第6話「アリスVSアルシア?」

「アリス。」

「は、はい……」

「俺と戦ってくれ。」


その言葉に、ノーデン達は驚いた様にざわついた。

ただ、フェンリルだけは何かを察したらしく、黙って俺とアリスを見ている。


「アルシア殿!何故彼女と……!?」

「そうです。アリスは弱くはありませんが、アルシア殿相手では……!」


ノーデンとディートリヒが勘違いして必死に止めてくるので、それを苦笑しながら手で制す。


「勿論、本気じゃないよ。どうしても気になる事があるんだ。だから腕試しと思ってくれて構わない。」

「よく分からないですけど……私でいいんですか?」

「アリスでなければ駄目だ。勿論、アリスは本気で。殺しに来るつもりでやってくれ。」

「……分かりました。アルシアさん、よろしくお願いします。」


そう言うと、俺が止めるつもりが無いのが分かったのか、アリスは真っ直ぐ俺を見つめて頷いた。




◆◆◆


あの後、ノーデンはすぐに城の敷地内にある闘技場を使える様に手配してくれたので、俺とアリスはその広い舞台で相対していた。


フェンリルやディートリヒ、話が終わったらしいフリード達も観客席の方からこちらを見ている。 


「アリス。俺はアーティファクトは使わずに通常の魔法と魔眼しか使わない。本気で来るんだ。」

「い、良いんですか?」

「全力だ。」


いざ相対すると、アリスが遠慮がちに聞いてくるので、遠慮なくやれと言わんばかりに返す。

アリスがそれに答えるように杖を構えて、その後何故か呆気に取られたように固まった。


「あ、アルシアさん、左………!」

「……?ひだり………」

「アルシア、邪魔よ。」

「げふっ!?」


アリスに言われるまま左を見ると、顔面目掛けてヒールを履いた足裏が飛んできて、そのまま為すすべも無く吹っ飛ばされた。

「アルシアさん!?」と心配する様な声が聞こえてきたが、その声に大丈夫だと手を上げて返し、こんな事をしてくるちんちくりんを睨みつける。


「何しやがんだ!!」

「邪魔よアルシア。アタシが代わりにやるわ。」

「え………っ。」


俺を蹴飛ばして乱入してきたニーザの言葉を聞いて、アリスがさっと青褪めた。

いきなり高位魔族にそんな事を言われれば誰だってそうなるだろう。


「何言ってんだ!アリスを殺す気か!!」

「心配しなくても、ちゃんとフリードとフェンリル、フレスからは許可取ってるし、手加減もするわよ。………あの子の強さからして、1割……出しても2割くらいかしら?」


ニーザの放つ魔力の圧が目に見えて減っていく。

どうやら本気らしい。

本当にいいのか、と観客席のフリードを見るとニッコリと頷いていた。


「あのね……。こんなしょうもない事で人間殺してみなさい?ロキが化けて出てくるわよ?」

「………何だろう。それを言われると本当にそうなる気がする。」


俺がロキの頭を引っ叩こうが玉座で寝ようが彼は大抵は笑って済ませるが、高位魔族が人間に危害を加える事に関しては余程の事が無い限りは許さなかったので説得力がありすぎる。


「……やり過ぎたら止めるからな。」

「心配し過ぎよ。………っていうか、あの子に何かあったら、アタシがフェンリルに殺されちゃうし……。」


急にガタガタ震え出すニーザから観客席で腕を組んでるフェンリルに目を向けると、なるほど……、たしかにあれはそういう類の目だ。

目だけで「アリスに怪我でもさせようものなら……分かるな?」と語っている。


「じゃあいいか……。アリス。コイツはたしかに脳みそお花畑だが「アンタ本当に失礼ね!?」戦いに関しては邪悪竜なんて言われてるくらい超一流だ。手加減するって言ってる以上、安心して粉々にするつもりで戦ってやれ!」

「ねえ、アルシア。一応アタシ達、友達よね?」

「うん、友達だな。」

「それなのにそんな事言う?」

「それくらいの覚悟でやらないと勝負にならないだろ?」


遠回しに「信じてるんだ」と告げると照れくさそうに「……あっそ。」とだけ返してそっぽを向かれたので、観客席まで移動しようとした時、アリスに呼び止められた。


「アルシアさん、本当にいいんですか!」


いくら高位魔族とはいえ、先程出会ったばかりの初対面の相手で、何より見た目が自分と同じか、それより幼く感じるニーザの事を気遣ってるのだろう。

それに対して、そんな気遣いはいらないと言うように大声で返す。


「構わん、俺の出番も持ってかれたんだ。ファルゼア城丸ごと消し飛ばすつもりでやれ!!」

「アンタ、自分でやらないからって適当な事抜かすんじゃないわよ!?」


「アルシア!?」と上から困惑する様なフリードの声も聞こえてくるが、この際そんな物は無視だ。


「いいんですか!?」

「全力だぁ!!」


まるで「出来るけどいいのか?」と言わんばかりに聞かれるので、先程よりも大きな声で、尚且つ先程のやり取りとまったく同じ答えで返し、身体強化を使って今度こそ観客席まで飛んだ。




観客席まで移動して正解だと知ったのは、その数分後の事だった。



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