第4話

* * *


 室内に鳴り響いた内線の呼び出し音で跳ね起きた。


「どう? 苦労してるみたいだけど」


 美月だった。いつも軽口を叩く彼女だが、からかう様子はなかった。


「バイトか?」


「10時から。そうだ、差し入れ」


 電話が切れたと思うと、ドア下の小窓が開いた。


「のど飴」


 小窓の先から声だけが聞こえてきた。


「2回連続100点とったところだ。あと1回。楽勝、楽勝!」


 空元気を出してみるが、声が引っ掛かる感じがした。美月は「喉、潰さないようにね」と言い残して、去って行った。


* * *


「これがクリアの商品。大変だったでしょう」


 受付カウンター越しに憎めない笑顔を向けてきた店長が、茶封筒を差出してきた。


 俺は喉の回復を待って、昼前に3回目の100点を出すことに成功したのだった。


「1年分の無料券だよ」


 指先で封筒の感触を確かめるが、薄っぺらい。


「他にクリアした人、いるんですか?」


「いや、まあ。ハハハハ」


 店長は頭を搔きながら、曖昧な返答をした。そもそもチャレンジをする人がいないのだろう。


「出てこられたんだ」


 ドリンクを運んで戻ってきた美月の表情は、安堵しているように見えた。


「俺の実力だ。疲れたんで、帰って寝るわ」


 帰宅して風呂に入ってから、部屋のベッドに仰向けに倒れ込んだ。我が家が一番。そう思いながら、封筒から中身を取り出した。


「おや?」


 無料券とともに同封されていたのは、折りたたまれた白い紙。賞賛する言葉でも書いてあるのかと思い、何気なく開いてみる。


『~新たなる挑戦へのお誘い~

 人の心を揺さぶる度合いを判定する機械を開発しました

 1回でも100点を採れば――』


 ゲームは勘弁……とは思わなかった。なぜなら景品が、喉から手が出るほど欲しい『烈火の翼 ライブDVD 初版』だったからだ。


 1000枚しか製造されていない、初版のDVD。


 チラシを見ながら部屋をせわしなく歩き回った。戻るか? いや、それは得策じゃない。喉が復活しておらず、挑戦できる状態ではない。


 気持ちを落ち着かせて、その日は安静にすることにした。そして翌日、開店と同時にカラオケボックスに駆け込んだ。


「景品は本物なんですか!」


 詰め寄る俺に、カウンター越しの店長が後ずさりをした。


「もちろん。本社が調達して、奧の控室で保管してる」


「なぜ狙いすましたように、俺が好きなバンドの……」


「君なら二つ目のチャレンジに進めると思って、準備してもらっていたんだ」


「すぐに、チャレンジできるんですか?」


「君さえよければ、いつでも」


 俺は店長の目を見据えて、力強くうなづいた。

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