第2話
* * *
店長は、店の一番奥にあるドアまで俺を案内した。
「ここが特別ルーム」
「物置かと思ってた」
「予約が入ったときだけ使う、パーティールームだよ」
店長がドアを開けると自動的に電灯がオンされた。
「凄い設備」
20人ほど入れそうな部屋を囲うように、革張りのソファーが並んでいた。カラオケ設備も、いつも使っているものとは異なる。
歌詞が表示されるディスプレイのサイズは、映画が見られそうなほど大きい。
「私が出たら、ドアは中から開かなくなる」
「トイレは?」
店長が指し示した先には、2つのドアがあった。
「右がトイレ、左がシャワー。自由に使ってくれていい。あと、ドリンク、食事は自由に注文してくれていいよ。そういう企画なんで」
店長は笑顔で親指を立ててから、部屋を出て行った。外から鍵が掛かる音がする。それがスタートの合図だ。
100点を連続で3回出すだけ。時間制限はない。俺はタブレットで曲を選び始めた。
ウォーミングアップに元気が出るロック調の曲を選んだ。前奏とともに、ディスプレイに曲名が表示される。合わせて『採点を開始します』の文字も。望むところだ。
長期戦を想定する必要がある。声を張るのは避けて、一曲目を歌い終えた。
――採点結果 98点。
まあ、上出来。なぜなら、俺が得意なのは、このアーチストではないからだ。もう一曲、バラードを歌ったら喉が乾いてきたので、内線を手に取った。
「何だ、陽介か」
美月の返答はお決まりなので、何とも思わない。
「コーラと、お好み焼きに……あと、唐揚げも」
せっかくの食べ放題、飲み放題。利用しない手はない。美月は「はいはい」とつれない返答をした。
しばらくして、外からノックをする音が聞こえた。
「ドア、開けられないので」
美月の声がしたかと思うと、ドアの最下部が20センチメートルほど開いた。そこから、盆が差し入れられる。
「徹底して出られなくしてんだな」
「そういうこと。あと私、9時に帰るんでよろしく」
「ちなみに、徹夜になったらどうなるんだ?」
「深夜0時以降は誰もいなくなるよ。でも、電源は入れて帰るって。開店は朝10時。じゃあ、精々、頑張って」
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