割だ。上手く受け止めろよ。」
「ま、待て!お前達は、僕達みたいな魔族を追っているんだろう?なら、ここで僕を殺せば手掛かりなど……!」
だが、俺はそんな命乞いを無視して、バフォロスを上段に構えた。
高密度の刃が龍脈に掻き消されては喰い返し、生き物のように暴れ狂う。
「お前の猿芝居には飽きたよ。そこにいるお前は特殊な魔道具で意識を共有してるだけの人形だ。お人形遊びをまだやりたいなら、幼稚園でやってくるんだな。」
目の前にいるマグジールが人形……端末体なのは爆弾人形の俺がいたぶられている間に気付いている。加えて元凶では無い事もここでのやり取りで確定した。
たとえこの人形を生かしたところで、メリットなどは全く無いだろう。
俺はマグジールの言葉を待つことなく、バフォロスを振り下ろした。
荒れ狂う獣の刃が大地を、吹雪の幕を、敵を斬り刻んで遥か先の空の彼方へと伸びていく。
最後にはその刃の奔流さえも跡形もなく消えていき、雪山は再び雪の幕に覆われていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます