第20話「焔の分け身」

「………呆気ないな。終わりだアルシア。せめて、僕の手で消えるんだ。」


心臓を貫いた剣を黒マントは引き抜き、俺を両断するべく構えようとした時だった。


。」

。」


先程の苦しげな姿など嘘のように、俺はその口元を邪悪に歪めて、奴の身体を雁字搦めに固定した。


「何!?」


突然の事で驚いた奴は巻き付いた鎖を剣で斬ろうとするが、たかだかあんなナマクラに切れる様なヤワな鎖ではない。

俺の身体は醜く膨れ上ると、大きな光を放った後に大爆発を起こした。




◆◆◆


数分後………。

爆発の影響で起きた大雪崩を元の姿に戻って回避したフレスは、雪崩が収まると同タイミングで再び人間の姿になって着地した。

そして、彼の足元の雪がモコモコと蠢き………、俺はそこから姿を現した。


「ふぅーー………、寒いし雪まみれになるし、痛いし埋まるしで、ロクな目に合わねえよ……。」

「嫌ならあんな三文芝居をしなければ良かったろう。付き合わされる身にもなって欲しいものだ。」


フレスが不満げにそんな事を言ってくるので、宥めるように俺は両掌を向けた。

芝居の為に痛覚まで擬似的に繋げたのだ。それくらいは許してほしいところである。


「まあまあ、いいじゃねえか。強化魔族の原因ではないが、強化魔族の関係者に出会えたんだから。そうだろ、?」


そこで俺は、身体に付いた雪をバシバシと叩いて払いながら、少し離れた位置で全身を爆炎で焼かれて息も絶え絶えになった男………、嘗て大規模侵攻を起こした元凶であるマグジールを睨みつける。


「………何故だ。」

「ん?」

「何故、ここで魔法が使えるか聞いているんだ!!」


全身を焼かれ、しかも俺に謀られたマグジールは割れた仮面を投げ捨て、怒りを隠しもせずに喚いた。

仮面の下の顔は間違いなく2000年前、同じ国にいて、勇者として活躍していた男、マグジールの物だった。

やはり、素人だな……。

そんな事を思いながら、俺は……、いや俺達魔導師ならば誰でも言うセリフを口にする。


「俺は魔導師だ。魔導師なら、どんな状況でも魔法が使える様に立ち回らなければならない。」

「ここでは魔法は意味を為さないのに、どうやって!!」


尚も喧しく喚き立てるので、俺は種明かしをする事にした。

手に巻きつけた鎖を自分の隣の何も無い空間に少しだけ投げ付けて、術式を組む。

すると、俺そっくりの爆発性の人形が出来上がった。


「こいつに俺は鎖を仕込んで操っていた。お前に背中を見られないように立ち回って、両断されて落ちてきた下半身も気付かれないように鎖を雪の中から伸ばして維持してな。」

「馬鹿な………あんな分身。ここでは維持できないはず………!?」

「頭を使えよ勇者。種明かしはここまでだ。」


たしかに、ここでは殆どの魔法は掻き消される。この分身も同様だ。


例えば、さっきの分身も一度出しただけでは徐々に掻き消されてしまう。だから、気付かれないように出力を調整しつつ、あの分身を鎖を介して何度も重なる様に作り続けていただけだ。

下半身だけは両断されて落ちてくるまでは魔眼で直視して維持する必要はあったのだが……

端から見たらただそこに分身が一つある様に見えるが、実際は複数の分身があそこに立ち続けていたのだ。

しかも、怪しまれない様にわざわざ斬られる痛みを共有してまで。

入れ替わったのは、俺がバフォロスを地面に突き立てて盾にしたあの瞬間だ。

その時から、俺は普段以上に魔力を消費して罠を張っていたのだ。


「お前の言う通りだよ、俺はさっきみたいに鎖を巻き付けたバフォロスを投げ付けて、その隙に殴りかかるような姑息な人間だ。だがな………。」


一度言葉を切って、尚も挑む気でいるマグジール相手に、こちらも挑む様にバフォロスを突き付けた。


「お前みたいに周りに言われるがまま、何も考えずに世界を滅ぼしかけるような愚か者に負けるほど、俺は弱くもねえんだよ。」

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