第45話 打開策

 メイン操縦室で、中央のモニターを眺める烏賊田と、隔壁を挟んで同じものを眺めるフラムナトら数名のレギニカを発見する。

 樋口が「烏賊田さーん。連れてきたっす」と呼びかけると、烏賊田は顔だけをこちらに向けて頷いた。

 叶瀬達一同は、彼らが眺めるモニターの元へ駆け寄る。


「先の戦闘で記録された映像を見返していたんだ。ノーヴァス・レギニカのデータはまだ少ないからな」


 烏賊田の言うとおり、モニターの映像は隊員の誰かによる戦闘の映像であった。

 神話の生物ケンタウロスを思わせるような歪で禍々しいノーヴァス・レギニカの見た目に、レギニカ達は難色を示している。

 そんな中、フラムナトが『捕獲班』の面々へと顔を向けた。


「『捕獲班』の皆さんをお呼びしたのは、少し確かめたいことがありまして。手伝って欲しいのです」

「確かめたいこと……?」


 叶瀬が首を傾げるも、フラムナトは首を横に振る。

 代わりに、何かを企んでいるような微笑みを返した。


「それは、確かめるまで内緒です」




 フラムナト、叶瀬、星乃、美優、千帆の5人で、無音のジャングルを歩く。

 先程の戦闘を経たことによる不安と、星乃が同行している安心感とでよく分からない気分である。

 先頭を歩くフラムナトが、前を向いたまま口を開いた。


「そろそろ、ノーヴァス・レギニカが現れると思います。現れたら……少しの間、動きを止めてもらえますか?」

「えっ!?」


 そんな事を口走った彼へ、一同が思わず顔を向ける。

 と同時に植物群が激しいざわめきを放ち、木々を薙ぎ倒して、ノーヴァス・レギニカが姿を現した。


「ホントに出た!」

「1体だけか。なんだか分からんが、動きを止めればいいんだろ?」

「ええ。お願いします!」


 装備を展開しながら、一同はノーヴァス・レギニカと相対する。

 巨体を揺らして突っ込んで来たノーヴァス・レギニカの攻撃を、前に出た星乃が真正面から受け止めた。

 両腕の装甲に、ノーヴァス・レギニカが装備している鉤爪がぶつかり火花を散らす。

 その足元を、千帆が高速で駆け抜けた。


「はあっ!」


 背後に回り込み、ノーヴァス・レギニカの後脚を横一文字に切り裂こうとする。

 しかし、後脚は既に千帆へ対する迎撃の体勢を取っていた。


「っ!?」

 

 回避行動が間に合わない千帆の元へ、狙いすましたかのような後ろ蹴りが放たれる。


 がうんっ!

 だが後ろ蹴りは、千帆へ直撃することは無かった。

 千帆の前に、美優の機体が立っている。

 平たく広い盾のような形状の腕によって、割り込んできた美優が千帆を守ったのだ。


「ありがとう、ございます……」

「どーも」


 背中越しに余裕な様子で感謝を受け取ると、防御姿勢を取っていた腕で放たれた脚を掴む。

 補助アームがうなりを上げて追随し、腕4本分のパワーで後脚を引っ張った。

 がくりとバランスを崩したノーヴァス・レギニカの顔面へ、星乃の鉄拳が繰り出される。


「ゴアアッ……!!」


 拳が顔面に直撃し、ノーヴァス・レギニカは地面へ倒れ伏した

 再び立ち上がろうとするも、叶瀬が即座に凍結機能を行使し、膝が地面から離れることを許さない。

 

「どう? これでOK!?」

「十分です……!」


 星乃の呼びかけを承諾したフラムナトは、ノーヴァス・レギニカの元へ駆け寄ると、銃のような形をした妙な機械を押し当てた。

 銃から、不規則なノイズに近い音が鳴る。


「やはり」


 頷いたフラムナトが、即座に機械の引き金を引いた。

 ビィン、と糸の張るような音が立つ。

 と同時に、直前まで暴れていたノーヴァス・レギニカが白目を剥いて気を失った。

 体を押さえつけていた星乃が手を離すも、再び動き出す様子はない。


「これは一体……」

「やはりそうでした。ノーヴァス・レギニカの材料は、クローン生成されたレギニカのものですね」


 フラムナトがそれだけを一同に伝えると、気絶したノーヴァス・レギニカを放置して「船に戻りましょう」と踵を返した。



 

 フラムナトからの報告を受けた烏賊田は、物足りない顔をして頷く。


「奴らの材料がクローンなのは分かった。……だがそれによって、どんな影響が?」

「相手がクローンなら、勝算があるのです!」


 自信満々に答えたフラムナトの元へ、仲間のレギニカが樽ほどの大きさをした装置を運んできた。

 天板に様々なダイヤルやスイッチが取り付けられた、複雑な機械である。


「カブラギの船にも『ファーザー』のような装置があった時を想定して、この装置を作っていました。簡単に言えば、『クローン個体の指揮系統へジャミング波を放つ装置』です」

「クローン個体を無力化させる装置、ってわけか?」

「はい。先ほど、小型のもので無力化を確認しました」


 報告を聞いていた『駆除班』の隊員達が、「おお……」と感嘆の声を上げる。

 地上に降り立った星帯侵攻軍の時のように、クローンを一網打尽にできるとフラムナトは語った。

 それがもし成功すれば、戦況は一気に逆転する。


「希望が見えてきたな。どのくらいで実行できる?」

「それはもう、今すぐにでも」


 ガラス越しに向けられたフラムナトの持ち上がる口の端に、烏賊田も同じ表情を投げ返した。


「なら、すぐに始めよう」

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