第33話 惨事! 丑の刻参り
これは今から十年ほど前、ぼくが中学校三年の頃の話です。
当時のぼくはやんちゃ盛りで、夜遊びに出ることもしばしばでした。友だちとカラオケやボーリングに行くのが楽しくて、土曜の夜なんかは翌朝まで遊び通しってこともよくありました。夜遅くに出掛けるなって、親には決まってどやされるんだけど、怒られても怒られても、目を盗んでは夜遊びに出ていました。
ある夏休みの夜のこと。
お定まりの遊びにも飽きていたぼくは、友だちの男二人と一緒に、肝試しをしようと持ちかけました。
「別にいいけどさ」
友人の一人、Aくんが言いました。「この辺に心霊スポットなんてあるか?」
ぼくたちの街は片田舎で、森林公園や古い住宅地なんかもあったけれど、取り立てて霊の噂を聞くような地域ではありませんでした。
「あ、あの辺なんかいいんじゃないか」
別の友人、Bくんが言いました。「○○神社だったら、結構雰囲気も良さげだし」
雰囲気が良いとはつまり、肝試しに向いているという意味です。なるほど、その神社は周囲よりも高台にあって、長い階段を上らなくてはいけません。境内は森に囲まれているし、夜中に行けばさぞ恐ろしげな雰囲気が味わえそうだと思いました。
行ってみようとすぐに意見は一致し、ぼくたちは自転車を飛ばしました。
時刻は既に、深夜三時近くになっていました。辺りはしんと静まりかえっていて、境内の入り口にある鳥居からは社殿が見通せませんでした。石段のそばには明かりもなくて、暗闇の深さに怖気だったものの、二人の手前、やめようとも言えません。
「おまえからいけよ」ぼくは友人たちを促しました。
「お先、どうぞ」Bくんが手振りをします。
「びびってんのか、神社だぞ、神様が守ってくれるさ」
Aくんが先頭を切って歩き出しました。急遽の提案だったから懐中電灯もなく、携帯電話の写真撮影用ライトを頼りにして、一段一段上っていきました。昇り始めて、すぐのことでした。
「なあ、何か聞こえないか?」
Bくんがぼくの服の裾を掴んで言いました。雰囲気に飲まれて空耳でも聞いたのか、と思いきや、確かに音がしました。コーン、コーンと、何かを打ち付けるような音でした。
「おい、もしかして……」
Aくんが自分の顔の下を照らしました。「丑の刻参りじゃないか?」
「丑の刻参りって何だっけ?」Bくんがとぼけたような声で尋ねます。
「あれだよ、藁人形を木に打ち付けて、呪いをかけるんだ。白装束を着て、頭にろうそくを立てて……」
Aくんの解説を聞いたぼくは、その姿を思い浮かべて背筋が凍り付きました。
その間もなお、コーンコーンという音は続いていて、もう不吉な音にしか聞こえなくなっていました。引き返そうと言いたいけれど、Aくんは「ぜひこの目で見たい」とむしろ前のめりになっていました。びびって逃げたと言いふらされるのも癪なので、Bくんもぼくも仕方なく彼の後に続きました。
長い石段をいよいよ上り終える頃でした。ぼくたちは音のありかへと確実に近づいていました。ぼんやりと奥のほうに、朱色の光が見えました。ろうそくの明かりでした。
そしてそこには、はっきりとした人影がありました。
「あれ、女じゃないか。髪が長いぞ」「白装束だ」
AくんとBくんが囁き合います。ぼくたちはさらに近づいていきました。コーンコーンと打ち付ける音の正体は、まさしくAくんの解説どおりでした。雑木林の中で、女性と思しき人が藁人形を木に当て、金槌で打ち付けているのです。
その瞬間でした。Bくんの携帯電話が着信音を立てました。
「馬鹿っ」「何やってんだっ」
ぼくとAくんはBくんをしかり飛ばしました。
ばれたのではないかと思い、丑の刻参りの女性を見ると、相手の顔がこちらを向いていました。かっと両目を見開き、恐ろしい形相でこちらを見ていました。
ぼくは目を合わせてしまいました。
「ミィタァァァナァァァァァ!」
呪わしい叫びに足が震えてもつれました。必死で逃げ出そうとしたものの、Aくんがすぐに転んでしまいました。
「マテェェェェ!」
振り向くと金槌を持った女性がAくんの間近に迫っていました。
殺される! と思った、その瞬間でした。
女性の体があらぬ方向に転げました。
闇の中から何かが飛び出してきました。
「おまえかぁぁぁ!」
その何かが叫びました。
「おまえかぁ! 境内の林を傷つけてたのは!」
大きな男の人でした。白い服に水色の袴。神社の神主でした。
女性は神主にぼこぼこにされていました。
丑の刻参りを他人に見られると、呪いが自分に返ってくるそうです。
なるほどなあ、とひとつ勉強になった夜でした。
いいのかこんなまとめで。
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