第38話 すごくこわい話

「これは、あたしの友達が実際に体験したことなんだけどね」

「うん」


「……友達は、すごく怪談が好きだったの、それで、インターネットのコミュニティなんかにも参加して、怖い話で盛り上がるのが、その子のいちばんの趣味だったわけ……それであるとき、オフ会をやろうって話になったらしいの……」

「怪談のオフ会なんて、わたしなら行けないわ。怖くて」

「……その子はネットではお喋りでも、実際に対面したら人見知りしちゃう子で、どうしようか迷ったんだけど、結局行ってみることにしたのね……」

「すごいわね、話を用意していくんでしょ?」

「……オフ会の内容はいわゆる百物語ってやつで、わかるかな? みんなで怖い話を持ち寄って、百個の怖い話をする……部屋にろうそくを百本立てて、話を終えるたびに一本ずつ吹き消して、最後のひとつが消えたとき、何か恐ろしいことが起きるってやつ……オフ会の参加者は彼女を含めて十人で、一人が十個ずつ持ち寄ることになった……彼女は周りがしらけないように、とっておきの怪談を厳選して、その場に向かったわけ……で、その現場っていうのが、街にある雑居ビルの貸し会議室だったのね、参加者の一人がビルの持ち主と知り合いで、夜通しで貸してくれたらしいの……」

「百個も話をするなんて、何時間もかかるもんね」

「……いざ行ってみると、彼女以外の九人はもう揃ってて、パイプ椅子に車座になってて、百本のろうそくもスタンバイされてた……男は六人いて、女はその子を入れて四人………ろうそくの火を百本つけて、電気を消して、いざ会は始まった……」

「うわあ、怖い、もう怖いよわたし」

「暗い部屋で雰囲気もあるし、参加した人はみんな話し方も上手で、その子はぐんぐん引き込まれていったのね……でも、彼女にはひとつ気がかりがあったの……部屋に入ったときから感じてたらしいんだけど、なんだか、とてつもなく臭かったんだって……」




「………え?」

「腐った魚にゲロをぶっかけてぐつぐつ煮込んだあと、夏場の柔道着に染みこませてから肥だめにつけ込んだようなにおい、ってその子は言ってた……会の間もずっとにおいが気になってたらしいんだけど、雰囲気を壊しちゃいけないと思って黙ってたの……でも、あるとき、気づいちゃったのね…………隣だ、隣に座ってる男の人がおかしいんだ、この男の人が、においの発生源なんだって。そう思って、相手のことをよく見てみたの……そのとき、気づいちゃったのよ、隣にいるのは人間じゃない、うんこのかたまりだって……」




「……は?」

「人間じゃなかったのよ、うんこのかたまりだったの」

「いや……えーっと、ごめんね……何? その話」

「…それで、うんこのかたまりが、その子のことを指さして、目を見開いて叫んだの……………おまえだーっ!……って」

「……………………何が?」

「……ふふっ、ごめんね大きい声出して。どう……? 怖かった?」








「今がいちばん怖いかな」


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