第34話 母と子の語らい

「ねえママ、幽霊はほんとうにいるの?」

「いるんじゃないかしら」

「人が死んだら幽霊になるの?」

「なっちゃうことがあるかもね」

「なんで幽霊になるの?」

「この世に思い残しがあったり、誰かを恨んでたりすると幽霊になるそうよ」

「動物は幽霊になるの?」

「動物の霊ってのもいるらしいわよ」

「じゃあうちのポチも幽霊になるの? こわいよ」

「ポチがもし幽霊になっても、私たちを守ってくれる守護霊になるわよ」

「犬以外も幽霊になるの? ねこさんとか、たぬきさんとか」

「なるかもね。狐とか蛇の霊は人間に取り憑くって、聞いたことがあるわ」

「牛さんやぶたさんもなるの?」

「さあ、どうかしら」

「我々人類は日々、何万、何十万の家畜類を屠殺しているのに、むしろ幽霊にならないほうがおかしいんじゃないの?」



「………………おいしく食べているから、ならないのよ」

「それは人類側の完全な欺瞞であるし、廃棄処分される食肉も多いから今の発言は著しく妥当性を欠くうえ、その論理を採用する限りにおいて、おいしく食べさえすれば動物の権利を否定してよいという過激思想への連関可能性も萌芽するんじゃないの?」

「牛や豚の話はやめましょう」

「ねえ、幽霊がいるってたしかめられないの?」

「見える人と見えない人がいるから、難しいのよね」

「霊が見える人は世界にどれくらいいるの?」

「さあ、何百万人もいるんじゃないかしら」

「地球の人口が八十億を超えて二百近い国家がある状況で、霊が見える能力を確かめようと思えば大学等の研究機関においていくらでも実証的実験が可能であり、その結果幽霊の存在を確認できる方法もありうる以上、あとは自称霊能者の人が積極的に協力すればその真偽を確かめられるんじゃないの?」



「………………ママにはよくわからないわ」

「それから先ほど、現世に未練がある場合などの幽霊化可能性を示唆してくれたけれど、ならば戦時中の東京、沖縄、広島、長崎などにおいては相当数の死者が発生したわけで、当然幽霊の目撃件数が飛躍的に増加する結果が得られてしかるべきだけど、そうなっていないのはなぜなの? そしてお盆の時期には霊魂が帰ってくるという伝承があるのに、その時期に目撃件数増加が見られないのはなぜなの?」

「ママにはよくわからないわ」

「ねえママ、幽霊はほんとうにいるの?」

「ママはもう何もわからないわ」

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