第8話「アリスVSニーズヘッグ・2」
俺が観客席に移ってから数分後。
最初に動いたのは杖を2本持ったアリスだった。
何故2本も?と思ったのだが、アリスはそれを頭上で交差するように構えて魔法を発動した。
「ホーリーストームか……。杖を2本も出して使ってるのはコントロールに難があるからか?」
ホーリーストームは光魔法では最上級クラスに入る。光の粒子で生み出した暴風と爆雷を混ぜ合わせて射線上にある物を消し飛ばす魔法だ。
あの年齢でそんな物を使えるのは大した物だが、コントロールが難しい魔法であるのは間違いないので、だから杖2本で制御してるのだろうと、この時までは思っていた。
そう、思っていたのだ。
アリスは杖2本を重ねて横薙ぎに振り抜いて、構築したホーリーストームをニーザ目掛けて放った。
杖2本は魔法に耐えきれなくなって、アリスの手元で砕けていく。
放った魔法はたしかにホーリーストームだったが、問題はその威力だった。
アリスの放ったホーリーストームは通常の倍の威力、倍の広範囲で展開され、闘技場の床を抉り、その瓦礫を更に砕きながら竜巻となってニーザに突っ込んでいった。
竜巻の向こうから「ちょっと!マジで!?」と本気で慌てたニーザの声が辛うじて聞こえるのと同時に、ホーリーストームはその場で留まって闘技場の床どころか、待機室や壁を凄まじい勢いで砕いていき、暫くして霧散していった。
「「「…………………。」」」
初撃で放たれた魔法の威力を見て、観客席に重たい沈黙が訪れ……どうしてくれるんだ、と言わんがばかりにフリードが引き攣った笑みで俺を見た。
隣を見るとフェンリルもフェンリルであまり見せない様な面白い顔で闘技場の惨状を見ているし、フレスも呆気に取られたような顔で煙が上がっているニーザのいるであろう場所を見ていた。
(さすがに死んでないよな……?)
と、心配して俺もフレスの見ている場所を見ると、煙の中から脱出する様にニーザが出てきた。見ると、あちこち焦げている。
涙目にはなってるが、竜でもあるニーザには幸い、そこまでダメージは入ってないようでちょっとだけホッとした。
しかし、そんな俺を嘲笑うかのように地上から光の刃が回転しながら2枚、ニーザへと襲いかかった。
「くっ!?」
ニーザは飛んできた1つ目をメイスで弾き飛ばし、2つ目を足で蹴り飛ばしてから、地上へと着地した。
俺はニーザが着地したのを確認してからニーザが弾き飛ばした2つの飛来物を確認すると、それは先程持ち手の部分から折れてしまった杖の先の部分だった。
魔力の残滓を調べると、それは初級魔法のフォトンだ。
ニーザの方を見ていたので詳しくは分からないが、恐らくアリスは初撃でホーリーストームを撃った後、折れてしまった杖でフォトンを刃状に展開して、ブーメランの要領で投げつけたのだろう。
「…………なるほど。たしかに、プリーストとしての戦い方はヘタだな……。」
俺は引き攣った笑みを浮かべたまま、呟いた。
アレはどう見てもプリーストの戦いではない。
どころか、2,000年前の世界でもあんな戦い方をするプリーストは見た事が無いし、下手をすれば当時の下手な冒険者や騎士より強いのではないだろうか。
現に、アリスは今度は杖を一本取り出して、若干引き気味なニーザに走りながら中級魔法のフォトンウェーブを準備して突っ込んでいく。
「プリーストがそんな簡単に前に出るもんじゃないっての!」
「フォトンウェーブ!」
「いやあぁぁああ!?」
アリスはニーザの尤もらしい指摘を聞きながらも、振り下ろされたメイスを杖で受け止めて、そのまま零距離で用意したフォトンウェーブを発動してニーズを吹っ飛ばした。
「は、ははは……」
うん、もう乾いた笑いしか出なかった。
正直、ニーザに交代してラッキーだったかもしれない。
勝ち負けは別にして、アレは普通に怖い。
ディートリヒ達を見ると、今までここまで持ち堪える相手が居なかったのだろう。
完全にドン引きしていた。
「ちょ、ちょっと真面目にやらないとヤバいかも……行くわよ!」
ニーザも流石にまずいと感じたらしく、土魔法を発動して岩の弾丸を作り出すと、それらを撃ち出した。
手加減してるし、戦闘中は身体強化を掛けるのがセオリーだから、アレで怪我をする事はないだろう。
しかし、アリスは壊れた杖を捨てて再度新しい杖を2本取り出すと、最初の1本目で中級魔法のフォトン・ブラストを複数撃ち込んでそれらを破壊したあと、迎撃しきれなかった残りの弾丸を、残りの1本の杖の先端に刃状に形態を変えたフォトンを纏わせて、それらを斬り裂きながらニーザに斬り掛かった。
ニーザも流石に慣れてきたらしく、今度は普通にそれをメイスで受け止めた。だが………
アリスは身体強化を杖を持った左腕に集中させてニーザの筋力に対抗しつつ、収納魔法に仕舞っていた魔銃を取り出して、至近距離から連射していく。
「ちょっと待った!アンタ、プリーストじゃなくてバーサーカーか何かの間違いじゃないの?!」
ニーザは着弾しては爆発する魔弾から、翼を広げて自身の身体を守りつつ、少しだけ後退した。
だが、どうにもニーザの言葉がアリス的にはお気に召さなかったらしい。
「誰がバーサーカーですか!!」
「みぎゃああ!?」
怒ったアリスは魔銃を仕舞ったあと、設置型の地雷魔道具を点火してそのままニーザに投げつけて爆発させた。
呆然としつつ、俺はディートリヒとフリードに声を掛ける。
「………先生、フリード。彼女は昔からあの戦い方なのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます