第19話「災い起こしは雪山に散る」
「がっ………!?」
「気付いていないと思ったか?その鬱陶しい大剣を鎖と結び付けて投げつけ、出来た隙を狙って仕留めにくる戦い方など、見てきた者からすれば容易に想像出来るわ。」
「なん、で……知って、る。」
腹から下、両断された下半身が自分の近く落ちる音を聞きながら、あり得ない事に驚いて聞き返す。
見てきたとは、どういう事だと。
しかし、答えるつもりは無いのか、奴はわざとらしく肩を落として、その画面に覆われた顔を俺に向けた。
心底呆れた表情をしてるのが、仮面越しでも分かる。
そのまま奴はこちらにゆっくりと歩いてきた。
トドメを刺すつもりだろう。
俺は立とうにも身体を半分失った以上、それをする事すら許されない。
「ガッカリだよ。災い起こしだのと呼ばれた君が、こんなにも呆気なく僕に殺されるなんて……。こんな奴に今まで僕は劣等感を抱いていたのかと。」
「なんの…………」
「知らないのも無理はない!」
黒マントは本当に俺が憎くて堪らないのか、俺の上半身から少し遠く離れた場所に落ちた下半身まで近付くと、修復すら不可能なレベルにまで細切れにした。
これでは、もう修復して身体に繋げる事など出来ないだろう。
「アルシアッ!!」
こちらの危機に気付いたフレスが、珍しく感情を顕わに何とかコチラに駆けようとするも、強さは大したことは無いが、数だけはいるスノーゴーレムに進路を阻まれ、近づけないでいる。
「邪魔をするなぁっ!!!」
余程苛立っているのか、フレスは群れを為すゴーレム達を乱暴に砕くようにその刃を振っていく。
その姿には、先程までの余裕も、流麗さも無かった。
「……見えるかアルシア?あのフレスベルグのザマを?斬翼、斬将などと呼ばれ、魔族風情が人間の真似をして剣術など……道化と呼ぶ他あるまいよ。滑稽すぎて笑う事すら出来やしない。」
「てめ……ぐっ!?」
「黙れよ、アルシア。」
再び歩み寄ってきた黒マントに右肩を貫かれて、吐きかけた言葉を飲み込む。
「災い起こし、王国最強などと呼ばれたお前のせいで、僕らがどれだけ惨めな想いをしたと思っている?そんなお前は、魔族などと仲良く身を寄せ合って、挙げ句の果てに僕らに牙を剥くなど!」
先程貫いた箇所を、乱暴に剣で斬り裂かれた。
肩から先の感覚が喪失し、代わりに凄まじい激痛が襲う。
悲鳴を上げようにも、最早そんな声すら出ない。
「だが……今は僕が見下ろしている。あの時、僕をゴミを見るような目で見たお前をな!!………不様だな、アルシア・ラグド?」
心底愉快そうな声を出しながら、黒マントはその剣を今度は俺の心臓に向けた。
せめて、フレスに伝わるように、やつの口から言わせなければ………
「なら、やはり………お前は……………。」
だが、ここまでしか口にできない。口から血が溢れて何も言えないのだ。
「………その通り。分かったなら死ね!」
その言葉と同時に、俺の心臓は黒マントに貫かれた。
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