第30話 突撃! 心霊インタビュー
こんにちは。閻魔通信社編集部の凶ちゃんです。
あたくしは今回、心霊スポットにいらっしゃる幽霊の方々に突撃インタビューを敢行したいと思います。物好きな生者は心霊スポットに出向いてさまざまな霊現象を求めたり、幽霊とのコンタクトを図ろうとしたりします。
けれど、なかなかうまく行かないのが実情ではないでしょうか。
そこで、霊界屈指の物好きであるあたくし凶ちゃんが、生者の皆さんに代わって、幽霊の方々とお話をしに行こうというわけです。
最初に訪れましたのは、N県にある廃病院です。
心霊スポットとして霊の目撃談が絶えず、肝試しで訪れる若者や、撮れ高を期待するユーチューバーがあとを絶たない場所です。
病気で亡くなった方はおおむね成仏していらっしゃるようですが、不慮の事故で亡くなった方や自ら命を絶った方の中には、幽霊として現世に留まる方もいるのです。
そんな幽霊が多くいるという廃病院で、あたくしはさっそく一人の霊を見つけました。
ばさばさの白髪を振り乱す、白い着物姿のおばあさんでした。
二階の女子トイレにいらっしゃいました。
「すみません、お話を伺いたいんですが」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「殺されては困ります。どうしてトイレにいらっしゃるんですか」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
「いやあ、あたくし霊界の者なんで、死にたくても死ねないんですよ」
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」
「話の通じねえババアだ」
仕方がないので、別の方にインタビューすることにしました。
三階の廊下をしばらく歩き、奥まった部屋に入ります。
手術室、という表札が床に落ちています。どうやら手術室だったようです。
中には七歳くらいの女の子がいました。
「あらお嬢ちゃん、腸を振り乱してどうしたの」
「キャハハハハハ、キャハハハ」
「お嬢ちゃん、左腕から骨が飛び出してバッキバキになってるよ」
「ウフフフフ、ウフフフフフ」
「手術室から聞こえる少女の笑い声が、肝試しをする生者のあいだで話題になってたけど、あなただったのね。何がおかしくて笑ってるの」
「キャハハ! ウフヒャハ! ヒャハハ!」
「話の通じねえガキだ」
廃病院でインタビューを続けましたが、なかなか思うようにはかどりません。
だいたい、霊には脳細胞がないわけですから、言語が通じなくても当たり前です。
でもその辺のことをつつき出すと小説にならないので、気にしないようにしましょう。
あちこちの心霊スポットに出向きましたが、地縛霊は閉鎖的なタイプの方が多いのか、あまり積極的に話をしてくれません。
H県の廃ホテルにいたある女性の霊は、ホテルの屋上から飛び降りて死んだそうです。
「どうして現世に留まってるんですか」
「この世に未練があるんです」
「未練があるにしても、この廃ホテルにいたところでうだつがあがりませんよ」
「そう言われましても」
「だいたい、自分から死んだくせにこの世に未練があるとはどういうことです。さっさと成仏したらどうですか」
気になっていた質問をぶつけると、急に奇声を発して屋上から飛び降りました。
一方で、思いがけない出会いもありました。
M県の廃中学校にいた少年の霊は、いじめを苦に首を吊って死んだそうです。
「いつまでこの中学校にいるの?」
「ぼくはぼくをいじめた奴を許さない。ここに来た奴は全員呪ってやる」
「あら、のっけからつっこみどころがエグい子ね。嫌な思い出のある学校にずっといたってしょうがないでしょ、あなたをいじめた子はきっとあなたのことなんか忘れて、すくすく育って幸せな家庭を築いてるわ」
「何だって! ぼくは中学生のうちに死んだから視野が狭いままで、世の中のそうした冷徹な現実を思案せずにずっとこの廃中学校にいたってわけか!」
「とても説明的な台詞だけれど、そのとおりよ」
あたくしは霊界スマートフォンにある霊界データベースのアプリを起動し、生者のリストを見せました。地獄庁との情報共有で、「将来地獄に行きそうなクソ生者」の一覧が表示されるのです。彼にリストを見せてあげると、いじめた相手の名前が並んでいるのを見つけました。
「君はこんなところにいちゃいけないよ!」
あたくしは言いました。
「早く相手のところに行って、呪いの力で惨殺しなさい!」
「わかったよ! ぼく頑張るよ!」
少年は一瞬で廃中学校を離れ、遠くの闇に消えました。
「………なるほど、それは面白い話ですね、ふふふ」
あたくしはA県にある廃ホテルを訪れました。
そこで女性の地縛霊に出会いました。
最初はほかの地縛霊と同じく、なかなか話をしてくれなかったのですが、あたくしが旅先で出会った少年の話をすると、楽しげに頬を緩めてくれました。
「どうしてここに地縛してるんですか」
あたくしは尋ねました。
「彼氏にふられて首を吊ったんです」
彼女は苦笑いで答えました。
「なるほど、ここでの地縛は楽しいですか」
「楽しい……うーん、居心地はいいですよ。昔のアニメの歌じゃないけど、おばけは学校も、試験も何にもない! って感じで。だらだらするの、好きなんです(笑)」
「成仏する気はないんですか」
「してもいいかなとは思ってるんですけどね、手続きとか面倒くさそうで」
「最近は代行プランとかも結構ありますよ」
「そうなんですか、へえ、そういうの疎いんですよ」
どこかとぼけたところのある可愛い女性でした。
成仏したくないわけじゃないけど、その後の人間関係も面倒くさい。
かといって、浮遊霊になって腰を落ち着けずにいるのも体裁が悪い。
特に不便もないし、地縛霊でいいか。
現代の若い地縛霊の一面が、見えたような気がしました。
「心霊写真に写りたいんですけど、結構難しいんです」
地縛中の楽しみはあるかとの質問に、彼女は笑って答えました。
「無理に写ろうとすると、なんか変顔っぽくなっちゃって。前にね、心霊写真を撮るのが上手いっていう、霊能者の人が来たんです。テレビの撮影か何かで。そしたら私のほうを見て、三十代後半の女性なんて言うんです。失礼ですよ。二十四歳で死んで、まだ三年しか経ってないのに。見当違いなこと言うものだから、帰りにその人の車を崖から落としてやりました(笑)」
明るく話す彼女も、心の中に空虚なものを抱えているのかもしれない。
そんな想像が頭をかすめたあたくしに、彼女は言いました。
「そろそろ、出て行こうかなって思ってるんです」
「ほお、それはまたどうして?」
彼女は何かを言いあぐねるように、少し黙り込みました。
誰もいない周囲の暗闇を一瞥して、ぽろりと言うのでした。
「最近、夜中に女の人の声が聞こえるんですよ。気味が悪くて。おばけでもいるんじゃないかって」
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