第31話 恐怖! 殺人ゲーム

 クックックック……。

 全員、お目覚めのようだね。

 自分の置かれた状況に、大いに戸惑っていることだろう。 

 窓のないコンクリートの密室……少し寒いかもしれないが、我慢してくれたまえ。

 なあに、心配することはない。やがて全身が凍り付くような思いをするんだ。

 その程度の寒さなど、たいしたこともないよ、クックックック……。


 君たちの姿は、天井のカメラから捉えている。全員の顔がよく見えるよ。

 まあまあ、そう騒がないで、冷静になったほうがいい。

 冷静さを失えば命取りさ。

 今の言葉をよく噛みしめておきたまえ。何しろ文字通りの意味だからね。

 君たちは今、きっとこう思っている。

 ここはどこなんだ、一緒にいるこの連中は、いったい誰なんだってね。


 安心していいよ。君以外の人間が、結託しているなんてオチはない。全員が初対面のはずだ。若い男女が六人、クックック。もしもそこがお洒落なレストランであればさぞや楽しいディナーになるだろうね。あるいは常夏の島だったら、ビーチサイドで素敵な恋愛劇が見られることだろう。

 けれど、ご覧のとおり、あいにくの状況だ。

 丸いテーブルが一つと、木の椅子が六脚。殺風景で申し訳ない。音楽でも掛けようか、いや、不要だろう。いずれ君たちがレクイエムを奏でてくれる。重なり合う恐怖の悲鳴ほど、その場に似つかわしい音楽はない。


 おっと、焦ってドアを叩いても、何も得られるものはないよ。

 自動ロックの鉄のドアだ。私がスイッチを押さない限り、開くことはない。

 外に出たいと願う気持ちは察するよ。

 ああ、出してあげよう。

 ただし、そのドアから出て行けるのは、五人だけだ。

 そして、その建物から出て行けるのは、たった一人だ。 

 クックックック……。

 怯える顔というのは実に美しいね。

 だが、いつまでも怯えていても盛り上がらない。

 ここはみんなで、ゲームをしようじゃないか。


 一つのゲームにつき、一人が脱落していく。

 六人から五人、五人から四人、三人、二人、そして、一人…・…。

 五つのゲームの勝者が、自由を手にするのだ。

 約束しよう。見事生き残った栄えある勝者は、必ず解放するとね。


 ところで、君たちは先ほどから、おまえは誰だって言いたげな顔をしているね。  

 名乗るほどの者じゃない。名乗ったところでわからないだろうさ。

 少なくとも君たちの知り合いじゃない。

 私は君たちの人生になど興味はないんだよ。

 私が見たいのは、生の輝き。死に直面した人間が放つ、星よりもまばゆい輝きの瞬間さ。それを見るためにこのゲームを作り上げた、名もなき主宰者だよ。

 生は美しい。同様に、死もまた美しい。

 光の眩しさも、影の深さも、私は同等に愛しているんだ、クックックック……。

 誰が生き残るだろうね。愛の芽生えた男女二人が最後に生き残り、結局は殺し合いを演ずるなんてのも、ロマンチックだよね。あるいは男同士の友情、女同士の友情も悪くない。ただ、それは最も残酷な結末を招く。クックック、その残酷さはどんな芸術や文学をも超えるだろう。私が保証するよ、クックック。


 さて、前置きが長くなった。そろそろゲームを始めようか。

 すでにお気づきだろうけれど、テーブルの上には一丁の拳銃が置かれている。

 入っている弾は、一発だけ。ここまで言えばわかるよね。

 ロシアンルーレットさ。

 テーブルには、六等分のピザみたいに、白線が引かれているだろう。そのテーブルは、台が回転するようになっている。テーブルを回し、銃が止まった場所の哀れな一人が、自分のこめかみに向けて引き金を引くんだ。

 バンッ!

 ……と撃って、見事に脳天をぶち抜いてくれれば、あとの五人は次の部屋に進める。

 美しい自己犠牲だ。どうだろう、その役目に立候補する人がいてもいいんじゃないか? ヒーローになれるよ。……クックック、やはりいないか。


 しょげるなよ、そういうものさ。誰でも自分が可愛いからね。

 おっと、銃を手にしている男性が一人いるね。

 本物かとお疑いかな? 残念、折り紙付きの本物さ。もしかして君はこう考えているかもしれない。これで、周りの誰かを撃てばいいじゃないかって。

 クックック……それもいい。ルール違反だという気はない。

 生き残ること。それが唯一のルールだ。

 だが、このあとのことを考えているかい?

 力を合わせるゲームもある。

 投票をして、誰か一人を落とすゲームも用意している。


 ……銃を置いたね。賢明な判断だ。

 周りの人間から不信感を抱かれるのは、まったく得策じゃないよ。

 自分だけが生き残ろうと思うのも無理はないけれど、この世界は案外、逆説的にできているものだ。君たちは自分勝手に生きてきた。自分の利益を追い求め、他人を疑って生きてきただろう。でも、このゲームを生き残るためのヒントをひとつ教えておくなら、…………ん?……あ………ちょっと……待ちたまえ……待って……やめようか…・……やめてほしいんだけど………おい…………まだ、まだ説明が終わってない……うわっ!









「………生き残ることだけが、唯一のルールなんだよなあ?」


 参加者の男が、カメラ越しにこちらを睨みつけていた。男は突然銃を取って一人を撃った。目にもとまらぬ速さで残り四人の首の骨を折った。


「解放する約束だよなあ?」









 どうしよう…………いきなり全員殺しちゃったよこいつ。


 大丈夫、あのドアがある限り、決して外には………。



 あっ、ぶっ壊した!






 なんで……やばい……ここに来る!


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