第49話 後片付け

 隊員が大きな斧を振り上げ、ばぎん! とカブラギの触手の先端部分を切断する。

 断面が再生を始めようとするも、叶瀬によってすぐさま氷に覆われた。

 隊員は切り離した触手を拾い上げ、腰に装備してある瓶状の入れ物へ詰め込む。

 詰められた触手は、打ち上げられた小魚のように蠢いていた。


「カブラギはどこを潰されても動けるよう、体全体が同じ機能を有していた。だったら、わざわざ全部を持ち帰る必要はないはずだ」


 隊員はそう言って、この先端部分だけで十分だと言わんばかりに容器を覗き込む。


 一方フラムナト達レギニカは、SROFA隊員と協力し、クローンではない生身のノーヴァス・レギニカ達を捕らえて回っていた。

 いくら本物のノーヴァス・レギニカといえども、クローン体を失った状態で戦うのは多勢に無勢で、次々と無力化され捕らえられていく。

 傷だらけで縛られ船へ運ばれていく途中で、ノーヴァス・レギニカの1体がフラムナトに尋ねた。


「お前達はレギニカだろう。何故、人間の味方をする。自らの種を裏切ってまで」


 前方で歩いていたフラムナトはピタリと足を止めると、顔を半分後ろに向けて2つの目だけを彼に寄越す。


「種を裏切った意識はありませんよ。 ただ、考え方が違っていただけで」


 そう言って、彼はくるりと振り返った。

 ノーヴァス・レギニカを見上げるその目は、強い意志に満ちている。


「私は人間の価値観に感化されてしまったのです。我々レギニカが、遥か昔に捨て去ってしまった倫理観を重んじる姿勢に、憧れを抱いたのですよ。そんな小さな価値観を大事にしていきたい。そう思っただけです」


 友達を自慢するかのような口ぶりで、人間の魅力をそう語った。

 さらに、「そして……」と付け加える。


「人間は我々を、一度は疑いながらも信じてくれた。受け入れてくれた。だから私は、その信用に報いるため働いたまでですよ」

「……そうか」

 

 フラムナトの考えを聞いたノーヴァス・レギニカは、漂わせていた恨めしさを引っ込めて静かに言葉を返した。

 そしてやけに穏やかな目をして、自分がこれから連行されていく先の船を眺める。

 彼はフラムナトに、これからの行く末を尋ねた。


「俺はこれからどうなるんだ? 殺されるのか?」

「分かりませんが……殺されはしないかと」


 フラムナトが少し考えながら答えると、ノーヴァス・レギニカはほんの少しだけ口角を上げる。

 

「ならこれを機に、人間という種を理解してみるのも良いかもしれんなァ」


 そんな彼の言葉を聞いたフラムナトは、「それが良いと思います」とだけ呟いて笑みを返した。


 


 ノーヴァス・レギニカの残党を捕獲することと並行して、今回の作戦における最終工程……『船の爆破』を実行すべく、SROFA隊員達は各地に歩いては爆弾を設置していく。

 敵が既にいない状況であるため、消化試合のようにサクサクと作業が進んでいった。

 星乃はジャングルを歩きながら、一緒に行動していた美優へ尋ねる。


「カブラギさんって、やっぱり連れて帰らないままなの?」

「そうね~……結局、封じ込められたって言っても危険すぎるし。そもそも、大きすぎて船に入らないから仕方ないわ」

「そっ、かぁ」


 美優のごもっともな返事を貰い、星乃は声をくぐもらせて俯いた。

 星乃の考えている事は、彼女の態度から十分すぎるぐらいに伝わってくる。

 千帆はその態度にうんざりしたのか、舌打ちをして彼女の纏う大型戦闘機体をごつんと殴った。


「仕方ねえだろ。切り捨てなきゃならない奴が現れんのは、いつの時代でも同じだ」

「……」

 

 星乃は千帆の言葉へ同意するように……自分を納得させるように、黙って頷いた。

 そんな話をしているうちに、最後の爆弾の設置が完了したという報告が入る。

 合図によって一斉に爆弾を起動させると、30分のカウントダウンが始まった。

 爆弾のパーツが回転を始め、自動で地面に埋まっていく。


「さあ、急いで船に戻るわよ! あと30分で、ここは爆発する!」


 そう言って踵を返した美優を先頭にし、一同は船へ向かって歩き始めた。

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