第20話 アマガエルと少年の神話

 その少年はある日、一匹のアマガエルを田んぼで捕まえました。


 少年はアマガエルを飼うことに決め、たいそう可愛がりました。


 アマガエルもまた、少年の寵愛に応えるように、ぱくぱくと餌を食べました。


 アマガエルは次第に、大きくなっていきました。


 初めは少年の指先に乗るほど小さかったのに、十日で掌ほどのサイズになりました。


 次の十日が経つと、両手の掌で支えねばならぬほど大きくなりました。


 次の十日が経つと、子犬ほどの大きさにまで成長しました。


 少年の家族はそれを気持ち悪がり、捨ててくるように言いましたが、少年は固い意思で飼い続けました。アマガエルは少年の庇護のもと成長を遂げ続け、やがてその目の高さは、少年と同じくらいにまでなったのでした。


 気づくと、少年の背丈を超え、育ちきった牛ほどの大きさに達しました。


 こうなると、従来の餌では賄いきれません。


 かつてのように、田んぼで捕まえた虫やミミズを与えているだけでは、まったく満足させてやれないのです。仕方がないので冷蔵庫の食材を与えるのですが、家族はたいそう怒りました。捨ててしまえと少年の部屋に押しかけました。


 そのときです。


 アマガエルは、少年の父親と兄を飲み込みました。たいへんなことになったと母親を呼び出すと、今度は母親をも飲み込みました。


 ですが、少年は不思議と、哀しく感じませんでした。


 なんとなれば、アマガエルはいつも、餌を丸呑みにするからです。父親も母親も兄も、無残にかみ砕かれることなく、アマガエルの腹に収まったのです。


 これを機に、アマガエルはさらに大きくなり、家の壁を突き破りました。


 少年は目に付いたものをことごとく、アマガエルの口に放り込みました。木の枝であれ大きな石であれ、自転車であれ家財道具であれ、とにかく放り込みました。


 そしてついに、少年は自ら、アマガエルの口の中に飛び込みました。


 少年にとって、それはとても幸せなことでした。


 アマガエルと一体化することができたのです。


 意識の中で、母親とも父親とも兄ともつながることができました。


 アマガエルはとうとう家の屋根を突き破りました。近所の家を飲み込みました。   


 林の木もすべて飲み込み、やがてはその街全体をも飲み込みました。


 こうなると、人間が手を出せる範疇ではありません。


 さらに大きな都市を、大地を、山を、日本全体を飲み込みました。


 周りの島々を、大陸を、すべての海を飲み込みました。


 地球すべてを飲み込み、この宇宙をさえ飲み込みました。


 もうおわかりでしょう。


 この宇宙は、アマガエルの腹の中。空に光る星々は皆、生命の輝きなのです。








「……それが宇宙の真理ケロ。さあ我々とともに、ケロケロ教を信仰するケロ」

中年の女性信者から渡されたパンフレットを閉じ、男は言った。

「エグい宗教が現れたな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る